299:難易度高

 魔術士の属性は、土が一名。火が二名。水が一名だった。


 ということで、土と火の三名はディーベルス様に託すことにした。現状は奴隷だけれど、訓練して、実戦で成果を上げれば、奴隷から解放される可能性は高いという。


 いきなり「魔術士」とか言われて戸惑っていた四人は、自分の価値が信じられないらしく、未だ戸惑ったままだ。


「でだ。オリオラさん。貴方は水属性の魔術士ということで、まずは「水生成」の術をそれなりに使える様になってもらう。訓練です」


「は、はい……」


 オリオラさんは24歳の女性で元商人。


 一か八かで仕入れた穀物が、嵐に襲われ、さらに狂乱敗走スタンピードのせいで一切カンパルラに届かず、それを保証していた店の商隊が山賊に襲われ壊滅し、倒産したため、借金奴隷になるしかなかったそうだ。


 森下じゃなくても「うわぁ……」という。全部あいつのせいじゃん……という。


「と、とりあえず、頑張ってくれれば、ディーベルス様の方へ行った三人と同じか、それ以上の好待遇になると思うから。頑張って訓練して」


「わ、わかりまし……た」


 オリオラさんはあの店の前に、別の都市で売られていたのだが、その店で酷い扱いをされたそうだ。ボソボソと、自信なさげに話す。


 よく聞くと、酷い扱いをした奴隷商は、売り物である奴隷を輸送中に何度も山賊に襲われて、資金繰りが上手くいかなくなっていたと……。


「うわぁ……」


 実際に声に出た。まあ。その山賊……。


 とりあえず、オリオラさんは工房に部屋を用意して、ここで修行することになった。もう少し、対人のコミュニケーションが取れるようにならないと、生きにくいと思われたからだ。


 いきなり一人であの村はシビアすぎる。


「水の精霊よ。我が願いを叶え、水を施したまえ」


「水よ」


 置いてあるタライに水が落ちる。量も少ない。


「水の精霊よ。癒やす為の水を、流れる神の雫を、救いの力を込めて」


「回復水」


「回復水」の術の方がちょっとだけど詠唱が長い。やっぱり難しいんだな。


 オリオラさんの「回復水」は……本当に少量だった。一雫……ほどではないが、小さじ一杯程度か。

 まあ、術を使う事が出来た、そして術が成功して「回復水」が作成できたっていう部分で褒めないといけないところだな。これは。


(はい。そうですね。正直、天職だとしても、彼女の想像力はこの世界では、かなり上質かと思います)


 うん。


「水を知る……もっと水に慣れ親しむというか、親和性を高めると良いと思うよ」


「はい……」


「ということで、森下。連れてって」


「了解しましたー」


 ということで、温泉に連れて行ってもらった。折角常に入れるお風呂があるんだから、使わない手はないよな。


「オリオラさん、御主人様に御奉仕はどうすればいいのか? って言ってましたよ?」


「何それ。奴隷に対して酷い扱いをするのは契約違反なんじゃなかったっけ? そういう首輪だよね、あの魔道具」


「そうなんですけど、お互いの同意があれば問題無いし、女の奴隷はそうやって、基本的に普通に「使われる」んですって。まあ、そうなりますよね……こちらの世界、女性の権利なんて言葉すらなさそうですし」


 まあ、そうだよね。さらに貴族の婦人が購入して、男もそういうのはあるらしい。


「そうか……うーん、とりあえず、ここではそういう心配はしなくていいと、ちゃんと伝えて」


「はい」


 でも、実はこっちの世界の女性の地位はそこまで低くない。ただ……「戦える」女性に限るが。


 というか、そもそも、都市の外へ出て、戦える、戦闘関係の能力を所持している人の地位が高い。そこに男女はない。騎士や冒険者が尊敬されているし、憧れや尊敬を集めやすい。

 そういえば……天職のカテゴライズというか、区分けが、戦闘職と非戦闘職……って……。


「シロ。そうだよな?」


「はい。戦闘職と、非戦闘職となっています」


 この世界がそういうことが前提で設計されたものなんだろうか。あの女神様だからなぁ……。何となく神々しいイメージが無いんだよな。


「王都へ行ってこようと思う。メルエグ奴隷商クラスの奴隷商人が十以上いるらしいからさ」


「……先ほど、オリオラさんから聞いた話……ですか」


ギクッ


「いや、それだけじゃないけどさ……純粋に、早いほうが良いでしょ。魔術の初期訓練から始まるんだから、実戦投入できるまで多分最低でも一年、普通に考えれば三年くらいかかる気がするんだよなぁ」


「はい。そうですね」


 松戸……はいはい、私は全部判ってますよって顔やめろ……って森下まで訳知り顔で頷いてる! なんか腹立つ。


 ディーベルス様に伝言を頼んで、その日のうちに出発した。所要時間は約六時間。夜間の疾走だったのでちょっと時間がかかってしまった。


 相変わらず、臭い。


 まずは。二つある「貧民」地区の奴隷商だ。朝から店を開けているのは奴隷商も一緒だ。なんとなくこの手の店の開店は夕方からって先入観があるな。


 中に入る。リドリス辺境伯家の紋章の入ったメダルで身元は保証される。


「本日はどのような奴隷をお求めでしょうか」


「特に目的は無いのだが、諸作業の為に人手が必要でな。この店の売り物を全部見せてくれるか」


「畏まりました」


 店主は若干……慌てているようだが、そこまで動揺しているわけでもないか。


 ずらっと奴隷が並ぶ。この辺はメルエグの所とそう変わらない。ここは15名ずつ並ばせたようだ。


「この店には現在何名の奴隷が?」


「……現在……76名でございます。あ。昨日以前から受け渡し予定だった一名が売れておりますね。ですので、75名ですか」


 売り物の在庫把握は、大事だ。特にこの店の様に単価が高い物を取り扱う場合は、そのメンテナンスも重要になる。


 うん。服装も……メルエグの所程じゃ無いけれど、それなりにしっかりしている様だ。ここは問題ないだろう。


 肝心の魔術士は二名。ああ。前回はちょっと運も良かったのかな。


 

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