319:研究4

 まあ、今は帝国、宰相配下の魔術士の詳細は置いといて。


「問題は、帝国に近付けば近付く程、宰相や緋の月に気付かれてしまう可能性が高い……か」


「はい。特に……拡散散布中に発見されてしまうと、何をしているのかが丸わかりかと」


 正直、例え遠隔だとしても、俺が直接この魔道具を使用して、アンテナチップを設置していくことは出来ない。そんな暇無いし……何よりも、ヤツラ、その前に攻めてくるだろうし。


 なので、俺よりも遥かにマルチタスクで、言われたことを忘れないシロが、時間をかけて片手間に行っていくことになる。その場合、魔道具の性能以上の情報を集めて、対処しながら……っていうのは酷だ。

 

 なんか面倒だな……捕らぬ狸の……じゃないけど、なんかもう、面倒。


「もうさ、適当にやってみようか? 帝国の宰相みたいに。コイツをエルフでも異和感を覚えない高度で展開させて、とにかく、アンテナチップを排出して、性能を確認しつつ、勢力圏をちょっとずつ拡大して行く。もう、ある程度時間がかかってもいいし、適当でいいよ。穴があれば、そこを後から埋めるって感じで」


「……はい」


 うん。俺もシロも……なんていうか、多分、真面目というか、最初から完璧を求めてしまう。エルフ的なのかな? これが。論理的に筋が通っている方を選ぶというか。そうすると、現在、まだ初めても居ないのに、計画が頓挫してしまうことになる。


 バカのふりして、やってダメなら止めればいいのだ。こっちの方がブレイクスルーする確率は高い。だってやらないは0%。ゼロは、始まりようがない。


「このアンテナチップの魔力……いや、これが魔道具だっていうことが気付かれる可能性は?」


「このサイズ、そして、出力で考えますと、例えエルフ、魔族であっても気付かれないかと思います。余程優秀な感知能力を持つ魔術士であれば……いえ。そうなると多分、他の魔力を持つ……それこそ、食物や大地、魔素溜りなどの微量な魔力を持つ物に注意は向けられるハズです。これが何だか判っていて、判別しようと何度も試してみて……それでも気付けるかどうか……」


 お。


「結構……優秀?」


「優秀どころか……正直、私の持つ情報の中に、この様な魔道具は存在しません。まず、大きさが可笑しいくらい小さいですし……さらに、このような……その、中途半端な性能で成立しているというのも……」


「ああ。そうか、魔道具っていうのは、スタンドアローンな……パッケージしか無いのか……」


 一つの目的を達成するために、自主独立しているというか、それだけで完成しているのが魔道具なのだ。それを構成する、部品、パーツのような偏った機能のままで完成……とは言わないのだろう。


「はい。そうですね。正直……このアンテナチップを魔道具として認識した錬金術士は、ほぼ確実に「何かの部品だろう」と判断するかと思われます」


「なら、良かった。これが……それこそ、帝国の街にばらまかれて落ちていても、ゴミ……土や砂粒と思われる可能性が高いと」


「そうですね。さらによく考えれば……それを散布する魔道具、えっとスカートでしたか……それも、多分、「空中で停止して、一斉散布の最中」でも目撃されない限り、外見からこれが何か判明する可能性は少ないでしょう。さらに。これを捕獲されても詳細は不明のままになるのではないでしょうか?」


「ん? 捕獲されても?」


「はい。そもそも、迷宮創造主マスターの作る魔道具は、既存の魔道具と大きく異なります。それは判っておられますよね?」


「ああ」


 まあ、それは判る。というか、俺の作る魔道具は尽く、俺の意識の中で「集積」してる。

 うーんと、各パーツがあれば、それをまとめて、役割を細分化し、流用や同時進行できる物があればお互いに保管できるように連携させ……と、なんていうか、俺が理解出来る範囲で合理化して作成している。

 魔術紋も、同様にまとめてさらにそれを集積したパーツの合間に食い込ませるようにパッケージ化している。

 イメージとしては、完成したパーツを外枠に入れて、魔術紋を描いた蝋を溶かして流し込む感じ……というか。判りにくいか。

 

 まあ、とにかく、確かにぱっと見だと、これがどんな魔道具なのか判りにくいと思う。


「なんとなくそんな感じはしてたけど……これ、他の錬金術士でも判らない感じ」


「現代の錬金術士に遭遇したことがありませんので、詳細は分かりませんが……ですが、私の知る限りの錬金術士は過去の遺跡、ダンジョンなどで入手した魔道具を改造し、そして改良、自らそれを模してさらに性能の良い魔道具を作る感じでありました」


 ああ、そういう感じか……。そもそも、練金用の素材を魔術で粉々にして、再構成させるっていうのがイレギュラーだって聞いてたけど……そこまで違うのか。


「なので、迷宮創造主マスターがいちから作成した魔道具は、全て、スイッチをオンにするまで、その効果、性能が予測出来ません。それはこのスカートも同様でしょう。ただ、不安定要素が「存在」する以上、楽観的な情報のみを開示していくのは支援妖精として矛楯が生じまして」


 うん、そうだろね。シロは疑似人格っぽいけど、元々はAIとか、人工知能系のコンセプトで生み出されていると思う。なら尚更。融通は効き辛い。


 俺が命令して、計画をスタートさせよう。途中で失敗してダメになっても、もう一度やればいいだけだ。

 

 何よりも使用している素材は俺が取ってきたゴーレム達からのドロップ品だ。魔石も同様。なので、素材コストはほぼゼロ。


 ということで、深いこと考えずにやってみることになった。





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