289:殲滅

 おお。完全に虚を付けた……か。俺に気を取られていたからかもしれないけど。世界でトップクラスの裏の使い手が、奇襲に近い襲撃に、完全に対応できていない。


 うん、それにしても彼女達の……【隠形】もなかなかだと思う。スキルがあるかどうかは良く判らないけど、かなり気配を消すことは出来ている。


ガッ!


 振り下ろした両手剣が一人の身体をあっさりと斬り分けた。その結果、突出した森下に、二つの影が襲いかかる。


ビシッ!


 片方を……鞭が跳ね飛ばす。勢いがあったにも関わらず……跳ね飛ばされる身体。

 鞭ってなんていうか、皮を裂いて、その痛みで動きを悪くしたり、絡め取ったり……なんていう使い方を想像していたんだけどな。松戸が使う鞭の技は鈍器の様な使われ方をしている気がする。


 逆の影に向かって、地面に若干食い込んだ両手剣がその刃を向ける。


 森下と松戸の連携は……とんでもないと思う。隙が無いんだよなぁ。ここまで一瞬。数秒の世界だ。躊躇無く敵を斬り捨てるのもなかなかだと思う。


「侮るな……腕が立つぞ」


 メイド服だからね。バリバリ。スカートでこれは……うーん。まあ、古武術とか袴着装だからね。「運びが気取られない方が大事なのです」というのは松戸談だ。運びってのは、足の運び、動かし方ね。


 指揮官は……えっと、キシャナ・バルハか。彼がこの隊の隊長って感じか。


名前 キシャナ・バルハ

天職 盗賊

階位 28

体力 62 魔力 12


 階位28と体力62はかなりな数値だと思う。天職が盗賊ということだけど、体力が高い……これは……うーん。なんか、この辺の数値、ばらつきがスゴいんだよね。体格とか、訓練とか、影響が大きいのかもしれない。


 キシャナが手にしているのは……ああ、こないだマシェリエル様が使っていたのに似ている、細身に両手剣だ。


 盗賊なのに? 盗賊ってナイフじゃ無いの? その辺、帝国でも天職についての理解はそこまでじゃないと思っていいのかな。まあ、ここまで襲いかかってきてるやつらの天職もほとんど戦士や剣士だしね。


「ちっ」

 

 合図一つで……ああ。これはもう、多分、遠くに居る二人を逃がすためのフォーメーションに変わったか……。

 本当は、数名残して、帝国の実情を情報収集したかったんだけどな……。拷問した所で何も出てこない、時間の無駄系だろうな……。精神に侵入するとかそういう魔術があればな。ってあるのかな。うーん。


 まあ、しょうがない。


 こちらも。右手を少し動かして合図する。


バシュバシュバシュバシュ!


 一瞬で四本の矢が唸りを上げて飛んだ。


「グッ」


 後方に潜んでいた、連絡要員に命中する。足と頭……当たっちゃったね。というか、うちの人達は容赦ないね……それにしても。

 エルフの二人が両側から回り込んで、しかも木の上に潜んでいたのだ。いくら森が得意とは言え、完全にバレていなかったのスゴイよな。


「何故……」


「うーん。何故? というか、さすがに舐めすぎだと思うよ。まあ……君たち全員と連絡取れなくなれば……宰相さんも本腰を……いや、他に回してるお仲間を、こっちに回さざるをえないと思うんだよね。君たち……緋の月って彼にとって切り札でしょう。それが存分に使えないとなると、多方面で苦戦することになるからね。なるべくここに注目してもらおうかと思って」


「……キサマ……」


 明らかに顔色が変わる。図星だったか。


「アアアアアーーー!」


 既に彼以外は全員始末されてしまった。自棄糞……ではないが、剣を回して、襲いかかってくる。


 うん。


「石棘」


 足の裏から……身体を貫く。


 ついつい「石棘」を使っちゃうのは、ストッピングパワーが大きいからだろうな。人間くらいの大きさだと、一本で確実に動きが止まる。


「はいはいはい、この穴に~」


 五メートル四方くらいの穴を開ける。


「全部落として~」


 みんなに運んでもらう。全部で十四の死骸が投げ込まれる。


「何か持ってた?」


「ありませんね……通常の……行商に必要なアイテムばかりです。これ、御主人様でなければ判別できないと思います……」


「そうかもね……ああ。でも」


 キシャナの服の裏地に、隠しポケットが縫い込んであった。隠してあったのはこの国の地図。結構詳細だ。


 馬車の荷物に怪しい物は一切無かった。普通に麦や芋などの食糧、そして、鉄鉱石や鏃、日用鍛冶製品、さらに、宝飾品等が山積みだ。


「これ……事情を知らない人に見られちゃったら、正直、私達が山賊……ですよね」


「そうだね」


「戦争って、厳しいですね」


「うん」


 エルフの二人にはいまいち理解出来てない感じだけど、なんとなく……なんとなくだが、日本組はしょんぼりして、カンパルラに帰還した。


「お帰りなさいませ! 今日の夕食はハイオークのハンバーグになります!」


「わーい! 嬉しい! ありがとう、マイアちゃん」


 森下の反応が凄く良い。


「ああ、ありがとう。マイア」


 最近のマイアの料理は、サラダが旨い。こっちの素材に向こうの香辛料や調味料を使用したドレッシングが抜群なのだ。

 

(お疲れ様でした。現在、緋の月関係者含め、未確認対象、敵対対象は存在しません)


 ふう……食事をして、温泉に入って……そして寝よう。


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