307:護衛依頼
ディーベルス様に呼び出されたので、邸宅へ向かう。
実は、ハルバスさんの、フジャ亭の地下隠し通路に、工房からの地下通路を繋げてある。
通路をちょい拡大して、壁や天井を「大地操作」で強化して。
まあ、何の為? と言われれば、誰にも見られずに御屋敷に出入りするためだ。実は初期段階から、俺が代官であるディーベルス様と繋がっていることは箝口令が発せられ、極秘にされている。
このカンパルラで知っているのは……ディーベルス様とその御家族、グロウス様、ゲルク様くらいか。ディーベルス様が元同級生の二人に「しゃべるな」と言っただけなんだけどね。
とはいえ、城砦都市代官=領主(叙爵の儀式を行うまでに、もう少しかかるらしい)が、商業ギルドの支部長と、ギルドマスターに命じたのだ。
もしも何か怪しい……と思う者がいたとしても、都市のトップスリーが極秘であると言い切ってしまえば、それ以上踏み込めない。
まあ、巨大利権が絡んでいる上に、領主案件である話だ。今では都市上層部に属している者は、リドリス特製ポーションに関係しているであろうことは薄々気づいている。
まあ、今後、辺境伯であるリドリス家以外の貴族家が介入してくる可能性もあるし、さらに、闇の、裏社会の人間が侵入してくる可能性もある。
今はまあ、シロによって尽く潰せているが……うーん。多分、人口増加や都市の規模が大きくなったりしていけば、今の様な完全把握は無理だろうな……。
なんて考えながら、地下を歩き、御屋敷に到着。
「お呼びと聞きましたが」
ディーベルス様しかいない事を確認して、執務室に入る。
「ああ。すまないね。ちょっと今後の事をね」
「今後?」
「ああ。聞いている通り、この都市に辺境騎士団が配属される。その初任務が……私を護衛して王都に向かい、王都で叙爵、領主拝命の儀式を行った後、さらにカンパルラまで戻ってくるというものになる」
うん、何となく聞いてる。騎士団、最初から大変だなぁと思ってた。だって、まず、王都からカンパルラまで来て、ディーベルス様を護衛して王都に行って、さらに戻ってくるのだ。なんか、良く判らないけど大変ね。
「だが……それがな。少々面倒な事になっていてな……」
「どういうことでしょう?」
「帰りは問題無い。私はカンパルラ領主だ。辺境騎士団が守るべき主として何ら問題無い。何よりも、爵位も戴いた後だろうしな。だが。行きはな。私は平民の……いち代官でしかないわけだ」
「はあ」
「父上や兄上が、急遽、私を男爵に……と手配しようとしたのだが、私は今回、王命で、さらに直参となる。「いまさら」一時的とはいえ、辺境伯の陪臣とするのはな。イロイロと不都合が多くてな」
「つまり……平民であるディーベルス様を騎士団が護衛するのが不味い……と?」
「ああ。難癖が付いた」
ああ、うん、そういう粗探しするのがね。貴族社会らしいからね。
「くだらない。本当にくだらないが……確かに、騎士団をわざわざ一度王都からカンパルラ、そして王都に移動させるだけでかなりな補給物資が必要となる。実際は多分、特製ポーションを輸送することになるのだから、任務として何の問題も無いのだが、その辺の詳細は明かせぬのでな」
「確かに、領主予定の平民一人を、王都まで護衛する……のは金をかけすぎなんていう、言い訳を使ってきそうですね。反対派は」
「そうだな。そもそも、今回の決定に潜在的に反対している貴族家は多い。まあ、仕方ない事だと思う。これまで落ち目で……それこそ、辺境伯にも関わらず、取り潰しの危機すらあったリドリス家がいきなり、本当にいきなり、王家と深い関係を結び始めた。何よりも、全て極秘で行われている。その上、扱っている物が、特製ポーションとなれば……それはもう、全力で何かしらの利権に関わろう、加わろうとしてくるわけだ」
それはそうでしょうね……。というか、これまでのポーションが酷すぎたからなぁ。性能もそうだが、味がね。うん。あり得ないレベルだったし。
「直接的な……それこそ、侵攻し、カンパルラをこの手に……というのならリドリス家が出てきて叩き潰すこともできる。だが、王家とリドリスが組んでいる以上、それは不可能だ。なので、この手の嫌がらせが頻発するわけだな」
「そうなると……護衛依頼……ですか?」
「ああ。この都市の守護隊やリドリスの騎士団は動かせぬ。先ほど冗談で言った、他家の介入が無いとも限らないからな」
そうだよね。どの世界にもバカはいるからね。
「サノブ殿があまり目立った行動を取りたくないのは判っているし、国内の反抗勢力だけであれば、うちの手の者だけでもどうにかなるか……と考えたのだが」
「ああ……アレですか。帝国のヤツラですか……」
「うむ。うちの者だけでなく、それなりに優秀な冒険者に依頼しても、足らない可能性があるのだろう?」
ある……だろうね。というか、ある。
「そうですね。緋の月の……それこそ、一部隊は潰しましたし、それなりに幹部らしき者は始末しました。が。その力は明らかに……この国の戦う者達よりも力が上です」
「やはりか……。やつらの策略、我が娘に向けられていたモノに始まって、王都で行った大規模な治療。アレが若干でも知られれば、帝国の手がこちらに向かうことは明らかだったからな……不甲斐ない代官で、すまん」
「いえいえ、勝手にやっていることです。だから、何も恩を感じる必要はありませんよ。それこそ、ディーベルス様に報告もしておりませんでしょう? 「関係無い」というヤツです」
「そうは言っても……私は、この地の代官。そして、領主になるのだ。この地で起きた事の責任は私にある。サノブ殿は既に我が都市の住人であり、私の庇護下にあるのだ。力を使わせ、さらに気を使わせてしまう不甲斐ない領主で、すまんな」
「私は何も。とりあえず、話を進めましょう」
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