328:地下で秘め事

 既に深夜だ。だが、騎士団副団長の身分があれば、この時間帯でも通用門はくぐれる。それを想定しての待ち合わせだ。


「……よく~門を抜けられたわね~」


「そこはひとつ、お目こぼしを」


 城砦都市の各門は当然、深夜になると開門不可能となる。日の出と共に門が開き、日の入りと共に閉じる。検問の守備隊の勤務態勢、及び、夜間の馬車や人の出入り数等を考え合わせた場合、それが効率的だからだ。


 そして、警備の関係上、深夜帯は通用門の出入りですら一定の権力者、とんでもないお金を積んだ者に限られる。少なくとも俺みたいな平民の商人がすんなり通るのは難しい。


 って、まあ、俺は門を通ってないんだけどね。地下に穴空けて通り抜けたからね。


 暗がりの中、LEDランタンを片手に立つ彼女は、金属鎧を含めた騎士独特の重装備で身を固めていた。

 俺も灯りの魔道具を手にしているので、辺り一帯が明るくなる。


「ああ、騎士の本格的なダンジョン探索装備っていうのを見たことがありませんでしたので。不躾な視線、申し訳ありません。なかなか重厚ですね」


「ん~それでも~これはミスリル板を甲羅の様に貼り合わせてるタイプだから~軽いし、動いたときに出る音も小さいのでダンジョン向きなのですよ~」


 確かに。カシャカシャと音はするものの、そこまで気になるほどでは無い。獣や魔物に感知されない為には発する音は小さい方が良い。


 背負っている背嚢は、多分、魔術背嚢だから、思っているよりも多くの荷物が収納できているハズだ。


「では……参りましょう。もしも誰かとすれ違った場合は、従士とでも言っていただければ」


「判った~」


 しばらく、歩いた。城砦都市からは既に外れた場所……。なんというか、盗賊なんかが襲いかかるとしたら、この辺が限界点じゃないだろうか。って位の場所に着いた。


「副団長閣下。御覚悟、よろしいでしょうか?」


 髪の長い彼女が、ちょっとビクッとした。


 まあ、そうだよな。酔いも冷めてきているだろうし。冷静になれば、自分がどれだけ怪しい橋を渡っているのかって考えちゃうよな。


「よろしいですよ。ここでお帰りになられても。そのままカンパルラに戻り、ベッドで横になれば、いつも通りの朝がやってきます」


「ん~いい。どうすればいい?」


「ではこれを。お着けください」


 特製のアイマスクだ。それ以上の拘束はしない。


 視界を奪われた彼女は、さすがというか、副団長というか、別に焦るような素振りは見せなかった。


 目の前に……大地操作で生み出した階段。これまで何度も作成している地下室だ。

 

「階段になります」


 手を引いて、地下に潜る。


 そのまま、降りてもらって入ってきたドア、階段、通路などを埋めてしまう。換気はバッチリだが、完全な密室が完成した。


 そこにはテーブル、椅子、机。ベッド。等、最低限宿泊に必要なモノが揃っている。当然、隣にはもうひと部屋。トイレ等の水回りをまとめてある。


「ああ、この鎧は青色だったのですね」


 彼女が身に付けていたミスリルのスケイルアーマー(? とでもいうのだろうか。ウロコっぽいし)は鈍い銀色、つや消しの銀色だと思っていたが、室内の灯りで見るともう少し微妙な色合いが混ざっているのが見て取れた。


「そう。昼間、太陽の下であれば~もっと青く見える~。辺境騎士団は~団長であるマシェリエル様が白銀色の鎧で、隊長は全員この青銀色の鎧~」


「ほほう。そうでしたか。それは荘厳ですね」


 一般の、平騎士はちょい暗い銀色だったハズだ。というか、使用しているうちに、汚れたり傷付いたりで、くすむのかもしれない。


 そんな自慢の鎧は脱いでもらった。急いで来たためか、下に着ていたのは先ほどの布鎧だった。なんとなく見慣れた格好となった彼女。テーブルの前の椅子に座らせる。アイマスクは付けたままだ。


「では。早速。始めましょうか」


 俺も自分のカバンから、ポーションを幾つか取り出す。まずは、普通の……いまやリドリスの名の代名詞にもなりつつある特製ポーションを飲んでもらう。


「これは~特製ポーションね~」


 既に飲んだことがあったのだろう。さすが、姫様の御寵愛を受ける元近衛筆頭。

 そう言えばだが、ノラムとして、彼女の姿は王都で目にしていた。この鎧姿を見た瞬間に、この長い、ちょっとうざったい感じの髪型の女騎士がいたことをハッキリ思い出したのだ。


「姫様が~自分の分を譲ってくださって~これだと~この傷痕以外の部分は~綺麗になったんだけど~。それ以上はどうにもならなくて~」


「判りました。では。次はこれを。そうか……飲むのと共に、塗ることも必要かもしれませんね……」


 まあ、いい。とりあえず。


「次はこれを」


 ポーション瓶の蓋を開けて、彼女の手に取らせる。まあ、これを実際に自分の目で見ていたらちょっとビビる感じなのかな。


 ポーション瓶がほんの少し淡く白く、発光している。というか、ポーションが発光しているのだ。

 ぶっちゃけ、その明るさは日中の野外であれば気がつかないレベルだ。が。こんな地下の小部屋ではその光が目立つ。LEDランタン等の灯りの魔道具の光くらいでは隠れない。


 これは「上級回復薬」だ。


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