315:専守防衛

迷宮創造主マスター


「ん?」


 松戸、森下が下がっていった、執務室。シロが、なんとなく決意した感じで話しかけてきた。


「最善手は、根本を断つことです」


 あ~。まあねぇ。


「強襲からのピンポイントで暗殺。蜘蛛型のゴーレムをお持ちになれば陽動にも使えるかと」


 そうなんだけどねぇ。


「確かに、シロの言う通りだろうね。この場合……ピンポイントで蒼の宰相を潰すのが手っ取り早いよな。俺が極力、自分の正体がバレないように行動してるのは、ヤツに対策を取らさないためだし」


 俺が……まあ、宰相と同じ様に、一人で対策をしているということが判明したら、どういう風に追い詰めるか? の策謀の幅が非常に狭まってしまう。

 タダでさえ、一人で世界に対して喧嘩を売るような天才バカなのだから、与える情報は最小限に収めておかなければ、何されるか判らない。


「でもさ。正直、帝国もこの国も、どうでも良いんだよね……。いや、この世界、異世界全体はどうでもよくないんだよ。女神様がどういう理由で俺に「迷宮システム」を授けてくれたのか判らないけどさ。でも、世界に関わる問題があるから、俺がここに居るんだと思ってる」


 ぶっちゃけ、向こうの世界、日本のある現実世界も、俺に取っては「どうでも良い」んだけどね。それはまあいいか。


 この辺の詳細はシロも知らされていない。こちらの世界に移動出来るようになってから、いやその前から女神様は反応しなくなっている。シロが言うように、寝ている、休息を取っているということなんだろう。


 それこそ、長命種と定命種では時間の感じ方が大きく違うっていうのは……ラノベかなんかで読んだ気がする。


 女神は文字通り、神だ。その時間の感じ方も我々とは大きく違う。ちょっと寝たつもりでも、何十年、何百年経過ということもあるだろう。


 まあ、少なくとも自分と同じ感覚で、考えるのは違うだろう……と、答え合わせは全て女神が起きてからだ。


「まあ、正直、この世界は結構楽しいし、女神が与えてくれた「迷宮システム」のおかげで苦労することも少ない。シロにも助けられてるしさ」


「ありがとうございます。ですが、あの。それは迷宮創造主マスターが、狂気のレベル上げ……いえ、少々尋常では無いレベル上げを為された結果なのですが」


 狂気て。


「まあでも、迷宮創造主ダンジョンマスターレベル30だっけ? それでこっちの世界へ来れるようになったんだから、女神の予定通りなんじゃないの?」


「そうなんですが~うーん。一度、魔術士だけで無く、拳闘士も経験されてますしね」


「もっと他のジョブのレベル上げをしておけばよかったと思うんだよなぁ。時間が止まっている間に」


 それは本当に思っている。


「多分ですが、アレが女神が神力を使い尽くし、現在目覚めない主な原因かと」


 ああ、そうか。やっぱ、時間が停止した空間を維持するのってヤバいのか。そりゃそうだよな。精神と時の部屋だもんな。


「まあ、そんなわけで、俺に取っては国と国がどういう風に絡もうが、争おうが、関係無いんだよ。出来る限り、この世界で生きている当事者同士で決着を付けて欲しいというか。俺みたいな異物が表に出るのは違うかなと」


 この辺は……専守防衛というか……何となくだが、日本人の習性が染みついているのかもしれない。攻めて来たら反抗する。だが、積極的に戦いたいワケじゃ無い……みたいな、なんとなくそれがカッコイイというか、心地良いというか。


 この世界では明確になる矛楯。効率を重視すれば、シロの言う通りなのに。


「だから、暗躍なされているのですね」


「暗躍というか、俺が安心して生きて行くための最低限のリソース確保は、女神も当然、許してくれると思わない?」


「それはそうですが。ですが、もしも実害が……」


「ああ、そうだね……実害が……それこそ、親しい人が殺されてからじゃ遅いんだよなぁ」


 既にリドリス家の人達とか、ハルバスさん一家に情を感じてる。うーん。確かに、シロの言う通りか。


「判った。こちらから仕掛けることも考えていくけど……それは敵の戦力が判明してからだな」


「積極的に……情報収集をとはいきませんか?」


「多分、エルフ達の半分くらいが冒険者として情報収集に向かうことになるかな。半分はカンパルラと村の防衛戦力か」


「足りません……ね。数が」


「ああ。でもな~これ以上の人間を従えて何か命令するのって……面倒くさくない?」


「面倒……くさいです。私は本来、迷宮創造主補助機構附属多方向対応支援妖精ですから。迷宮専用なのです。それ以上の能力を求められると処理能力を超えかねません」


「……そうだよな。カンパルラの防衛を任せてるのは処理が重いか」


「いえ、現状くらいなら。迷宮も大規模になるともっと情報量は多くなりますから。ですが、なんというか、汎用処理のパターンが多いと言いますか」


「あーなんとなくわかるわ」


 でもなぁ……年単位で準備してた帝国側に対抗するには……時間もだけど、人が足りないんだよなぁ。圧倒的に。次は防げても、その後は……。


 なんだっけな。緋の月の……アク……。


「緋の月、十本の伍、アクリセでしょうか」


「ああ。うん、アイツレベルでも、それなりに注意を払わなければ対応出来なかったからなぁ……。十本ってことは、あと九人いるわけで。さらになんだっけ? 帝国には……帝国十二神将だっけか。これ、十二人の強い武将がいるってことだよな」


 まあ、そいつらは帝国騎士団を率いてくるから、国同士、騎士団同士の戦いになるんだろうけど。


「とりあえず、ちょっと考えてることはあるんだよね」


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