300:多分稀少

「貧民」地区にはもう一件、奴隷商がある。


 ゲットした二名の奴隷を、リドリス家に連れて行く。彼らは御家の手配で、馬車に揺られて、カンパルラに運ばれる事になっている。とりあえず、リドリス家王都の執事……その四? 位な人に世話をお願いして、もう一軒の奴隷商へ向かう。


 もう、一軒の奴隷商は……酷かった。ああ、やはり、この国にもこういう部分、こういう状況、こういう人間がいるのだな……と改めて実感する。


 そうだよな……。奴隷だもんな。


 目の前には横並びで二十程度の小部屋……いや。鉄格子がはまった牢獄。そこには、裸の人間が立たされている。購入予定者が来たら、手を上げて万歳の格好で、ゆっくりと横に回転するのだ。


 そこに一切の尊厳はない。


 最初に見せられたのは、これまでの奴隷商と同じ様に、服を着た七名の男女だ。こちらは至って普通。多分、他の商会を見て揃えたって感じだろうか。


「他にはいないのか? この規模の商店にしては商品が少ない用だが」


「どのような……奴隷をお捜しですか?」


 俺を案内しているのは商会長だ。リドリス家のメダルを見せて入ってきた俺にどこか怯えているというか。その目が、なんだか変な感じだ。


「様々な用途で使用する予定だが、何よりも、俺の直感に訴えてくる何かがある者を探している」


「お客様……実は……その手の趣味に応じた奴隷も各種取り揃えております。秘密は守っていただけますが」


「判った」


 それで連れてこられたのが、この地下室、地下牢だ。


 ここに並べられているのは商品だという意識はあるのだろう。食事を与えられていないとか、虐待されている様な跡は無い様だ。


 だが。うーん。悪趣味だ。本当に。


「ここにいる者達は……様々な事情で奴隷に落ちた者ばかりです。ですので、美しい者、強い者も多く。はい」


 ってことは……借金奴隷以外もいるってことか。まあ、そうだよな。

 拉致されて誘拐、奴隷にっていうパターンは多いだろう。カンパルラでも令嬢が攫われそうになっていたし、山賊が移動中の馬車を襲ったなんて話、結構聞く。

 特にここしばらくは、緋の月によって各地の山賊は活性化していたハズだから……それを受け容れるこういう商会があるのは当然だ。


 地下牢には、ヤツの言う通り、見た目が美しい、筋肉ムキムキの妙齢の男女ばかりだった。あ、いや、見た目はともかく、身体が魅力的ってな男女も多い。アレがデカいとか。


「うーむ。そそられる様な者はいないな……」


「そ、そうですか……」


「ここにいる奴隷は非常に価値が高い者ばかりだと思うのだが、価値が低い者は扱っていないのか?」


「……価値の低い……者は……その……」


「処分するか」


「……」


 まあ、そうだろうね……ここまで虚構の世界を作り出すには、裏が必要になる。これだけ厳選するには、落選した者達が多く存在するハズだ。


「そいつらも見せてもらおうか」


「……いえ、ですが……」


「秘密は守ろう」


「はい……こちらへ……」


 こういう所では偉そうにすると勝手に想像して怯えて素直に言う事を聞いてくれるというのを学習した。


 案内されたのは商会の屋敷の裏庭……「貧民」エリアと似た様な、粗末な小屋が並んでいる。


「ここにいるのは? 売れなくなった者……たちか。このまま?」


「は、はい……死骸を燃やすことはありますが……」


 ふう……饐えた臭い。糞尿垂れ流しなのが遠目からでも判る。奴隷だとしても不法な扱いなのだろう。


「このまま朽ちていく者達か。魔道具の実験に使用するには丁度いいか……」


 腕と足が変な形に曲がってしまっている者。病で、息絶え絶えな者。酷い火傷で全身が爛れてしまっている者。魔物に喰い千切られて腕と腰から脚の無い者。


 既に……口にするのも危ない状態な者も多い。傷口で蛆が蠢くのが見えた。


「この四名をもらおう」


「は、はい」


 お代はかなり安く……いや、ほぼ無料となった。ここから運び出すための馬車代を支払った様な感じだ。


 リドリス家の王都屋敷のこれまた裏庭に、「大地操作」を使って、簡易で立方体の部屋を作った。そこに、さっきの四名を裏門から運び込む。


 全員、自分で立つことが出来ていない。これまた簡易ベッドを並べて、そこに寝かせる。


 まあ、かろうじて生きているという感じか。痩せていたり、やつれているので首輪が妙に目立つ。


【浄化】の簡易版である、清浄棒を使いまくって、身体を綺麗にしていく。本当は水浴びとかお風呂とかで綺麗にしたいところだが、自力で出来ないからな……。

 これで、蛆も排除出来る。消毒薬的な使い方になってるな。


 というか、単純に俺が臭いのいやなのだ。


「全員……まだ、意識はあるか。水は飲めるな?」


 反応して、身体の一部が動く。全員、言葉を聞けているし、理解している。意識はある様だ。


 口から……ポーションを飲ませてやる。


 変な方向で骨がくっ付いてしまっている者は、ポーションを使用することを説明をして可哀想だが……六角棒で粉砕し再治療する。


 病の者には、悪性物質除去剤。火傷の者には中級体力回復薬でどうにかなるようだ。


 外見がみるみるうちに癒やされていく。魔物に囓られた者も、腰の肉が復活しつつある。さすがに腕は生えてこないが、若干盛りあがっていく。


 男女二人が魔術士。そして、魔物に囓られていた男が付与術士。そして。重度の火傷で息も絶え絶えだった少女(治療してみれば少女だった)は……癒術士。だった。


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