298:魔術士の地位

 隷属の首輪の持ち主を書き換える。首輪のプレートに俺の血を垂らすことで上書き、らしい。


 なんとなく仕組みは判ったが、そこに使用されている術やスキルの系統? が良く判らない。


「……隷属の首輪……ですか。自分のしていた物とは全く別モノとはいえ……見ているだけでちょっと……」


「ああ、そうだよな。嫌なことを思い出させたか」


 奴隷を連れて、とりあえず、工房に向かったのだが、ああ、そうだ。忘れていた。松戸達を縛っていたのは、これに近い力だった。


 とりあえず、四人の奴隷には別部屋で休んでいてもらって、世話をするのはエルフの二人に頼む。


 松戸と、森下には執務室に来てもらった。


「いえ。もう、何か心の傷になっている……とか、引き摺っているわけではないので。こちらこそ、申し訳ありません」


「そうですね……ただ、なんとなく、あの目は、思い出してしまいますね。あの頃を。だから、なおさら、御主人様と出会えて良かったと思えますけど」


「ええ。森下の言うとおりです。あそこから救われて良かったと」


「まあ、うん、とりあえず、彼らの適性を検査しないとなので、しばらくはここで生活することになるから。お客さん扱いでお願いね」


「畏まりました」


「シロ」


「はい。ここに」


 シロが具現化する。基本的に、シロはそこに居てそこに居ない者として扱うことになっている。


「今回、紹介された五十七名中、四名「も」魔術士を見つけられたんだけど……これは偶然? それとも必然?」


「……その人数で四名は多いですね。現状、迷宮創造主マスターが【鑑定】してくだされば天職が判りますが……私が所有しているのは、それ以外の情報は、石版登録時による、自己申告の職業くらいです。ですので……」


「まあ、正確な情報というか、意見が欲しいわけじゃ無い。なんとなくどう思う? って感じ」


 シロは基本、カンパルラで起こる各種イベントを感知出来るようになっている。が、それらの初動は、彼らの会話、魔力の大きさで判別しているそうだ。


 つまり、当然だけど、全知全能というワケじゃ無い。


 犯罪も挙動が怪しい者がいて、それを追跡し、事前に食い止める……というのは出来るしやっている。転ばしがそれだ。

 緋の月のヤツラを事前に探知して……というのも、カンパルラの周辺に設置しつつあるアンテナに魔力の大きな者達の集団が接近を感知。それをチェックして……という流れだ。


 音声を全て感知して、全録して……ってやればいいのかもだけど、リアルタイムで常時処理を続けて行くというのは、元々迷宮専用で作られているシロには辛いということだった。


 そりゃそうだよな。汎用型の……それこそ、スーパーコンピュータを使用した学習型AIだとしても訳がわからないくらいのスペックを必要としそうだ。

 シロが女神お手製で、なんていうか……非常に賢く、もの凄く自由度が高いから、イロイロと頼んじゃうし、相談もしてるだけで。

 比べるのもアレだけど、エルフ村のAIは正直、もの凄く単純で、何かと浅い。あいつにシロにお願いしているようなことを言っても、「不可能です」とか「対処できません」なんて返ってくる気がする。


「そうですね。この比率は確実に多い……かと。ただ……今回迷宮創造主マスターが【鑑定】したのは借金奴隷です。つまり、社会的に何らかの失敗、不運でその立場に追いやられた者達です」


「そうか。社会的弱者の中には魔術士が多い……ということか。帝国……というか、かの天才宰相さんはそこに気付いたのかもしれないな。魔術の……呪文書みたいなのは多分、あるんだよな?」


「過去の遺物の中には魔道書や、純粋に魔術読本の様な参考書もあるハズです」


「なら、それこそ、奴隷全員に何日か呪文を唱えさせてみて、術を発動出来た者を魔術士として登用するって感じか」


 シロが頷く。


「シロメイド長は魔力を感じることが出来るんですよね? 御主人様も」


 森下が呟くように言う。


「ああ」


「そういう魔道具は無いんですか?」


「……そうか。それもあるかもな。魔力の多寡を計れる魔道具を見つけて、それを使う事で、魔術士を見出したって感じか」


 まあ、帝国で魔術が使われているのは確実なので、今後の侵攻戦でそれが魔術……特に複数人が同時に行う、合体魔術? が使われるのは決定だ。


 対策としてそれも考えないとなんだけど……俺一人ならなぁ。安心と信頼のズルチートスキルの【結界】があるから。アレ、何気なく……魔術で破られたことないもんな物理だと破られる、壊れることがあるけど。


「あと……あの……隷属の首輪って取ってあげることは……」


 うーん。そこはなー。当然、森下も引っかかってるよな。


「難しいね。正直、俺も、個人的に奴隷制度には嫌悪感しかないんだけど、アレは彼らの……社会的な身分でもあるからなぁ。俺が自分で国を立ち上げでもしない限り無理じゃ無いかな」


「当然、誓約が掛かってるんですよね……?」


「かかっている。主人である俺に逆らえない。命令に従わないといけない」


「そうですか……」


「あの首輪があることで、彼らのこの都市での立場が明確化されているんだよ……俺も色々考えたんだけど、結構難しい」


 首輪が突然無くなると、当然、何があったのか? と思われる、怪しまれることになる。誰かの持ち物であるということで立場が保証されているのだ。


「あと「隷属の首輪」の魔道具で使われている術やスキルが判らないから、強引に外すのが怖いしな」


「隷属……の術といえば、精神に干渉する系ですか。闇属性とか。アゲアゲにするということなら、聖属性もそっちですよね」


「まあ、そうだろうな。その辺の詳しい情報はシロには規制がかかってて、教えてもらえないんだよな。付与術士が闇、癒術士が聖っていうのは判ってるんだけど」


「メイド長……規制……なんてあるんですね……」


「あるのです」


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