326:酔っ払いと犯罪率
「あの~さっきの~は……」
「さて、某は本業は商人ではありますが、冒険者であります。当然平民であります。ここらで喋り方を正しくしましょう。先ほどの……その、戦うための術は基本……」
「ああ~申し訳ない~そうですね~。冒険者にその技を示せというのは、死ねと言っているのと同じですね~」
少々下を向き、シュンとした表情の彼女は、アーリィシュ・ケラオ・シャラガ。辺境騎士団の副団長様だそうだ。
「副団長閣下、正直、そこまで落ち込まなくてもよろしいかと。確かに、ここ最近のカンパルラでは少々相応しくない行為かと思いお止めしましたが……先ほどから聞いた限り、良からぬ事を考えた暴漢共を「殺しもせずに」守備隊に引き渡していたのでしょう? 貴族の方に迂闊に、下手な物言いで話しかけただけで斬り捨てられることもあるのです」
彼女は両刃の短剣を抜いていたが、剣の腹の部分で叩くことで峰打ちの様に打ち据えることも可能だ。まあ、その場合、端の刃に相手を引っかけないような技量が必要になるのだが……それが出来る腕なのだろう。
彼女やっていることはこちらの世界では、かなり甘い行為で、さらに善良に生きる平民たちの為になる、非常に「良い行動」なのだ。
若干というか、少々、いや、かなり憂さ晴らしとか、ストレス解消なんていう意味が強かったとしても、結果としては、都市や街、村からならず者が間引かれるのだ。
それは世界の摂理に合わせた行動であり、彼女は彼女の貴族としての権利や義務を考えた上での行動なのだから。
これに関して、向こうの世界の倫理感でウダウダ文句を言うのなら……俺の方が遥かにこの世界の摂理に反している。これまでに……決定的な証拠も少なく、魔力による他人に証明しにくい断定的な操作方法で判別した相手を何人も「殺して」いるのだから。
具体的に言えば。緋の月のヤツラは、盗賊として活動していた者以外は、全員隊商、商人として活動していた。それを、カンパルラで諜報活動をしていたから、その情報漏洩を恐れて始末したし、さらに、敵さんを行動に導くために、隊商として「近付いていた」だけの団体さんとエリアマネージャーを殲滅した。
ほら。何、この理不尽な大量殺人犯。怖いよね。最終的に宰相さんに指示された緋の月の団体さんが仕掛けてくるようなので、「最終的に結果論として」こちらの思惑通りということで、さらに理不尽な目に会うことになる。
なんて考えていたら、いつの間にか副団長閣下はグビグビとワイン(の様な飲み物)を飲み込んでいる。
「そうですね~ここはディー兄……あ、いえ、ディーベルス閣下が治められていた地……なのですからね~ぐすん……」
あ、あれ? これ、なんだ? いつの間にそんな感じの会話展開になっていた? 俺が適当に相づち付いていたのが行けなかったのか? どういうことだ? 何となくだけど、ちょっと所か、もの凄く面倒くさい感じになるヤツじゃないか? 待て。ちょい待て。おいおいおいおい。
「あー良い方なのですね~ディーベル閣下は」
「そうなのよ~ガサツで、暴力的で、会話の出来ない男しかいない中で、ディー兄だけは、ちゃんとこっちを見て話してくれたのよ~この傷だって、目に入ってるはずなのに~まるで関係無く話してくれて~。ううん、多分、ディー兄はこの傷なんて関係無く~私のことを~見てくれてたの~」
……まあ、うん、そうかもしれないすな。ディーベルス様と泥酔するレベルで酒を酌み交わしたことは無いけれど、あの人からは、男女差別的な意識を感じたことがない。
同じリドリス家でも、ドノバン様は武人なだけに、男尊女卑的な行動が自然に身に付いている感じかな? 辺境伯も同様だ。というか、この世界、女性は何かと権利が薄い。都市の外で働く者であれば、性別関係無く評価されるところはあるみたいだけど、都市内で生活している者達、さらに女性の扱いは非常によろしくない。
女性全般=力の無い弱者=強者は弱者を蹂躙しても許される=それだから、都市内ですら、拉致誘拐は日常茶飯事だし、強盗、恐喝、強姦なんて……程度にもよるが守備隊に通報されても放置されている事も多いらしい。
俺が長期間滞在し、じっくり見たことがある城砦都市はカンパルラのみだし、カンパルラはディーベル様の施政のおかげで、かなり治安は良くなっていたし、それを俺が夜光都市にした際に、輪をかけてパワーアップさせた感じ……になっているから、忘れてたけど。
他の都市……それこそ、領都リドリスですら、平民同士の諍い、争いに関しては、自衛が基本の考え方になってるしね。
だからこそ、通常の平民であっても帯剣が許されているし、どんな仕事をしている者でも、短剣は所持している。
米国の銃社会ではないが、自分の安全は自分で守らなければならないというのの強化版だと思えばいい。
なので喧嘩による刃傷沙汰は毎晩起こっているし、人死にもそこそこ発生している。その辺、大抵は冒険者や裏社会関係者同士の諍いで、大抵が守備隊による捜査なども大して行われない。
シロによる介入は……主に、日中の拉致監禁や無差別殺人、テロに繋がりそうな場合に限っている。キリが無いんだもん。
本来、善良な市民は……余程の用が無い限り、夜分に飲み屋に行ったりしないのだ。まあ、カンパルラは俺のせいで……夜光都市として明るくなったしまったのの弊害でもあるんだけど。
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