317:研究2

 この世界の、本来の才能=天職と、実際に就いている職業の違いは、天職に対しての情報、それこそ、鑑定石が存在しない以上、どうにもならないのかもしれない。


 まあ、それが当たり前だしね。日本というか、俺にとっての現実世界だって、そんな感じだろう。【鑑定】が一切使えなかったから判らないが、自分の才能に合わせた職業に就けている人の方が遥かに少ないだろう。


 俺がこんな考えに至ってしまうのも、【鑑定】なんて力を持っているからだし。

 ああでも、この世界は所謂ステータスが見える、判る世界だって言ってたのにな。シロ……というか、女神様が。


「情報が古く、申し訳ありません」


 ああ、いや、ごめん、謝らなくていい。当然知らなかったんだから。

 

 その手の身分証明系の魔道具、俺が確認できたのは、裁きの水晶くらいだ。

 これはカンパルラに入る際、商人ギルドの会員証の様な身分証明証が無かった際に使用されたヤツだ。以前シロが説明してくれた咎人の水晶の名前違いらしい。


 で。この裁きの水晶だって非常に稀少な魔道具で、都市の各門への設置がギリギリみたいだ。

 新設の都市の場合、裁きの水晶を用意出来る数に応じて、門の数が決まる……なんて現実すらあるとのことだ。


 なので偽錬金術士、薬師なんていうインチキなヤツラがでかい顔することになるんだろうなぁ。


 と。自分がどれだけイレギュラーなのか、バレると色々と面倒そうだなと、確認して、錬金術に思考を戻す。


 とりあえず、魔石……で稼働するのだから、一番小さいゴブリンの魔石よりも小さくは出来ない。


 うーん。でも、三センチ程度とはいえ、その大きさの虫は大抵の人が気付くし、スゲー怖い。

 この世界、ガンガン虫は飛んでいる。カンパルラは比較的、北に位置しているらしく(ってこの世界が赤道中心に北や南へ行くほど寒くなる……地球と同じ感じだとして)、虫は少ないそうだ。


 となると、俺が求めるサイズにするには……無理がある。気もする。


 ん?


「シロ……虫型の魔物はいないの?」


「おります」


「……そいつらの魔石は?」


「虫を含め、質量の小さい魔物個体、吸血蚊や、死骸喰らいと呼ばれる食肉蠅……には魔石が存在しません。……理由は……過去に少々研究された様ですが……明らかになっておりません」


「……うーん。小さい魔物は魔石が無い。でも、活動は出来ている。魔石の代わりになる「何か」が存在しているんだろうな……。うーん」


 魔石は……魔力が固まった物だと「仮定」する。どうすれば石の様に固まるのかとかそういうのは一旦無視だ。


 つまり、魔物の……身体には魔力を蓄えておく機能がある。それを担っている組織として判りやすいのは……血液だ。魔力を使いこなすには、身体全体、十全に魔力を浸透させる必要がある。

 筋肉……という可能性もあるが、使用時に「集めてくる」とかそういう感触なので、違うだろう。、

 

 これまた仮定だ。もしも、死骸喰らいが肉や水で行動する以外の力を魔力で担っているとしたら、その動力源は血液。というか、そもそも、魔力は……どこから発生する?


 前にシロから聞いたのは、この都市周辺は深淵の森の影響で、魔力が非常に濃いらしい。

 なので、大気中の魔力を吸収し、それを灯りに変換する装置を付け加えたのだ。


 この世界にしか、魔力は存在しない。俺が魔力を扱えたのは、女神特製のダンジョンがあり、そこと「繋がっていた」からだ。


 つまり、こちらの世界に存在するということは、魔力を取り込むという事になる。空気なのか、魔素なのか……あれ? そういえば、……魔素って……。


「はい。深淵の森に近いこの地は龍脈と、魔力の元となる魔素溜りが複雑に絡み合っています。つまり、魔力は、魔素溜りや龍脈、女神の力の源である神力から生成されると予測されます」


「ああ、規制が掛かってて、シロでも真実は知れないヤツか。だが、予想は出来ると……」


 スゲーな。シロ。AIだとしたら異常に優秀だな。


「ありがとうございます。つまりは、迷宮創造主マスターの想像通り、魔物は空気中に存在する魔素を取り込み、それを魔力として使用する。という考えは、正鵠を射ている気がします。そこで消費しきれなかった魔素が固まって、魔石となる……のではないでしょうか」


「ああ。俺もそう思う。つまり、魔力の元である魔素は、空気中に漂っている。街灯の魔素集積機能、アレを身体でやってるってことだよな」


「はい。この辺の魔力に対する詳細な情報を精査せずに作られた様ですが」


「確か、太陽光発電で自給自足する街灯を思い浮かべてやったら、できちゃったんだよな……。そうか。まあ、いいや。


 あの集積装置を極小にして搭載して……魔物の血……くくく、良い具合にドラゴンの血、「竜の血」があるじゃない。これ、多分、通常の魔物よりも高性能だよな?


 それを魔石変わりに使用する。あとは、極小化、集積。直径一ミリ程度の碁石。厚さは一ミリもない。その辺の樹木や壁にくっつけば、汚れとしても、見逃してしまうレベルだ。


「自力……での移動は無理か。さらに、感知範囲も狭まったな」


「はい……先ほどの……四分の一程度でしょうか? いえでも……このサイズであれば……適度にばらまくことができれば……」


「ああ、そうか……別にこいつらが自律して行動する必要無いよな。飛行型のゴーレム……って作れるよな?」


「はい、迷宮創造主マスターであれば問題無く」


「ん? 他の錬金術士だと作れない?」


「はい。多分、この世界の者では、錬金術が使えたとしても発想に柔軟性がございません。自分の持っているデータでは空中浮遊するゴーレムが存在したかと思いますが……現代の者にそれが生み出せるかと言われれば……」


「無理か」


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