311:王都の夜

 障害物を排除し、斥候部隊に先行させて、超特急便はあっという間に再度、運行を開始した。


 まあ、俺がこの件の担当なら、当然、第二第三の襲撃部隊を配置しておくが……ディーベルス様を舐め腐っているのか、リドリス家を侮っているのか、それ以降の襲撃は一切無かった。


 昼夜駆け抜け、馬車は、あっという間に王都へ滑り込んだ。


「ああ、疲れた。超特急便など、もう、乗る機会が無くていいな」


 まあ、同意する。幾ら魔道具で衝撃吸収されてるとはいえ、乗りっぱなしは身体にくる。運用するのにかかる予算次第だと思うが、これなら、鉄道敷設したほうがコスパ良いんじゃ無いか? 俺はやらんけど。


「とりあえず、もう大丈夫ですよね?」


 さすがに、王都のリドリス家の屋敷にまで攻め込んで来られる強者はそうそういないらしい。


「ああ、済まなかった。あとは我々が何とかするし、ディーベルスも叙爵すれば、騎士団を護衛させることが出来る。帰りは任せてくれ」


 ドノバン様はそう言うが。言うけれど。大丈夫なんだよね? というか、本当に。 


「今回、王家もそう思ったのか超特急便を用意してくださった。多分、マシェリエル様の気遣いだろう。しかも、緊急便なので走行スケジュールは極秘扱いで、私すら判らない」


 って出発前にディーベルス様が言っていたのに……襲われたし。移動ルート漏れてたし。


 いやさ、そもそも、王家が折れるべきじゃ無いの? もう少し。褒美をくれてやるから、ここまで来いよって何様だよ。王様か。

 さらに、平民だから騎士団を護衛に付けられないっていうのなら、その倍の冒険者団を臨時で用意して、護衛にすればいいだけじゃん。傭兵でもいいわ。

 ポーションの諸々の契約がダメになっても良いのならまあ、いいわ。でもそうじゃなくて……あ。そうか。


 わざとか。


 これで、ディーベルス様が万が一にも死んだり、大怪我をして身動き出来なくなったら。その地位と権利を主張するのは……王国か。だから、リドリスの寄子として叙勲されるのでは無く、王家の直参、直接叙勲なのか。うわ。小狡いな。


 もしかして、オーヴェア侯爵家を焚きつけている王族もいるな? リドリスにマシェリエル様がいるように。


 というか、うーん。これ。結構仕組まれてないか?


 この辺の陰謀策謀はそんなに得意じゃ無いみたいだからなぁ。リドリスの人たちは。


「……この王国で、一番の知恵者は……何方です?」


「そうだな……やはり、宰相のバーストラ殿だろうか。特に内政、経済面の様々な国の施策はあの方を中心に動いている」


 バーストラ・オイエン・クラビア公爵。現国王の甥だ。クラビア家は領地こそ狭いが、王国一の岩塩鉱山を所有する。つまり、岩塩の専売利権を握っているため非常に裕福なのだそうだ。

 この世界の塩は、地域によって変わるそうだが、基本、岩塩だそうだ。話に聞いたイメージとしては八割くらいを占めている。


 そもそも海は危険度が高いのだ。水棲の魔物は、元々水棲仕様ではない人族にとって非常に戦いにくい。

 なので、海岸に揚げ浜式? だかの塩田を作って塩を作る……という余裕がない。

 内陸に一㎞程度の海岸は海の魔物の狩場なんだそうだ。魚が陸に? と思ったが、漁人がいるんだそうだ。マーマンとか、サハギンとかそっち系か。

 さらに、海亀の魔物、蟹の魔物、中でも鉄砲魚という魔物は、海側から「水球」の魔術の様な技で、海岸を歩く人を狙い撃ちするという。なにそれ怖い。

 倒れた死体は波が運んでくれないと、海に居る鉄砲魚に利は無い。なんとう他力本願な技の使用法。もう少し、計画的にいけばいいのに。タダの無差別狙撃テロ犯じゃん……。


「そうですか。現在の王様ってどうなんです?」


「フェニオ陛下は……うーん。一言で言えば仁王だろうか。非常にお優しい方でな。バーストラ殿を宰相に任命していることからも判る様に、国民を餓えさせぬことに尽力された御方だ。おかげで、我が国は多少の不作でも、即、食糧不足……ということは無くなったからな」


 と。その辺の王宮の常識、情報事情に一番詳しいリドリス辺境伯閣下にレクチャーをしていただいた。


 あー。うーんと。となると。


 王都の重鎮。その邸宅とはいえ、魔術的な警戒などはほぼ無いも同然だった。というか、結界としては、エルフ村のヤツの方がよっぽど高度で強力だったな。うん。これ、多分、行こうと思えば王宮深部でも到達できそうだ。


「ということで。バーストラ閣下。クラビア公爵家は、今回の舐め腐った件、どう考えているのか教えてもらおうか。というか、閣下はちょっと太りすぎだな。幾ら魔術やポーションがあるからといって、健康に気を使わないのは愚か者のすることだ」


 ベッドに横たわる巨漢。その胸の上に腰を下ろし、見下ろす。小さな……魔道具の灯りが付いているので、俺の姿もぼんやり見えているハズだ。


「ぐ、ぐう……な、何を……き、きさ」


「あ。無理。この部屋で幾ら叫んでも外には聞こえないよ。それくらいちゃんとしてある」


 部屋全体を【結界】視認性ゼロ、吸音効果を施した「ブロック」で囲ってある。護衛かお付きがドアを開けても、何も見えないし、何も聞こえない。


 拘束している「ブロック」の距離を縮める。


「いやさ。僕の勘……だと思ってたんだけど、図星だったね。この書類。なんで残しておくのさ。ビックリだよ。いくら隠し書庫とはいえ、時系列でちゃんとまとまってたら、誰にでも判るでしょ?」


 ペシペシ。几帳面なのかもね…歴史書とか編纂させたら良い仕事しそう。でもなー。うん。



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