320:アンテナチップ情報網

 とりあえず、スカートによるアンテナチップ拡散計画は開始された。とはいえ、非常にゆっくりとだ。シロが通常業務の合間に、時間をかけて進めて行く。


 結果予測が付きにくくなる、雨や風の激しい日は休息したり、無人作業ではあり得ない、ゆったりぶりだ。


 スカート1号からスカート20号を用意して、カンパルラから徐々に、西へアンテナ網を構築していくことになる。


 で。数日後。


 初っぱなから重要な事実が判明した。「やってみなければ判らなかった」新規情報「急激な劣化」だ。


 このアンテナチップは主に魔力を判別する。そしてそれを他のチップと共有する。なので、辿っていけば、シロに到達する……というシステムだ。

 それ以外は認識阻害を少々。それくらいしか機能は持たせていない。


 で。最前線の情報は、幾つものアンテナチップを経由して、シロの元まで到達したわけだが、その際に、何故か、情報が劣化することが判明した。


「理由は現在観測中です。しばらくデータ収集しなければ確定できないでしょう。我々のいるカンパルラ……いえ、多分、深淵の森、そし迷宮創造主マスターのダンジョンから離れれば離れるほど、劣化度合いが酷くなっている気が致します」


「そっか……そうそう上手くいかないか……」


 まあよく考えなくても、確かに、距離による魔力減衰は顕著だもんな。それこそ、何も無い場所へ向かって「風刃」を撃った場合。それがどれくらいの距離か厳密に測っていないが、最終的には消滅するのだ。


 この魔力感知情報網が……それこそ、遥か遠くまで、他国、特に帝国まで届けば、ヤツラの動向が丸わかりだ! とワクワクしてたのだが……挫折した。残念。

 

 とりあえず、領都リドリスがギリギリ。というか、把握出来たのはリドリス領の半分程度といったところだろうか?


 全世界を掌握するという壮大な目標はこれにて崩れ去ったと。もう一度。残念。


「とはいえ。リドリスまでは魔力感知が可能となりました。若干不鮮明ですが、様々な情報が入手出来ています。まだ確定ではありませんが……暁の月の拠点も判明しています」


「へ~それはちょっと朗報。正直、ヤツラが行動開始した……なんてのが判るだけでもありがたい。常に備えてるのって面倒だし」


「はい。現在、絶賛分析中ですが……現状、戦力が皆無に近い様です。迷宮創造主マスターの想像通り、前回の隊商がリドリス領近辺の担当で、十本の伍、アクリセは東方、帝国からすれば、ローレシア王国は最東の国です、のエリアマネージャーといったところでしょうか?」


 判りやすい。俺の脳内の言語を流用してるんだろうな。


「んじゃ、今は……戦力補充……兵隊と……他のエリマネがこっちに向かってる、集結しようとしているって感じ?」


「はい。……エリマネが……四名でしょうか? 兵力としては約五十名程度が動員可能になる……様です。もう少々増える可能性があるという様な話も」


 そりゃ……なかなか……だな。というか、ちょっと待て。


「シロ……松戸と森下を呼んで」


「はい」


 エリマネがこないだのアクリセと同格か、上の存在だとしたら……四名か。うーん。まとまって攻め込んで来てくれない……よな。絶対。


「お呼びでしょうか」


「ああ。お茶入れて。んで、話を」


 松戸と。森下が部屋に入って来る。


「とりあえず、敵戦力が判明した。多分、隊商としてこちらに向かってくるんだと思うんだけど、兵数は約五十。そして。問題はエリマネ……いや、隊長格が四名だそうだ」


「くく……エリマネ……」


 森下。


「了解致しました。しかし……なかなか思い切りましたね……」


「多分、ローレシア王国、そして周辺国を含めて、尽く帝国の策は効果を上げているんだと思う。なので、その辺の人員で浮いてるヤツをこぞってこっちに送ったって感じじゃ無いかな?」


「隊長四名にかなり使える部下が約五十。こないだレベルの敵だとして。厄介ですね~多分ですけど、それって、手段を選ばなければ、一個騎士団とか普通に殲滅できる戦力じゃないですか?」


 そうだろうね……。というか、その中には魔術士も含まれているだろう。隊長格にもいるかもしれない。各地で嵐を起こしてたくらいだから、単純な攻撃魔術であれば、エルフ達よりも上かもしれない。


「ああ。だから、来てもらった。対策会議だ。多分、ヤツラは表向きは隊商だ。だからディーベルス様とか、辺境騎士団だっけかな? その辺に依頼することが出来ない。まあ、最初からこっちでやるつもりだったけどな」


「ベルフェに確認しなくてはなりませんが……エルフからも戦力を抽出しなければ間に合わないかもしれませんね」


「正直、まとまって全員で攻めて来てくれれば楽ちんなんだけど。俺一人で相手できると思うし。でも、こちらの思惑通りにはならないだろうなぁ」


「はい。これは……私達がさせられていた戦闘とよく似ていますし……」


「牧野興産の?」


「ええ。裏の者達の戦いでは、少数精鋭で、各個分散、囮と本命を兼ねた各部隊が一斉に襲いかかるという戦術が使われることが多いです」


 まあ、そうか。


「最悪、情報を仲間に渡せれば良い……という戦い方か」


「そうですね」


 情報……持ち帰られたくないなぁ……。帝国が大々的に戦争や内戦に介入とかし始めてからならある程度はいいんだけど。


 ん? ああ、そうか。今回の戦闘はアンテナチップ情報網の只中での戦いになる。それならまだ、やりようがあるか。


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