324:ドノバン流?

(少々、厄介かもしれません……)


 確かに。シロの忠告を受けて、酒場全体を俯瞰で見ると、先ほどから酔い潰れている様に見える女騎士が狙われている。


 まあ、狙われていると言っても、この都市に重犯罪者は滞在できない。「鑑定」等の能力は無いので、対象者が行動したり、打ち合わせしたことで、犯罪行為に近付いた時点で、シロによって排除されている。


 なので、現在この酒場にいる者達は小悪党でしか無い。通常ならシロの手を煩わせることも無い、紛う事なき雑魚。それが、徒党を組んで、奥で酔い潰れている女騎士を「どうにかしようと」しているらしい。


(あ。いえ、でも大丈夫かもしれません……あの副団長、酔ってはいますが、起きてます)


 あ。そう言われてみれば……うん…平気か。強さ的に気にしてない……感じかな? まあねぇ……あの姫様の近衛だ。一騎当千は間違いないだろう。


「な、なんだ、この傷……」


 女騎士を拉致しようとしたのか……男が数名……彼女を抱きかかえようと手を出した瞬間、髪の毛がはらりと落ちた。隠していた顔の半分が露わになる。


 ん?


(酷い裂傷の傷痕です……治療が間に合わずに、しばらく時間を置いてからポーションを使用したのかもしれません。なので、余計に傷痕が定着してしまっているというか……まあ、多分、この世界にある劣化回復薬ですと……)


 火傷のケロイドとも違う……心をささくれ立たせる様な傷が……露わになった時点で、ナニカしようとしていた男達は腰が抜けた感じで後退りしはじめた。


(首元の方へ傷痕は大きくなっている様です。ああ、アレだと、半身に痕が残っているのかもしれません)


「女の身体に断りも無く触れた覚悟は出来ているのだろうな?」


 酔ってる……が。酔っているけれど。足取りは確かだ。スッと立ち上がり、腰に佩いた細身で短めの短剣……を抜いた。

 まあ、どう考えても、騎士爵。近衛ということはそれ以上の爵位持ちかもしれない。そんな相手に迂闊に仕掛けたのは、雑魚達の落ち度だ。この国だけで無く、この世界では平民が貴族に触れた時点で斬り捨てられても罪に問われない。


(というか……さ。これ、憂さ晴らしのために誘ってた? 罠じゃないかな?)


(……そう言われてみれば、そうかもしれません。魔力的に考えると差が大きすぎます)


名前 アーリィシュ・ケラオ・シャラガ

天職 吟遊詩人

階位 32

体力 62 魔力 42


 お。なんとこんな所で未知の天職に遭遇。それにしてもこの人、スゴいな……。


 明らかに騎士、そして近衛って事はかなり強いハズだ。にも拘らず、天職は吟遊詩人……て……。どう考えても後衛職だ。まあ、そりゃそうか。姫様の近衛って尋常じゃ無いもんな~。努力も尋常じゃ無かったんだろうな。


「ちょっと~むしゃくしゃしてたんですよ~お相手して下さいよ~」


ヒュン!


 短剣にも拘らず……空を切るその音が……鋭すぎる。


「あ、あああ、ああ」


 腰が抜けたのか、後退りする雑魚くん達。怖いよね~そりゃ。完全に酔い潰れてると思ったら、いきなり剣を抜いて振り回してくるんだから。


(やだなぁ……関わりたくないんだけど)


(では、彼らをお見捨てください。この店の者は既に奥に下がったようですよ?)


(そうなんだけどさ……痛めつける程度なら放置なんだけどさ。血祭りは不味いでしょ、血祭りは。領主就任の浮かれ気分が吹き飛んじゃうし)


 雑魚達は腰が抜けてるのか、既に立てていない。


「お前らが悪いのは判ってるな?」


「え、あああ? な、なんだ、お前」


「悪いのはお前達だ。判っているな?」


「あ、ああ、わ、判ってる、判ってるって」


 完全に飲まれている。ああ。威圧か。なんとなく、ドノバン様のヤツに似てるな。


「なら、このまま、守備隊の立ち番に自分達の罪を告白して罰を受けろ。そうしなかったら。俺がお前らを殺す。今、彼女の剣で死ぬよりいいだろう?」


「わ、わかった、判ったから……自首する、自首する……」


ガスッ!


 一人を蹴り上げる。それに釣られて、三人の男が店から出て行く。合計四人。まあ、その人数なら「普通の女騎士」であればどうにでも出来ると思うか。


「ん? んん?」


 無造作に光る短剣がもの凄く怖い。ああ。纏わり付く虫けらを殺すつもりだったんだろうな。文字通り。


「折角スッキリすると思ったのに~貴方が代わりに?」


 代わりたくないがな。ふう……仕方ない。新領主様、貸しイチですよ? これは。


「不機嫌なお気持ちは判りました。が。あの様な者達でも、この都市に関わっているのは間違いありません。何か対策が出来ているとしても、腹いせにいたぶるのは騎士様の御名前を汚すことにもなるのでは?」


「だから~鎧も脱いできたし~だいじょぶに~してきたのに~」


 いやいやいや……鎧……紋章が無いからって無かったことには……できるのか。というか、するのか。守備隊に連絡さえ入れれば問題無いってことなのかな? 街の噂にならなければ良いと。そういうこと?


「スッキリ~させて~くれるのなら~もう~誰でも~いいのです~」


 ……この喋り方。なんか、聞き覚えあるな。というか、シロ……友だち?


(こちらの世界に知り合いはおりません。というか、過去の自分の記憶データの中に、自分の喋り方の報告は無かったのですが)


(え? そうなの? シロ、小さい時、あんな感じだったよ?)


(えぇ……そうなんですか?)


 足が。踏み込んでくる。おおう。あれ? これ、なんか知ってるぞ? この足運び……。ああ、そりゃそうか。マシェリエル様の近衛ってことは、当然、流派的には王国騎士団流。つまり、ドノバン様の弟子ってことだ。


 つまりは。うん、姫様の上位互換……というか、常日頃、姫様の相手をしてるんだろうな……って感じの動きというか。守りのパターンは沢山ありそうだけど、攻めのパターンはそれほどでもない。そういう流派なのかな……って戦ってもいないのにドノバン様を見下すようなことは止めておこう。


 ……よく考えなくても。ドノバン様……ディーベルス様もそうだけど、リドリス家の人達は本当に人間として良く出来てるよな。

 この手の武闘派のトップだろうに、俺と戦うとかそういう気配、一切見せないもんな。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る