296:奴隷制度

(魔術壱であれば、呪文も判っております)


(お。たまには役に立つね! そうか。AIはその手の事を覚えておくのに最適だもんな)


(たまには……は少々悲しく思います……が、確かに、この手の暗記は得意です)


(「水の精霊よ。我が願いを叶え、水を施したまえ」


「水よ」)


(となります)


 おお。と伝えて、詠唱させるが……何も起こらない。


 ……俺もちょっと唱えてみるか。


「水の精霊よ。我が願いを叶え、水を施したまえ」


「水よ」


 ちょっと水の事を考えて、この詠唱を言った瞬間。


ドワーーーーー!


 うお! 濡れた! ギャア!


 何これ、何これ、とんでもない水量の水が溢れ出した。制御できない。ナイアガラか! これ。


「うわああ!」


「水があーー!」


 俺の無詠唱もおかしいけど、詠唱も、やっぱ、これはおかしいのか……。


 今、作業は、村の作業所みたいな集会場で行っているのだが、床も壁も、俺も。全面的にびしょびしょだ。テーブルの上まで流さなくて良かった。瓶割れたら悲しい気持ちになってた。


「はあはあ、サノブ様、お願いします、こういうことをするのなら、あらかじめ、その、どこに水が流れるとか人の居ないところでとか、何か考えてからで無いと」


 ベルフェごもっとも。


「しょうがないじゃん。初めて詠唱したんだから」


「初めて……で、今の……」


(サノブ様は、適性が……高いのですね……)


「ん? どういう?」


(そういえば……先ほどの回復水も……量が……)


(回復水の量?)


(はい……サノブ様は回復水を、一度にどれくらい生成できますか?)


(このガラス瓶……いっぱい。いや、限界は試したこと無いな)


(そう……ですか。その……私の記憶では……回復水はどんなに熟練の水魔術士であっても、両手ですくった程度しか作成できないものでした。それくらいで、魔力が限界になり、睡眠で魔力を回復しなければなりませんでした。普通の、大抵の水魔術士は片手の掌にほんのちょっと……といった所でしょうか)


 まじか……。


 それは……量産化にこぎ着けるには、まだまだ前途多難だなぁ……。


(じゃあ、何かい? 水の魔術を得意とする魔術士が大量にいないことには、ポーションの量産は不可能ってことね?)


(そうなります)


 というか、そりゃ……物も出回ってないし、高額だし、しかも古いものでも売れちゃうからそれが普通になっちゃうし……で、悪い事だらけだな。この世界の錬金術や魔術が劣化とかそういうのもあるだろうけど、物理的な量による希少性も関係してるな、こりゃ。


(エルフ……この村の中には……)


(そもそも、エルフは大抵、風の魔術「しか」使用出来ません)


 いないのね。まあ、魔術士でもないのに、風の魔術を使える様になってるってだけでもスゴイ事なんだろうな。


 確かに、俺も天職、魔術士じゃない場合、【魔術】を覚えるまで……異常に辛かったというか、術を使用すると吐き気、頭痛で気持ちが悪くなったもんな。

 天職が魔術士ではないのに魔術を使える場合、アレを乗り越えて、【魔術】を習得し、現在があるという証拠なんだよな。その辺、褒めてあげたい。


 まあ……うん。とりあえず、イロイロと問題山盛りということだけはハッキリした。


 とりあえず、気休めだしな。言い訳? ここにエルフ村があって、ポーションの作成作業をしている……というだけで今後、イロイロと捗ると思う。視察に来る馬鹿とか騙せそうだし。


「判った。とりあえず、研究開発を無理せずに進めておいて。俺もどうにか出来ないか、イロイロと試してみるから」


「畏まりました」


(シロ……この場合、最適解は?)


(水の魔術士の確保でしょうか?)


(そう)


(……魔術士自体が非常に少なく、さらに……水の魔術は使用者が少なく)


(ああ……まあ……最初期に使える術が攻撃系じゃないからか)


【魔術壱】で使える様になる水の魔術は「水生成」と「回復水」だ。うん、攻撃には使えないよな。

 今の世の中だと、そこから水の魔術がどう発展していくか……まで追いかけて、レベルを上げようとは思えないだろうなぁ。


(魔術の衰退ここに極まれり……ということで、多分そうかと……水の魔術は……正直、錬金術にも繋がる非常に大切な系列だと思うのですが)


(そうだよな……それこそ、長期間の旅とかで飲み水の確保が出来ない場合にとんでもなく有用なのに)


(はい……)


(次案は?)


(運も関係してきますが、天職、魔術士の奴隷の適性を確認する……かなり面倒だとは思いますが)


 奴隷か……ディーベルス様に任せて、触らない用にしてきたんだけどねぇ。


 この世界には……社会システムを支える為にも、奴隷が欠かせない。

 ローレシア王国にも奴隷制度が存在するし、カンパルラにはちゃんと法に準拠した奴隷商店が営業している。


(スゲー面倒だな……買ったはいいけど、水の魔術士じゃなければ正直、あまり使いようが無いというか)


(はい……)


(ちと相談してみるよ。ディーベルス……様か、な)


 ハルバスさん経由でアポを取ると、そのまま執務室に通された。

 あ。そうか。ディーベルス様が領主になったら、ここよりも城で仕事をすることになるのか。面倒だな……。


「水の魔術士……か」


「はい。確保しないと……将来、自分がいない時に大量生産は不可能です」


「それは……そうか……通常、急な人材確保なら……大抵は奴隷か」


「奴隷……でしょうか」


「異和感があるかな?」


「はい。私が育った世界では奴隷という存在を否定、廃絶する方向で動いておりましたから」


「そうか……」


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