329:だけれども

「上級回復薬」:中品質:本来、上級回復薬が精製出来るハズが無いレシピで作成された。


「鑑定」するとこんな感じに表示される。なんか足りないというか、適当というか。後付けで加えられたフレーバーテキストというか。語尾が若干乱暴だし。


 アレだ、材料は深淵の森の奥の魔物、ドラゴン素材を適度に使用している。勿体ない使い方かもしれないが、誰からも文句は出ないだろう。俺が取ってきたんだし。どう使おうといいよな。


 多分、正統な「上級回復薬」のレシピは錬金術のレベルがもうちょい上がれば降ってくるんだろうけどね。


「これは~な、に~?」


 淡く光る液体が飲み干されていく。ポーションの液量は通常の栄養ドリンクの半分くらいだろうか。上級は結構作れる量が限られてくるみたいで、あまり量はない。


「おいし~……特製ポーションよりおいし~。あ……すごい~なんいうか~力が~沸いてくるというか~」


 既に効果の程はエルフ達で効果実験済みだ。怪我や大きな傷も癒やしたこの回復薬だが……うーん。

 傷には……ん? なんとなく……もの凄く微少だけど……傷痕が縮んでいる? 表層部分が癒えて無いだけで……内面、内側はそれなりに癒えてるのか? 


 そりゃそうか。アレだけ劇的な治癒が可能なんだ。効果がない無いワケがないよな。

 いくら作成方法が俺オリジナルで謎でも、上級はダテじゃない。


「……多少、効果はあったようです。さらに……これを……表層から塗り込めば、効果があるかと思います。傷痕は……顔から太腿まで……と仰ってましたね。それではマスクをお取りしますので、御自身で塗り込んでいただけますか? 私は外に出ております」


「……」


「副団長閣下?」


「閣下~じゃないし~その~やって?」


「やって?」


「そう~。やって、ください」


「……」


 今度はこっちが黙るわ。どういう意味?



  というか、本当は、ここで二日間くらい滞在してもらって、何も無かったことにしてしまえばいいかなと思ってたから、わざわざ地下室を新造したのに。


 こんなことなら、工房に案内して、森下、松戸に面倒を見てももらえば楽だったろ。こりゃ。


 というか、今から連れてくか……シロに案内してもらえば、工房まで地下を掘り進むのもそれほど無茶じゃ無いし……。


「秘伝の薬や技は~見せなくてもいい~だから~全部して~くだ……さい……」


 彼女にマスクをして視界を奪っているのは、そう説明してある。とにかく秘伝、とにかく秘中ということで、部外者に漏らしたことが判明すれば、自分の命が危なくなると言うと、納得してくれた。


 というか……。


 おうおう……なんていうか……うら若き乙女が……ってまあ、この世界だと彼女くらいの年齢になると……行き遅れとかそういうレベルで言われちゃうんだっけか。あれ? 彼女何歳だ?


(確定情報がございませんが……姫様、マシェリエル様が二十五歳だったかと思います。この副団長様、アーリィシュ・ケラオ・シャラガ様は、シャラガ女爵の主の様です。経歴等の詳細情報から、年齢にして、姫様の三歳ほほど上になるでしょうか?)


 ってことは二十八歳か。まあ、うん、妙齢だよね。現代日本の感覚だと。


 って! もう脱ぎ始めてる! え? ええと?


「水は~浴びてきた……です」


 うーん。さすが騎士。前衛色。速いね! 動きが! あっという間に全裸だよ……これってどういうシチュエーション? ラッキースケベってこういうこと? どういうこと?


「で、では……。塗り込みますね……」


「上級回復薬」をもう一本開けて、パシャパシャと……ローション液の様に手に出して。傷跡に対して塗り込んでいく。


 ゴツゴツと……確かに酷い。硬化した皮……どこだかのワニ園で触った、ワニの背中の手触りに似ている。どうすればここまで変質してしまうのだろうか? 怪我をした後……使用したポーションの質が、劣化よりもはるか低いモノを使用したんだろうか? というか、他の薬品も使ったとか? 爛れてるぞ……どう見ても。


(回復薬は数十年は品質が低下しませんが……百年以上が経過すれば、性能劣化、変質する可能性は多分にあります)


「あ、はう~」


 いやいやいや。どういう反応? うーん。


「アーリィシュ様……こちらへ。ベッドに横になっていただけますか」


「はい~」


 手を取って、ベッドに寝かせる。まあ、うん。顔面から首、胸元、腰、そして太腿まで……傷がクッキリと残っている。幼少期に受けた傷が……成長するにつれて広がっていいき、それを劣悪な治療を繰り返すことでさらに酷くなった感じなのだろう。

 というか、特に……左胸の傷が酷い。左の乳房は歪に潰れ……ああ。乳がんの手術で乳房切除した写真。保体の授業で見たあれを傷跡が浸食しているというか。


 筋肉の付き方もやはり、歪だ。突っ張る傷痕を庇う様に身体を動かすのだから、当然だろう。


 手に持ったポーションを掌で塗り込む。


ジワッ……


 ん。若干。うん、ホンの少しだけど、柔らかくなっている気がする。やはり、効果はある。と信じて……塗り込んでいく。


「は~あ……」


 吐息。そして呟き。そして裸体。二人きりの密室。まあ、うん。それでも襲いかかろうとか、ムラムラ……って所までは行かない辺りが、俺の、ハイエルフの種族特性であるところの【生殖力小】の影響なんだろうな……。



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