287:呆然

 息を止めた状態で……連続攻撃がスタートした。さっきのは二連撃。今は、五、六……七……おお。八連撃……行った。


「ぷはーーーっ!」


「何者だ? 今のは……多分、師匠でも……距離を取らずば避けきれん。お前は……何者だ?」


ガギッ!


「ブロック」で手首と腰を固定する。近距離で攻撃中にこれをやられたら、かなりの負担が発生するハズだ。自分の勢いで自分を傷付けるのだ。


「ギッ!」


 姫様の口から、漏れてはいけない音が漏れる。


 仕掛けられた時点で、接近戦だ。耳元で囁く様に呟く。


「お転婆なお姫様に一つお聞きしましょう。姫様の元夫である第二王子様……死因は本当に病死でしょうか? それも……件の宰相の仕業とは思えませんか? そして……もう少し……喧嘩を売る相手の力を計れる様になった方がいい。善良な人間は早く死ぬ。それがこの世の中の摂理です」


「なっ!」


 一気に後ろに退く。同時に「ブロック」を全消去する。


「何を、何を何を!」


 ああ、頭に血が昇っちゃダメだよね。


「うあああああああ!」


 駆けながら、振りかぶり、振り下ろす。単純な一撃。怒りや困惑に我を忘れ、愚かだが……だが、その真っ直ぐな一撃は姫様の為人を表している。


「ブロック」


 わざと。姫様にだけ聞こえるように、スキルの名前を口にする。


ガッ!


 さっきよりも大きな。鎧のどこかが……歪んだ音が聞こえる。まあ、ここまで全力、全身全霊の力を振り絞って突っ込んでくれば……その反力も相当なモノになる。


 もうね。俺の「ブロック」が優秀でね。前は、転がし師として、足元に置いて転がすとかそういう風にしか使えなかったのが、最近は一瞬で敵を「掴める」様になっている。

 まあ、簡単に言えば、向かってくる相手の周囲を完全に、透明「ブロック」で埋めてしまうのだ。


「正式」で籠というか、直方体や球体を作って敵を捕らえる……のもそれほど難しいことじゃない。だが、若干とはいえ、時間もかかるし、魔力の消費も激しい。それこそ、今みたいに結構なスピードで動いている相手に使うのは、難しい。というか、面倒くさい。

 

 その分「ブロック」なら、瞬時だ。異様なくらいコスパも良い。魔力減らないんだよね……。


 あ。俺ってひょっとして……迷宮創造主ダンジョンマスターじゃなくて、ブロックマスターなんじゃないだろうか……。迷宮もブロックで創るし、一番の必殺技は「ブロック」だし……。いやいや、まさか。うん。まさか。無いよね。無いよな? ……帰ったらシロを問い詰めよう。そうしよう。


「ちなみに。この状態ですが……ホンの少し、こちらからぶつけてしまえば……姫様は自らの力で自滅……自壊していたでしょう。それを……想像出来ますか? 理解出来ますか? 出来ないのであれば、未知の力をもう少し恐れると良いでしょう。戦争にでもなれば……いつまでも、手加減してくれる、優しい人々に囲まれていられるわけではないのですから」


 さらに退く。そして「ブロック」を解除。崩折れる様にその場で膝を付く姫様。呆然とした顔は……既に俺を見ていない。


名前 マシェリエル・ケレル・ローレシア

天職 剣士

階位 24

体力 48 魔力 31


 いっつも忘れてしまうので……鑑定してみると、うん、中々のレベルだね。戦闘中毒者バトルジャンキーなのも判るというか。


「アバル様。全身にポーションをかけた方がよろしいかと思います。多分、姫様、身動き出ませんよ?」


 これまた小さな声で、伝えた。


 アバル様が慌てて、ポーションを片手に駆け寄る。


 いま、戦っていた訓練場は、小さな体育館くらいの大きさだろうか。床は固く踏み固められた土だ。お城には、こういう訓練場が結構あるんですって。


 とりあえず、この後の事は辺境伯閣下にお任せして。ドノバン様と共に訓練場を後にする。


「結構喋っちゃいましたけど……大丈夫ですかね」


「判っているのだろう? マシェリエル様は賢い御方だ。何を呟いたかは判らないが、ノラムとサノブ殿の関係を含めて、あの方の中だけで処理されるし……多分、ああしたことで、無駄な追求は一切なくなるハズだ」


 好戦的すぎな気がするけどね。まあでも、アレは多分、拳と拳を合わせて友情を深める、青春バトル漫画的な展開だと思う。

 向こうの世界でも師匠とかあの辺はそんなノリがあったし、この世界の武闘派は……さらにその傾向が強い気がする。


「この件は一切……外には漏れんので安心してくれ。何よりも……戦女神の名に傷が付くのを嫌がるヤツラが多いからな。それにしても……。サノブ殿……貴殿は……剣もいけるな? しかも私よりも遥かに強い……」


 おお。さすが。この国で最も強いかもしれない男。うん。バレるよね。そりゃ。


「ええ。それなりですが。しかし、本業は魔術での攻撃ですよ?」


「ああ、そうなのだろうな……先ほどの技があれば、攻撃用の術を放つだけで、後は如何様にでも討ち取れる」


 うん。「風刃」でいけるね。首狩り。


「ククク……」


 お。ドノバン様がちょっとおかしい。


「つくづく……つくづく、貴殿が我らの敵とならなかったことを……女神に感謝するよ……。正直、それこそ、帝国の尖兵として攻め込んで来られたら。我々は為す術無く、全てを受け容れるしか無かっただろうからな……」


 まあ、うん、そう言ってくれるのは嬉しいけどね。


「必然なのだと思いますよ? 多分、帝国は……女神の意志とはズレた、何かをしようとしている。そもそも私は宰相のやり方は非常に気に食わないですしね。のんびり暮らしていく上で、絶対にぶつからざるを得ない。遅いか速いかの違いであれば……先手を取って潰して行った方が、こちらの消耗も抑えられます」


「ああ……。貴殿が平穏な生活を送れるように……我々はその恩恵を精々生かさせてもらうとしよう。さすがに今回の件は、帝国にも気付かれるであろうからな……」


 でしょうね……。ターゲットにした貴族子息子女を全部まとめて治療しちゃってるからね。いくらカンパルラで水際対策していたとしても、こちらからの報告で、リドリス家の詳細が天才宰相様に伝わるだろうし。


 小細工でちまちまは……どうかなぁ。止めちゃうかなぁ。費用対効果低いって理解されちゃうだろうしなぁ。


 



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