308:六脚

「確かに……ディーベルス様は爵位を賜れば、子爵。さらに辺境伯の身内寄子。その上カンパルラ領主です。移動時に騎士団が側付くことになります。少人数で仕掛けられる最後の機会と考える者がいるかもしれませんね」


 シロも同意ということらしい。


「そうなんだよな……。ということで。この依頼は受けざるを得ないんだけどさ。俺がここを離れて平気かな?」


「計算上では……緋の月のローレシア王国対策員は処理済みだと思われます。ですが。周辺他国から増援が向かっているとしたら。少々危険はあるかもしれませんね」


「エルフ村の者達もそれなりには仕上がっているかと。御主人様が居ない間、周辺の森に配備いたしましょうか」


 松戸、森下は、エルフ村の指導員として、たまに訓練を施している。その際に完全な上下関係が構築され、今では指揮官的な役割を任せられる様になっていた。


「ああ、お願いしておこうか。後で後悔するよりもいいからな」


「畏まりました」


「戦力として……君ら二人。そしてエルフ村の戦闘要員。後は、城砦都市の守備隊と冒険者……か。冒険者の方がまだましなのかな?]


「そうですね……正直、守備隊は、ゴブリンやオーク等、狂乱敗走スタンピード対策用の人員と思った方が良いでしょう。訓練は全て近隣の森での魔物狩りですから。残るは冒険者ですが……戦力としてはそこそこですが、正直、がさつで身勝手な個体が多い様です。協力、共闘という概念が見あたりません」


 というか、冒険者っていうのは、それが特徴みたいだしな。この世界だと、我が儘な傭兵というか。だからこそ、実力が必要となる。自由を確保するには力がなければ無理なのだ。

 

 なので、こないだのマシェリエル様の様な腕試し、力比べは、都市外で仕事をする者達にとって非常に良くある事らしい。

 俺にしてみれば非常に嫌悪感が沸いた出来事だったのだが、リドリス家の面々が俺に気を使ってくれていただけで、それ以外の王都の人間にしてみれば「良くある事」だそうだ。特にマシェリエル様や武人系貴族の周辺では頻繁に行われるイベントの一つらしい。


 まあ、なので、今後も似たようなケースが発生する可能性は高い。特に……うちのメイドズはその手の事に巻き込まれるくらいには強い。というか、俺を除けば、カンパルラでトップクラスの戦力だからなぁ。

 

「絡んでくると思うぞ?」


「全て薙払います。魔術に長けた者で無いのなら問題ありません」


「帝国の人達以外でそこまで出来る人。いますかね?」


「王都を眺めた限り、そうそう居ないと思う。が。油断はな。禁物だから」


「そうですね~フラグ立っちゃいますから気をつけないとですねぇ」


「シロ。何か良い案は?」


迷宮創造主マスター、お忘れのようですが。御自身の天職は何でしょう?」


「うん? 迷宮創造主ダンジョンマスターじゃなくて?」


「はい。この都市で、のです」


 ああ、そういうことか。


「錬金術士だな。しかもかなりの凄腕の。表向きは商人だが」


 行商人として魔道具を売ってきたということになっている。


「はい。であれば……御自身で作られたゴーレムは、非常に優秀な守護者となるのではないかと」


 ああ……というか、マジデ忘れてたや……。そうじゃん。、俺、行商してた時の護衛をゴーレムで賄う程、ゴーレムに長けていたのだ。最近……そうか。支部長に対してプレゼンする時にしか稼働してないや。


 ということで、緊急時の切り札……として、ゴーレムを隠して配備しておくことにした。


 早速、錬金術士に転職し、工房にの作業室に籠もることにする。


 俺が現時点で作れるゴーレムなら、以前に狩ってゲットした素材でほぼ、問題無い様だ。正直、一生もののスゴヤツを作ろうとしていない。


 今回は、今回を乗り切るレベルで十分だ。


 ゴーレム……二足歩行は止めておこう。いきなりそんなクラスに手を出したら、何かと時間が掛かってしまう。


 とりあえず……多脚……か。六本足と八本足。どちらが優秀なんだろうか。キャタピラ……無限軌道やタイヤを利用した車系の駆体も考えたが、この世界はまだまだ、凸凹も多く、特に都市外で活動させるには、不整地されていた場所……森の中や荒れ地、さらに沼地も踏破できなくてはならない。


 って幸い、沼地はカンパルラ周辺には存在しない様だ。まあ、そうか。ちょっと山地というか、標高が高めなんだよね。深淵の森周辺って。


 ああ……そうか。汎用性よりも。移動砲台程度にして置いた方がいいか。


 六脚。二脚足りないが、蜘蛛型の身体の上に、砲塔を据え置く。砲塔からは金属の通常弾。と榴弾。さらに、ショットガンの様な散弾を用意しておく。


 ああ。暴徒鎮圧、魔物捕獲用のゴム弾を用意しておくのも良いかもしれない。投網ネット弾とか。


 いかんいかん、ちょっと考えこむとすぐに汎用性とか、特化性を意識してしまうな。


 極力単純な、移動して、敵を狙い撃つ……という仕様でまとめていく。サイズも全高が70センチ程度にしておいたのでそれほど威圧感は無い。


 とりあえず、カンパルラの城壁に合わせて、待機ボックスを用意した。車止めみたいな……まあ、昔のポリエチレン製の大きなゴミ箱みたいな感じだ。


 いざという時には、ここからゴーレムが……そうだな。シロの指示で動き始めることになる。


「シロ、それでいい? 一番俯瞰から戦局を見れると思うんだけど」


「畏まりました。ですが、私以外……松戸、森下にも指揮権をお与えください。私のみですとアンテナが破壊された場合、少々難しいことになりそうですので」


「判った」



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