309:超特急便

 移動は当然の様に、超特急便のマール馬車だ。


 本当なら急ぐ移動では無いので、護衛と共に時間をかけて……となるのだろうが、現状はそんな甘いことを言っていられる状況では無い。らしい。


「疲れるのだよな……これは」


 ディーベルス様はウンザリ顔だ。カンパルラから王都までは40数時間。休息は馬車の中のみ、マール馬は途中で交換。箱馬車も車軸の摩耗などが心配なので、丸々交換するらしい。


「我慢していただく必要があります。最善手です。坊ちゃん」


 リドリス家からは精鋭が護衛として派遣されて来ていた。そこに「黒」のシグノさんも加わっていた。


 ディーベルス様が非常に苦手……といった判りやすい顔をする。


 シグノさんは「黒」ではあるものの、リドリス家のメイド長でもあり、行儀作法の教師でもあったらしい。


 まあ、つまり、大人になっても、頭が上がらないのだ。


 マール馬車二台は護衛と共に駆け抜けていく。が。15時間くらい進んだ所で、急ブレーキが掛かった。


 カンパルラを朝の六時に出発している。現在は夜の九時くらいか。ああ、ちなみに時計は全て遺跡発掘の魔道具だ。念のため聞いたことろ、現在、これを作れる錬金術士はいないらしい。それどころか、修復できる者も数少ないという。


 とりあえず、様子見に一人で馬車から降りて、確認する。


 馬車の前方を照らす、灯りの魔道具(本来はかなり暗い物だったが今回は俺特製のヘッドライトを装備させている)が、障害物を照らす。大量の木が倒され、道を塞いでいる様だ。そもそも、超特急便は区間毎に厳重な管理がなされている。


 超特急便は夜も関係無く走る。なので安全確保のため、マールに乗った斥候隊が先行しているのだ。なので高額になる。


 通常なら、その斥候隊から信号弾で緊急停止の連絡が入る。それが無かった。都市間交通であるマール馬車は、全て王家直営だ。当然、それを襲うなどリスクがあまりに高い。


 超特急便の都市間交通は城砦都市にとって、命綱になっているケースも多い。特に狂乱敗走スタンピード発生時に大切な人、物資、とにかくヤバい物を輸送している。


 実際に、王家印のある、公共馬車は避ける盗賊が多いのだ。襲った者はとことん追い詰められて、死罪となるのは当然のこと、血縁者が見つかれば根切りされる。

 その上、〇〇という盗賊団は「馬車襲い」として蔑まられ、名前が後世に残る。都市役所に羊皮紙が貼り出され晒され、それを吟遊詩人が読んで歌にし、酒場で歌う。


 俺がチラッと聞いた「馬車襲い」の歌は「愚かなビグラマはクバラマ村で愚かに育った(この部分、繰り返し)。ヤツに食べ物を与え育てた隣の家の〇〇と××は愚か者過ぎて死ねばいい……」なんて感じで、襲撃犯とそのプライベート、さらに歴史を含めて全てを否定し、貶める。

 俺なんかは聞いていると、かなり嫌な気分になるのだが、ストレス発散ソングとしてみんなで歌ったりもしていた。


 道を塞ぐ大量の木。森だからね。切り倒したのだろう。


 ぶっちゃけ、御者には、足止めからの急襲を警戒するようにと言い含めてある。危うげななく、停車した。


 確かに、さっきから小さい魔力の反応が……約五十以上……街道を塞ぐ様に配置されている。


 何となく、ああ、ここに居るヤツラは吟遊詩人に歌われちゃうんだなぁ~と思った。


「賊は五十ちょいですね。足止めします。この辺はベシリア領

でしたっけ……ああ。連絡したところで……でしょうか」


「ああ、そうだな。ベシリアはオーヴェアの寄子だ。切り捨てられたのだろう。……それよりも。本当に大丈夫なのか? サノブ殿が錬金術士にして偉大な魔術士なのは理解している。だが……この数は……正直、向こうの馬車にいるリドリス騎士は強者ばかりとはいえ、数が少なすぎる」


 護衛の騎士は五名。そこにシグノさんと、その手下の使用人が三人か。


「大丈夫ですよ。魔術を使える者はいないようですし。指揮している者くらいは捕らえますか」


「頼む」


 ディーベルス様とリドリス家の二人には、俺の力についてざっと説明してある。

 錬金術の他に、魔術も使えること。そして、それを駆使して近接戦闘もこなせること。マシェリエル様との一件の後、さすがに何も言わないのはな~となったのだ。


 まあ、そこでイロイロと解釈が広がって、リドリスの人達は俺の事を超絶達人? として扱ってくる。戦闘能力を持つ、実戦を経験している魔術士……が、ローレシア王国、そして周辺国では宮廷魔術士以外、ほとんど存在しないのだ。もしも居たとしても隠蔽されているらしい。


 それにしてもなんとなく「お願いします、先生!」っていうコントみたいな感じで、笑ってしまう。


 後ろから付いてきている馬車が停車する前に「石棘」で全員を一気に仕留める。なんとなく指揮官っぽいヤツだけ足を貫く程度で留めておいた。


 馬車の中にいるとあまり漏れてこないが、阿鼻叫喚な断末魔が響いた。


「はい。終了しました。後ろの騎士さん達に木をどけさせて、生きている隊長格の確保を」


「あ、ああ。済まないな。シグノ……」


「はい、坊ちゃん……」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る