310:狙い目

 ぶっちゃけ。今回の超特急便は、時間に迫られての使用ではない。だって、ディーベルス様は時間をかけて移動するんでも良かったのだ。


 超特急便にしたのは、雑魚を避ける為。そして敵に選択肢、時間を与えないため。


 多分、えーと。今回の襲撃現場となった、ここベシリア領を治めるベシリア子爵家ならともかく、その寄親であるオーヴェア侯爵家に罪を問えないだろう。そっちが黒幕なのに。


 だが、王家としては、敵対する勢力がハッキリすれば良いのだ。


 今回、超特急便で、ディーベルス様が移動してくるというのは非常に限定した者にしか伝わっていないらしい。にも関わらず、襲い掛かって来たということは、強力な圧力……後押しが加わっている。


 オーヴェア侯爵家とリドリス辺境伯家は何代も前からいがみ合っている所謂政敵。以前は二大派閥として王都を舞台に争っていたらしい。


 とはいえ。普通に考えれば、超特急便で移動する者を襲うという選択肢は、この世界の常識的にあり得「無い」。ということは、確実に、何か後押しがあったはずだ。


 ポーションという利権を必要以上に妄想、巨大化させて、目が眩んだ……だけなら、まあいい。


 だが、もしも先導している者がいるのなら。多分、緋の月の関係者の可能性が高いだろう。


 うん。そうなると、この国の内情、貴族社会の勢力図などと合わせて考えて、スゲー面倒くさい。なんかもう、登場してくる人物の名前を覚えるだけで嫌になってくるレベルなので、俺は考えるのを止めた。 


 後から追いかけてきているリドリス領騎士団の騎士達を待っていると、マールに乗った超特急便の斥候隊の者達が合流した。

 なんでも、先行走行していたら襲われたらしい。少々道を外れてそれを撃破して、戻ってきたんだそうだ。こちらはこちらで優秀だからね。王国騎士団の中でも、馬の乗り手として上位の者から選ばれている。

 

 だが。そういう事態になった場合、夜なら信号弾を打ち上げなければいけないのだが……その担当者の姿が見えないそうだ。なので、我々の馬車が、障害物手前まで進んでしまったというわけだ。


 ま。というか、そいつが内通者ですかね。うん。


 護衛の騎士の一人が報告に来ていた。リドリス家の領騎士団の精鋭だ。当然、ディーベルス様の事もよく知っている。


「ディーベルス様……襲撃班は、総勢53名。うち一名以外は全員、盗賊では無く、どこかの騎士団に所属してた騎士の様です。勝てるつもりだったのか、隠す気が無かったのか、全員似たような鎧下を着装しておりました。さすがに紋章は剥ぎ取ってありましたが」


 ……まあ、そりゃそうか。正確な情報が伝わっているのなら、護衛は五名。しかもディーベルス様はまだ代官で平民。貴族が私兵で撃ち殺しても「無礼だったので」で、どうにでもなってしまう案件だもんな。襲わないはずが無いのか。


「舐められたものだ……まあ、私自身の武勇がさっぱりなのを知っていての事だと思うが」


 ディーベルス様は、兄のドノバン様と違って、完全に文化系だ。武芸は一通り習っていたそうだが、全く花ひらかなかったらしい。その辺を知っていれば、まあ、武力での襲撃は舐めてくるのも普通か。


「その……」


「なんだ?」


「あ、いえ、生き残っていた一名以外は……52名の盗賊共は、全員、穴だらけで死亡しておりました……あの……これは……」


「極秘という事にしておいてくれ。リドリス家には、まだ、お前の知らない「裏」があるのだ」


「はっ! 畏まりました!」


 上手い。確かに嘘はついてない。さすがだ。騎士は去って行った。


「……それにしても……その。穴だらけなのは……サノブ殿の術……ということで良いのだよな?」


「ええ。説明しましたでしょう?」


「いや、だがな。呪文の詠唱も無く、敵を確認することも無く。さらに、馬車から降りることも無くそれを為したのだとしたら……それはもう、伝説の魔導士、おとぎ話の世界ではないか」


 ディーベルス様は観察力……いや、本当に頭が良いんだよなぁ。


「それよりもスゴイ。伝説の実力者だとしても、彼らは確実に、これから害しようとする敵を「目視して」「確認し」そして「目標として定めて」、魔術を発動していたと思う。ほぼ全ての歴史書に、そんな描写があったはずだ。それを……貴方は……」


「当然。絡繰りはありますよ。ですが、それをお教えすることはできません。ですので、純粋にこれが実力でもないのです。それこそ、戦場で、お互いの姿を確認し合った状態で戦えば……今回の様に上手く行くかどうか」


 うーん、いや、まあ、上手くいく、やるけどね。でも、だからといって、毎回、今みたいな無茶を要求されても困る。


「そうか……。ではこの後の索敵、護衛も、今回の様にお願いしてよろしいですかな?」


「問題ありません。そのために付いてきたんですから」


「それにしても、凄まじい力……ですな。それだけの力があれば……いや、止めておきましょう。サノブ殿は「スローライフ」を送りたいんだったか」


「うん、そうです。国とか貴族とか面倒なのとはとにかく関わりたくないですねー」


「そうか」


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