288:温泉と確認
王都にいると面倒くさい事になりそうだったので、とっととカンパルラに帰還した。
ポーション服用にも関わらず、やっぱり、なんとなく疲れる。こういうのは幾ら高性能ポーションでも解消出来ないのか……。
「ということで……やっぱり、温泉は良いね……」
ぷはー。癒やされるー。
「本当に。ありがとうございます。御主人様と一緒であればどんな環境でも問題無いとは思っておりますが、ここまで素晴らしいプライベート温泉に入り放題なんていう特典を付けられてしまいますと、理性では無く、本能でメロメロになってしまいます。というか、なってしまいました」
うん。まあ、うん、温泉好きなのは良いし、いつ入っても良いよ……とは言っていたけど、松戸さんや。なんで、自然に隣で温泉に浸かっているのかしら?
しかも彼女、本格的に温泉好きですからね。ハンドタオルは脇に畳んでおいてある。身体を隠したり、ましてやタオルを巻いての入浴なんて絶対にしない。
「マッサージいたしますね」
うん。それイロイロと当たるマッサージですよね……。
「あのさ、俺、ちょっと疲れて……るんだけど」
「森下と一緒に村へ行かれましたし……私はお留守番で」
「でも、あの、別に何もしてない……よ?」
魔物がバンバンな野外でね。そういうのはね。ちょっと。お風呂も入れないし。魔道具に護られてるとはいえ。ええ。出来ないことはないと思うけど。
「あ。ほら! マイア! 貴子さんが抜け駆けてる! 言った通りでしょ!」
ガラガラ!
と横開きの扉が開く。この横引きの扉、こっちの世界だと結構珍しいんだよな……って現実逃避か。
ババババ!
っと音がする勢いで素っ裸の森下が飛び込んできた。
ジャバン!
……まあ、家庭風呂ですから……いいですけど。ちゃんとかけ湯しろよ。
「貴子さん、何も言わないで御同伴はズルイですたい!」
「……」
え? あれ? 森下の派手な動きに目が向いてたけど、あれ? ゴシゴシ……。
「マイア? あれ? いつの間に? というかなぜ?」
俯きがちで、顔を赤く……いや、お風呂だから赤くなるだろうけど、最初から赤いままで……裸だね。うん。いやいや、ホント、なんていうか、未成年に手を出す気はないから。うん。いくら成人と言われても、それはちょっと無理よ。
「大人ですから!」
いやいや……うーん。って助けを求めて二人を見れば、完全に俺のマッサージをどちらが先にするかで揉めている……。
……のぼせるわ……。
なんかイロイロと大変そうなので、さっさと出て……ぼーっとくつろぐ。ああ。まあ、こういうの……いいよな。スローライフか。
(おくつろぎの所……申し訳ありません。緋の月と思われる集団がカンパルラ西門に近付いております。全部で14名……マール馬車二台。行商人を装っています)
(そっか……少人数だと埒が明かないってことで、多人数で……って感じかな)
(と、思われます。極端に大きな魔力反応などもございません。どう対処されますか?)
(夜光都市……であるとか、住民には小型ランタン配付とかは別に知られても構わないというか、宣伝してるわけだしね。まあでも……一度見ておくのも大事かな)
(そうですね。敵の姿を……
……なんか、シロにもの凄い人間くささを感じる事があるんだよなぁ。まあ、俺はハイエルフだから、ハイエルフ臭さを感じるって事なのかな? うーん、よくわからん。
ということで、ご対面と相成った。西門手前に広がった森の途中。若干切り拓かれた場所だ。この街道は他の城砦都市に繋がっているので、昼下がりだが、近くには誰も居ない。
「で。御用の程は?」
全員が一瞬で戦闘態勢に入った。うん、速い。もの凄く鍛えられているのが判る。まあ、山賊だと思うよね。でもなぁ……それじゃ……。
「うんうん。スゴイ対応速度ですよね。全員。でもちょっと油断しすぎかな。これじゃ偵察に来てます……と公言してる様なもんだ。ああ、そうか。ローレシアは、宰相様的に後回し、最後の方に攻略すればいい国だからか。だから……潜入能力は低くて良いと判断したのか」
「!」
宰相様……というパワーワードをブチ込んだ途端に、雰囲気が変わった。うーん。判りや過ぎる。こりゃ、本当に下っ端をよこしてるんだな……。舐められたもんだ。
……いや、舐められても仕方ないか……。やられっぱなしの上に、何一つ関連付けられていなかったし。帝国の「て」の字も想像すらしてなかったもんな……。この国。諜報戦に弱すぎだ。
「な、何か御用でしょうか……私、この隊商を率いております。ベーベルと申しますが……」
「うん。キシャナ・バルハさんね」
全員の顔色が……今度こそ完全に変わった。キシャナの右手がちょっと動いた。
それと共に。ジリジリと移動していた自称行商人見習い四人が左右から襲いかかった。
「石棘」
まあ、そりゃそうだよね……。何も無いとは思って無かっただろうけど……警戒の無さから考えて、帝国でも魔術士はこういう戦い方をしないのか。
ちょっと見せしめ……な感じで、四人には太めの「石棘」で串刺しになってもらった。
「ちっ……全員で掛かるぞ!」
残りは十名。だけどかかってきたのは八名。二名は……情報を持ち帰る役……か。ああ、二人とも離れて……一人づつ配置されている。逃がさないけどね。
「それじゃ。頑張ってみようか」
「はい」
メイド服のままの森下が、大剣を振り下ろしながら敵に突入する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます