305:報告会

「確かに……なぜ、あの場所が判明したか……その理由は予想出来かねますね……調査時間もかなり掛かるかと思われます」


 アンテナがつながり次第、シロに調査依頼を出した。で。今さっき、工房に帰宅。現在絶賛分析中だ。


「んじゃ任すわ。でと。とうとうネームドが出現したよ」


 松戸はお茶だ。というか、最近気付いたんだけど、こういう……何気なく入れてくれるお茶のバリエーション多いんだよな……。

 コーヒー、紅茶、日本茶も緑茶、焙じ茶、麦茶、そば茶……俺が判るだけでもそれくらいのバリエーションがある上に、ジャスミン茶や中国茶、良く判らないけどスッキリするお茶等々。

 俺は自分で選ぶとずっとブレンドコーヒーで問題無い派閥なので、勝手に色々工夫してくれるのは非常にありがたい。


 しかも彼女がスゴイのは、彼女が入れたお茶を口にした際に「あ。今日はこの味じゃないんだけどな……」と思ったことが一度も無いって事だろう。


 以前、「本格的にやるにはもの凄く器材が必要になりますので~」と自分の入れるお茶は「適当」と言っていたが……まあ、確かにこっちの世界に来てからはティーポットやカップは常に一緒だから、そうなのかもだけど。


 正直、謙遜するような腕ではない気がする。そのお茶をいれるその腕も、そのお茶を選ぶ観察力も。


 机に置かれたのは……今日は麦茶か。うん。いいね。温かい麦茶は落ち着く。あれ? 麦茶って煮出すんじゃ無かったっけ? 用意してあったってことかな? あれ? いつ?


「ネームド! って色違いとか汎用よりも装備が豪華とかそういうやつですか?」


 森下は異世界に来て以来、確実に変わった。他人に興味がなく、あまり見ていない俺ですら感じているのだがら……よほどの変化だと思う。


「……「緋の月。十本の伍。アクリセ」……って名乗ったぞ」


「なななななな! 名乗り! 名乗り! しかも、肩書き! ああ、そこに通り名が加わればさらに倍、超絶フルハウス、ロイヤルストレートフラッシュじゃないですかっ! くはーーーーー。見たかった、聞きたかったぁ」


 うん。変わったよ。うん。


「つ、強さの方は……」


「強かったよ。こないだの隊商とは桁が違う。多分、松戸、森下が同時にかかっても、初見では厳しかったはずだ」


「……了解いたしました。その攻撃方法の共有をお願いしたいのですが」


 松戸の目がちょっと怖い。まあ、そうだよね。厳しかったとか言われちゃね」


「最初に……投げナイフだな。二人はどれくらい投げれる?」


 この二人、戦闘に関しては天才級だからな。さりげなく投擲スキルレベルマックスとかになっていてもおかしく無い。


「森下も私も、普通に投げる……くらいでしょうか。使えるというだけで、本物には叶わないハズです」


「そっか。なら、同時に何本投げる相手と戦ったことがある?」


「……えーっと。二本くらいですかね? あまり覚えてないですけど」


「はい。指に何本か挟んで、同時に投げる敵はいましたが、実用レベルだと二本くらいでしょうか……」


「放たれたのは一本のナイフ。にも関わらず、飛んできたナイフは三本。一本は最初のナイフの真下。丁度重なっているかのように見えるが、実際にはズレてるので、最初のヤツを避けたら確実に後追いで刺さってくる位置にだな」


 二人の顔が真剣になる。


 そう。今後、この手の攻撃を受けたとしても、この二人の技術があれば「知っていれば」対処は可能だ。


「さらに三番目のナイフは、最初のナイフの影を飛んでくる。これはもう、とんでもない技術だと思う。戦っていたのはちょっと前……日が暮れ始めた頃で、影は濃かった。夕方だな。瞬時に太陽の位置を把握し、発生するナイフの影になる位置に投擲した様だ。結論として、三本目はかなり斜下を飛び、突き刺さることになる」


「最初と二本目が腹を狙い……三本目は足、ですか?」


「うん、そうだね。虚を突いた投擲はそれ位の高さに投げるのが一番効率がいいんだと思う。俺は防げたから良かったけれど、正直、三本全て、剣で弾くっていうのは、厳しいな。多分、刃には毒か、麻痺毒が塗ってあったな」


 これがあくまで、小手調べ的な攻撃だ。


「今回の……アクリセか。ヤツの攻撃の本質は、魔道具を使用した攻撃だ。君ら二人が両手に短剣を持って、最大速度で連続攻撃を仕掛けたのよりも速かったとおもう。そんな連続攻撃の最中に、幾つもの魔道具を使用する」


「それは……」


 うん。そういう攻撃をされてしまうと、どれだけ俯瞰で見れてるかだからね……。集中してゾーンに入っていればいるほど、その辺に気付けない事も多い。


「ああ。短剣での攻撃で注意を引きつけて、その隙に、魔道具を稼働させる。しかもその魔道具がえげつない。ダメ元の先制攻撃で、毒や麻痺をばら撒いておいて、そういう物だと思わせておいて。身体強化、分身。最後は……かなり強力な爆発の魔道具で自爆かな」


「……それは……お話を聞いておいて良かったかと」


「いや~それにしても、その緋の月の人……かなり結束固そうですね~。自分の戦闘プランに一人一殺、自爆特攻を組み込んでるって。……宰相……どういう信頼を……あ。もしかして、あれですかね。有名な戦国武将の、衆道……配下武将全員が繋がって繋がって、最後、輪になって円をなすっていう……いやーなんていう! なんていうカタルシス」


 ……森下。うん、それフィクションだって聞いたぞ……。

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