304:死賭け

 それまで攻撃し続けて来たアクリセが後ろに飛ぶ。一気に距離を取った。


 そして……投擲。多分、火の魔術を仕込んだ魔道具……ボーリングのピン的な形状から考えて、手榴弾。ってあの形って、投擲しやすいんだろうなぁ~二つの世界で使われてるスタンダードで人間工学を極めたデザイン? グッドデザイン賞? などと考えてしまう。


 ……魔道具だから、あの中に何らかの魔術を仕込んでいるのだろう。で、あ。多分、爆発、爆裂するな。あれ。そんな感じ。


 うん、まあ、でも、それは無理だよ。


【結界】「正式」で魔道具を包み込む。そのまま、圧縮。小さくして……。


ビシュン……


 小さな破裂音が。それと共に、圧し潰す。


「なん……だと?」


 ああ〜まあ、そうか。この世界だと石を投げるとかの投擲武器、攻撃はあっても、魔道具を投げる……なんて非常識は無いだろうからね。魔道具=高いものだから、使い捨てとか……考えられないだろうし。

 そうなると、結構必殺技だったのかな。さらに、着弾すると、破裂、爆発するような威力……そうそう無いかも。これまで信頼と安定の絶大な効果だった……とか。


 でもさ。こういうのもあるわけよ?


「火球」「爆裂」 


 俺の頭上後方に十の火の玉が浮かび上がる。


「な、なんだそれは……」


 次々と襲いかかる火の玉。そして、着弾と同時に爆発! 


ドガーン!


「ぐうっ」


 今回は。イメージとして。ダイナマイトの爆発力に、焼夷弾の炎上力を仕込んである。炎上して森に被害は出るけど、まあ、後で消せば良いだろう。


ドガーン! ドガーン! ドガーン!


 と、連続で着弾、爆発を確認。


 二発目、三発目とギリギリて避けていたのが、四発目以降、爆発を避けられてない。


 ああ、ほら。


 六発目の爆発を避けきれなかった。


「ぐうっう」


ズガーン! バシュ!


 アクリセの左腕が肩から弾け飛んだ。おお。スゴイな。立ってる! それ、完全に致命傷だぞ? 


 右手の短剣。そして足。これが曲者だ。両足のブーツに仕込まれている刃と共に、周到にローキックと中段蹴り、回し蹴り、前蹴りに、足をカクンと途中で軌道を変える蹴りを繰り出してくる。


 血を吹き出しながら……文字通り、血塗れの猛攻だが。尽く俺には届かない。「切り裂きの剣」で、相手の末端を斬り落とさない様に弾いていく。


 魔術士と思ってたんだろうな。俺がいつの間にか手にしていた剣で全ての攻撃を簡単に受け流すと、物凄くイヤな顔をした。


 そして更に。


「風刃」「爆裂」


 こんなのもどうかな?


 「風刃」が、右脇腹をえぐり、炸裂。胴が半分弾ける。


 が。それでも。彼は止まらない。下蹴り、ローキック、左下斜め蹴り下げ、短剣の刺突。繋げてくる。とにかく、俺の注意を引きつけたいのだろう。


 それにしても。大量に血を失っているのに、こんなことをしたら。うん。俺の目の前で力尽き……そして。


 何か。使った。ああ。ああ。でも……これは、つまらない。


 爆発の気配。何てことはない、ウルトラダイ〇マイト……特攻自爆か。まあ、でも、それしかないんだろうな。うん。


 このレベルになると……生かして捕らえて拷問しても、何も喋らないだろうし。


 俺も、殺す気満々だしね。一矢報いるにはもう……って判断かな。


 ということで、その特攻を受け止めてやる。見せてくれた戦いの技術。それを身に付けるために行った必死の努力。せめてそれに報いよう。


ドドーン!


 最後の最後。アクリセはニヤッと笑った気がした。


 まあ、うーん。見事。辺り……半径十メートル一帯吹き飛んでるね。小さな、浅いクレーターが生じている。


 というか、一番魔力反応のあったのは今の自爆の魔道具か。

 これ、騎士団や軍隊の本陣に忍び寄って、いきなり発動されたらヤバいんじゃないか? 一人でもアレだけど、人海戦術で複数、それこそ、数十名で殺到されたら、守ろうとした盾役まで突き飛ぶコトになる。


 まあ、俺ならゴーレムに持たせて……自爆かな。って、そういえば、最近ゴーレム作ってないな。引き籠もりたいな。


 そして。

 

 右上方。五メートル位か。「正式」で捕らえて確保した。魔道具……多分、通信用の魔道具……か。


 彼が命を賭けて、自爆し、視線を釘付けにしてまで伝えたかった「情報」。


 最後の笑みは、これを無事、射出したって顔だよな。


 うん。二重に残念。残念賞でした。


 ジックリと解析させてもらうとしよう。


 それにしても……まず、この地が前回の決戦の場所だって……なんで判ったんだろう? 偶然では……無いよな。


 隊商に化けていた……えっと……何隊だったけかな? あの人達はみんな揃って確か、その辺の土の下……だ。うーん。魔力感知……では何も感じられないよな。うん。


 何となく気になるので、帰り道で、シロさんのアンテナを設置しながら帰ることにしよう。

 何かあるのかもしれない。継続して、調査するためにも、必要だろう。


 アンテナの元になる素材が無限にあるわけじゃないので、あまり、必要ないエリアに設置するのはやめてたんだけど……。そうか。カンパルラ周辺は徐々にアンテナエリアを拡充していった方がいいかもな。


 どこの携帯屋さんの全国展開の広告宣材の告知文句だよっていう……。


 

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