318:研究3

「拡散くん試作壱号」が完成した。……シロになんとなくネーミングセンス皆無……って感じの顔をされた(気がした)ので、直訳で「scattering」=スカートリング、略してスカートと命名。


 スカートくんはこれまでの極小作業の反動で色々とーんとやってみた。

 ……まあ、うん。アレだ、一見鳥型のゴツイ飛行ゴーレムだ。拡散させたいアンテナチップと違って、コイツは大きさをあまり考えなくて良いので、性能重視で完成させた。


 スカートくんには純粋に、アンテナチップを空中から排出拡散する役目を担ってもらう。


「それなりに上空から、撒き散らかすことになると思うんだけど……そうなると、位置のズレや密度がな~」


 予定している着地点にきちんと落とせるかどうか。天候も関係してくるだろうし。


「何度か飛行と散布訓練を行えば良いのではないでしょうか?」


「いや……そういう問題じゃ無いな……。翼を使用した鳥や航空機をモデルにして作った場合、風の影響を受けすぎるし、作業精度を上げるためにスピードを落とすと、失速して浮力を奪われるのも痛い。作業のことを考えると根本的に矛楯してるしな」


 さらに問題は、スカートくんの操作も、このアンテナチップを経由して行うことになるということだ。不安定にも程がある。


「翼使用型を飛ばすのは……リスクが高いか。この大きさだと高度も保たないとだし。高度を上げれば上がるほど、緻密な散布は不可能になるしな」


「ではどういたしますか?」


「空中浮遊型……にしようか。大きさや燃費を考えて、移動スピードは出さない。正直、鳥型、航空機型と比べれば飛行速度は異常に遅いけどさ。でも、アンテナチップの散布にはそっちの方が向いてると思うんだよな」


「はい。そうだと思います」


 風属性の術を使って、自らを持ち上げるという浮遊型の魔術を想像し、本体に練り込む。自重が軽いなら制御も難しくない。なんとなくだけど。この辺はもう、慣れたもんだ。


 そういえば、魔術で風流操作……ってまだ覚えてないな。多分、この後、覚えて行くのだろう。


 とりあえず、浮遊するスカートくんが完成した。外見は……小さめの植木鉢、壺、なんかの乳液とかの化粧品の瓶か。


「でも……これも空を浮いてたら……イロイロな意味でバレるよな」


「バレますね。認識阻害をかけて、少々高度を上げれば視覚では認識できなくなりますが……【魔力感知】で気付かれやすくなります。特に【隠形】等のスキルがあるわけではありませんから」


「魔力隠蔽……の簡単なやり方は無い……か」


「思い当たりません」


「そうすると【結界】しかないか。これ、物理的なのは簡単なんだけど、遮音とか、魔力遮蔽に力を向けると激しく魔力を消費するんだよなぁ」


「本来、魔力の隠蔽は非常に難しく、それが出来る魔物の素材は重宝されていました。現在もそれは同じかと思います。ですが……魔力感知は風属性です。風属性に秀でている魔術士……それこそ、エルフくらいでなければ、その力は有効に使用出来ないハズです」


「ん? 人間で風属性の魔術士って少ないの?」


「はい。非常に希有だったハズです。エルフはほぼ全員が風属性なので当然として、魔族であれば……それなりにいるかと思われますが」


「ということは、【魔力感知】に秀でた人間の魔術士は少ない?」


「少ない……ハズです。まあ、あまりに強大な魔力や魔素であれば、どんな魔術士でも何かある……と反応はすると思いますが。ただ、なんとなくとか、その程度です」


 そういえば、奴隷の中から見つけた天職=魔術士たちの中に、風属性の者は一人もいなかった。

 水と土と火……さらに付与術士、癒術士なんてレアな天職持ちを見つけたのに、風がいないのはそういうことか。


「なら【魔力感知】に関してはある程度なら気にしなくてもいいのかな?」


「……予測になりますが」


「ああ。頼む」


「現在最大の敵として設定されている帝国宰相及び、その配下である緋の月……ですが、どう考えても、ある程度の魔術知識、魔道具知識に長けていると思われます。特に、ローレシア王国と比較すると、その差は明確です」


「うん」


 色々と歪んでいるとは思うけど、帝国の、いや、蒼の宰相……はその手の知識が豊富で、魔道具もいくつか使いこなしているハズだ。

 それこそ、緋の月の構成員のレベルが高く、魔力が高いのは、その辺の情報に精通し、核心を得ていないと実行できないだろう。

 鑑定石だったかな? それに類する魔道具を持っていて、レベル上げさせたとか……あるかもしれない。


「その原因を考えて行くと……その宰相、またはそれに準ずる者はエルフ、又はハーフエルフである可能性は高いかと。そもそも、現在帝国という国の存在する場所が、中央樹海の只中、……ハイエルフの住まう国、ファードライド樹国近隣なのだとしたら。あり得ない話ではありません」


 そのファードライド樹国っていう国は、ちらっと調べた限りでは、リドリス家の蔵書室にあった書物、ローレシア王国に伝わっている歴史書には、一切登場していなかった。どんだけ昔の話なんだよ。

 ディーベルス様達に確認しても当然、判らなかった。歴史の彼方過ぎると言う事か。


「まあ確かに。少なくとも、魔力持ちの人間を判別することはできるんだと思う。でなければ、複数の魔術士を使って嵐を起こすなんて実行できるハズが無い」

 

「ああ、それもありましたね……」


 

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