284:辺境伯閣下
ここまで、貴族専用の門を通過している。王都に到着してから顔には自分で改造したマスクを装備している。そして、当然、偽名だ。
この辺の門の通過は風体が怪しくても、裁きの水晶が反応しなければ、基本問題ない。
まあ、俺の場合は、リドリス辺境伯家の紋章の入ったメダルを持っているのも大きいのだろう。
これがあれば、少なくとも、王都の「貴族」地区にあるリドリス家の王都屋敷まではノンストップで到達できるハズだ。
ちなみに、王都は、「城」「騎士団」「貴族」「上」「中」「商業」「職人」「外」という地区、エリアに分かれている。まあ、「外」のさらに外側に、「貧民」地区が二つ存在しているんだけどね。
「馳せ参じました」
文字通り、走ったよ。
「お、おう……速いな……。というか、御苦労」
リドリス家の御屋敷に着くや否や。領主補佐執務室、まあ、ドノバン様の執務室に即通された。そういう命令が出されていたのだろう。俺の姿を見ても、何一つ反応が無かった。
どう見ても怪しいのに。
「事態は一刻を争う……。正直、状況を確認したが……アレは心を苛む。子供が苦しんでいるのを連続で見ると怒りがこみ上げてきて我慢ならん」
「判りました。病気が……そこまで悪化しているということですか。辛そうですね」
「ああ……頼む。どうにか助けてやってくれ……早速……ああ、その前に、父上に面通しせねばな……父上には明かして良いのだろう?」
頷く。今回、一番の被害は辺境伯だからね……。
案内されたのは、領主の執務室……なのだろう。ドノバン様の部屋よりも広く、応接セットも豪華だ。
「お前が……サノブ、か。いや、サノブ殿だったな。我が子、我が孫が世話になった。さらに、リドリス領を救ってくれたのだったな……。感謝の念しかない。不甲斐ない領主で申し訳ない」
おいおいおいおい……会った瞬間に謝罪、そして、頭を下げてるよ……辺境伯閣下が。この世界だとヤバいよね。これ。本当に。
「アバル・シアロ・リドリスだ。このような情けない才ながら、辺境伯を任されておる」
うわ……名乗りも先にやられちゃったよ。
当然だが、対面しての名乗りは、まず、身分の低い方が謙り、名乗って、上の人に認識してもらい、許しを得て、そこで初めて、偉い人が名乗ることになる。
「辺境伯閣下……頭をお上げください。リドリス家の方が気高い魂を抱いているのは十二分に理解しております。それこそ、ディーベルス様、ドノバン様にも何度も謝意をいただいております。これ以上は身に余ります」
「リドリスの責任は全て私にある。サノブ殿が我が領を救ってくれた事は間違い無い。しかもここまで大きくやられてしまっては……感謝するくらいしか出来ぬ。褒美など興味がないのだろう?」
「そんなことありませんよ。もらえるモノはもらってますし。何よりも……一番面倒な部分を……辺境伯閣下に押しつける形になってしまって……申し訳ありません」
「……ドノバンとディーベルスの言う通りか……。サノブ殿は……我々よりも遥かに筋が通っているのだな。外面や建前、そしてプライド等関係ない。そこで生きる民の為か」
「いえいえ……私は、私が「暮らしやすく」したいだけです。目の前で人が死んでいく都市で、国で、それに目をつぶって生きて行くのが辛いだけですから」
「……そうか……つくづく不甲斐ないな……私は」
「この状況で、リドリスの血は皆、自らを責める。それは非常に価値の高い、崇高な魂としか言いようがありませんよ。だからこそ、私は辺境伯家に賭けることにしたのです。勝手に賭けたのですからお気になさらずに」
「そうで……あるか」
この段階になって、やっと、顔を上げてくれた。ああ、まあ、うん。ディーベルス様のお父上ですね。理知的で……ドノバン様は武闘派だったお祖父さん似かな。
「とりあえず、ここに居るお二方以外の方が居る前では、私はこのマスクをして、【隠形】のスキルや、隠蔽効果のあるコートを着たままで、存在を曖昧にさせていただきます」
黒いマスクを装備する。マスクに「風盾」の呪文を魔道具として組み込んでいるので、途端に顔がハッキリ見えなくなるハズだ。
さらに【隠形】を発動させる。これでさらに存在が薄くなると思う。
「見事なモノだな……。あれだけ怪しい黒マスクの男が……そこに何もいないかの様だ」
武闘派、剣術指南のドノバン様の目や気を誤魔化せるのなら、十分だね。うん。
「説明の方は……よろしくお願いいたします」
「ああ。我々が出来るのは我が身を盾にしてでも、サノブ殿……あ。いや。名前はなんだったか?」
「今後、カンパルラ以外の地では、「ノラム」と名乗ろうかと思っております」
うん、まあ。ネーミングセンスはない。ゲームでキャラメイクの際にサノブの次に使用していた名だ。
「判った。ノラム。この名の時は、リドリス家に使えている錬金術士一族の代表ということで良いのだな?」
「はい。ディーベルス様にお助けいただいた、エルフ一族の代表者。その際に顔に大きく傷を負ったため、顔にマスクを付けていると」
「傷痕を見せよと言われる可能性があるぞ?」
「その際は。こうして」
マスクをめくって見せる。そこにあるのは、干からびた肉を薄くのばして、俺の顔に合わせたモノ。認識阻害効果で、境目が曖昧に見えるため、バレないハズだ。
「ああ。それなら……」
「そうだな。良し。今から城に参ろう。確か、昨日には全国から子息子女が到着しているハズだ」
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