285:出戻り
「その者が、かのエルフか。辺境伯の次男が助けたという」
「姫様、正確には、エルフ村の者達との連絡役です。長ではありませんし」
俺は頭を上げない。返事もしない。膝を突き、頭を下げたままだ。
「相変わらず細かいな。まあ、よい。王族とはいえ、私は既に王位継承権も無い、公爵位を受けた身。身分で言えばアバル爺と変わらんよ。畏まるな」
そう言われてまあ、とりあえず、立ち上がる。
「ふうん……ここまで見事に気配を隠したまま、目の前に立たれたのは初めてだな……先ほどから「裏」のやつらが落ちつかないハズだ。まあ、よい。アバル爺。此奴に任せて良いのだな?」
「はっ。姫様。この「ノラム」の失敗は我が家の失敗としていただいて結構です」
ああ、家を賭けさせちゃってるなぁ。
「そうか……。すまんな。本当なら、王家が全ての責任を負わねばならぬ事態だというに……」
「いえ。貴族の、この国に仕える貴族としての責務でありますから」
これが帝国宰相の策略として考えると……と言うことか。
「ノラム。我が名はマシェリエル・ケレル・ローレシア。元第一王女にして、次期国王である王太子にしてみれば、出戻りの口うるさい姉じゃな。煙たがられているので、今回の様な嫌われ役には好都合というわけだな」
おうおう。イロイロと言ってくださるのは嬉しいというか、ありがたいというか、こちらからは聞けないからね。
というか、俺は基本、喋らないようにした。火傷を負った際に、喉も痛めたということにして、ドノバン様に会話していただく事にしたのだ。
自由に話させると、ヤバいことになりかねないと、ドノバン様からの提案だ。うん。判ってる~。
「よろしくお願いいたします、とのことです」
マシェリエル公爵閣下は、先ほど本人の口から説明があった様に、適齢期に隣国レデフの第二王子に嫁いでいる。
が。第二王子は病弱で二年程で病死。未亡人となった彼女に、第二王子が下賜されるハズだった爵位を与えることを反対した勢力と争う事を良しとせず、ローレシアに出戻ることになったそうだ。
その際に、彼女はローレシアの王位継承権を破棄。爵位を賜り、女公爵として、現王、弟である次代の王を支えると宣言したという。
ん? あれ? その病死。なんか策謀の臭いがするなぁ。するけど……まあ、いいか。
「ああ、まあ、そうだな。今は無礼だなんだと言っている場合ではないな。こちらだ。早速頼む」
ベッドに横たわる子息子女の患者さん。敢えて名前などは聞いていない。性別、年齢、そして症状の詳細のみだ。
「男。11歳。体調不良になったのは約一年前。それ以来寝込んでいるそうです。現状、リドリス家特製ポーションによって安定している状況です。というか、現在王都に集められた貴族子息子女は11名。全員が特製ポーションにより、小康状態を保っています」
それは良かった。今、説明してくれているのはマシェリエル閣下直属の部下らしき女性だ。近衛騎士……かな。多分。
「では。まずは診察を」
ドノバン様に言っていただいて、少年に近付く。毒は消えている。そして発症している病気は……クーリア様と同じ感じの咳を伴う……肺炎、結核とかそっち系だと思われた。
というか、今回使用された毒は、そっち系の病気を併発させる効果もあったのかもしれない。
中級細菌除去剤。ぶっちゃけ、初級で十分だと思うのだが、もしも治らない場合が面倒なので、中級を使う。11名中、10名が、それでどうにかなりそうだった。
残りの一名が……肺炎、結核系の病以外に、腫瘍だかなんだか……とにかく、ヤバい感じのする症状が残っていた。なので、錬金術レシピ的には、素材がレアな初級悪性物質除去剤も飲ませることにする。
これで治らなかったら、カンパルラに来てもらって、幾つも薬を試してもらうしか……と思っていたのだが。
治療を施した次の日。昨日と同じ感じで、マシェリエル様に呼び出された。
「これまで問題になっていた咳などの症状が……出なくなったそうだ。全員だ。しかも話もし始めたし、ベッドで起き上がって、食事までしようとするモノまで出てきたそうだ。これは今後回復に向かう……と考えて良いのだな?」
「問題無いそうです。いま一度診察させていただきたいとのことですが」
「ああ。それくらい何てこともない」
一通り、診察しなおして、多分、大丈夫だと判断した。しばらく定期的に、初級体力回復剤、初級精力回復剤を飲む様に指示する。
「見事……だな。うん。ここまであっという間だと何も言葉が出てこない。感謝しよう」
マシェリエル様からありがたい御言葉をいただいた。
「だが。最初から非常に気になっていたのだがな。師匠。此奴と手合わせは出来るのだろう?」
「……姫様……」
は? どういうこと? ドノバン様がヤバい……って顔をしてる。予想してなかったのか。
「この者は……仕えると言ってくれていますが、我が家に取って非常に大切な……客であり、村との関係を確認するための保証でもあるのです。そのため私や父上が必ず護ると誓いました。それは……王家に対しても変わりません。彼と戦いたいというのであれば、まずは私と、ですね」
おお~さすがドノバン様。元剣術師範。頼りになる~。
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