286:お願い
「それとこれとは別だろう。な? 師匠。此奴はどう見ても、私の知らない技を使うはずだ。戦わせておくれ」
マシェリエル様は……確か、戦女神と呼ばれていて、現在も姫将軍なんだったか。緊急時には近衛の女性騎士を率いて、王宮を護る事になるらしい。
ということで、初めて、じっくりと彼女の容姿を確認する。パッと見……つり目で鼻筋の通った少々キツイ顔立ち……だが、美人ではあると思う。あれだ、女主人公に意地悪する悪役令嬢ってヤツだ。この世界、この国ではお馴染みの、明るい茶色の髪をポニーテールな感じで結わいている。
身長は165センチ程度か。軽装とはいえ鎧を着ているから身体のラインとかは判らないが、それなりに痩せ型だと思う。
そうか~でもなぁ。この人バツイチで、多分……二十代後半だよな。そんな歳で、なんで、こんな辛抱貯まらんなバーサーカーなんだよ。
「すまん、ノラム……姫様は珍しい戦い方をする者に目がなくてな……昔は実力者とみると即挑みかかっていたのだが……最近収まっていたから、もう、落ち着いたのだと……」
ドノバン様に謝られても……これ、どうにかなるのか? そもそも、この人の前で、【隠形】状態がヤバかったってことじゃね? それ。
「師匠、それは自分の周りの興味のある者はほぼ、戦って、満足したってだけじゃ。そもそも……顔に酷い傷か。自分たちの作る、リドリス特製ポーションで癒やせぬものなのか?」
この質問は想定済みだ。
「ポーションには治せるものと、治せないものがございます。万能ではないのです。その良い例が彼、かと」
「ああ、まあ、良い。うん。昨日から、私の本能がうずいて仕方ないのだ。ノラムは強者であると……な。この為りでだぞ? 背は高いが、そこまで筋肉が付いているわけではない。さらに強者の圧を……一切感じん。にも関わらず、私の中の何かが叫び続けている。此奴は強い、此奴は強いと……」
なんだ……? 剣を抱えて、モジモジし始めた。
「姫様……」
「ドノバン……これはダメじゃ。ノラム……すまん。この状態になった姫様を私達は止められん」
「そもそもじゃ。ノラム……ではなく、サノブではないのか? オッドの報告ではディーベルスの連れて来た軍師……の様な男が、と報告を受けているが」
リドリスの二人がギクッとした。いやいや、それもちゃんと打ち合わせしたじゃん……。リドリス家の人達は元が善良で真っ直ぐだからなぁ。長期間、誰かを騙して生きて行くとか出来にくいんだよな。特に、王家には忠誠を誓っているから、この姫様を騙すのは厳しいんだろうな。
「確かに、ディーベルスの商会にはサノブという部下がおります。そやつはそやつで非常に有能ではありますが、ノラムとは関係無く」
「そうか。まあ、オッドに確認したところで、顔を見れないのではな……まあ、それはいい。どうでもいい。とにかく、戦わせよ! な! な! 頼む!」
……こんなんで頼むなよ……。王族が。
「ノラム……よいか」
頷く。ここまで来たら仕方あるまい。
刃を落とした武器による模擬戦……武器自体は本物なので、当たり所が悪ければ骨は折れるし、下手すれば死ぬ。
軽鎧……とでも言うんだろうか。あれかな、ミスリルなのかな。金属……のようで金属では無い感じの素材で作られてる胸鎧と鎖帷子と板金の組み合わせの脚装備。動きやすいだろうな。あれ。
うちのメイドズにも着せたら、防御力アップだと思うんだけど……着てくれないんだろうな……。なんであの娘たち、メイド服にあれほど拘りを持ってるんだろうか。
マシェリエル様は……細目の両手剣を手にしている。盾とか無しか。
「ノラム、大丈夫か……? 姫様はああ見えて、ドノバンの弟子の中でも上位の腕を持つ。実際に戦場で、何百人と殺しているしな……。あの見た目だが、この国でも五の指に入る武人よ……」
「父上、多分、問題はありません……」
あれ? ドノバン様は……俺の実力知ってたっけ? あ。そうか、一度、止めたか。彼のかましを。
「ノラム。頼む。この期に及んでだが……一切傷を付けずにお願いしたい」
「な。ドノバン、それは……」
「頼む」
頷く。まあ、そうだね。彼女は確実に味方……だろうしね。アバル様を爺と、ドノバン様を師匠と呼んでいる。身分は違えど、娘や妹みたいな関係なんだろうと想像出来る。
ドノバン様に……最終確認をしてもらう。
「姫様、ノラムは魔術士です。剣を撃ち合う様な模擬戦にはなりませんよ? よろしいですね?」
「ああ、判っている。これまで、何度も魔術士と戦ってきたからな。潰すような事はせぬよ。それに、大抵の傷は特製ポーションで治るだろうしな」
やる気まんまんじゃん……。
「では行くぞ?」
姫様が構える。おお。様になってるね。両手で持った剣を後ろに回している。
ああ。あれで、どこから剣が出てくるかを読ませにくくするのか。
シッ!
踏み込みも速い。あっという間に距離を詰められた。そして、死角……になるであろう方向からの横切り。そして、返しでの振り上げ……おうおう。この連続攻撃はなかなか、避けられないんじゃないかな。
「ちっ……お前……」
ああ、気付いたか。なかなかの腕前ですね。ちゃんと周囲を見れてる。判ってる。
一連の連続攻撃を……俺は一切動かず、足を動かさずに避けたのだ。
「ならばっ!」
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