283:王都

 魔法鞄にイロイロと詰め込んで、カンパルラを離れた。領都リドリスを横目に、王都へ続く街道を駆け抜ける。


【隠形】バリバリで認識を曖昧にしているので、道行く人に異和感は持たれない。


 たまにマール馬車とすれ違ったり、追い越したりするが、ぶっちゃけ、深淵の森を駆け抜けた俺からすれば、全く困難では無い。


 というか、歩いている人があまりいない時点で楽勝だ。


 街道脇には脇道、林道というか支道、獣道というか、とにかく並行に細い道が続いている。通常の行商人、旅人、冒険者なんかは、一切街道に出ず、そちらを利用する。

 別に街道を歩いても問題ないのだが、マール馬車は速度が速く、もしも事故にあっても、避けなかった方が悪いとなってしまうからだ。

 この辺、日本での交通事故事情を知っている側からすると、かなり命が軽い。


 都市間交通、その連絡網は非常に重要なのだ。そのため、街道では人間よりもマール馬車が優先される。貴族が優先されるのでは無い。馬車が優先される。


 それにしても……マール馬車は時速60㎞くらいと思っていたのだが、もしかするとそれよりも速いかもしれない。70は出てるか。これ。


 それこそ、瞬発最大速度は100は出ちゃうのかもしれない。高速道路を走る車と変わらんな。つまり、感覚としては、街道は高速道路。脇道が国道? みたいなものなのかな。


 そんなマール馬車よりも速く。俺の走る速さはその4~5倍。多分、平均でも400㎞/hは出てると思う。正直、以前に比べると格段に速くなったと思う。自分でもビックリだけど、【結界】「正式」を纏っているせいか、そこまでの速さを感じられないのがちょっと残念というか。


 日本で走る速さが速くなったのは能力値が上がったせいだと思っていたのだが、アレは能力値に加えて、自然に気力を全身に満たすことで身体能力をアップしていた様だ。それをさらに進化させている。


 気力と同じ要領で、魔力を身体中に巡らせる事で、身体能力がアップするのだ。最近遠出する際に魔術士であることが多いのは、火力が高いだけでない。この魔力による身体強化で、純粋に全能力値が上がっているからなのだ。


 あ。俺、そんなことより……レベルアップしてくるの忘れた……。まあ、基本エルフ二等兵達に魔物討伐させてたからそれほどレベルは上がらない……いや、固有種とか面倒くさい敵は俺が倒してたか……。んじゃそれなりにレベル上がるな。忘れてたな。なんか勿体ない。

 こまめにレベルアップしておかないと、強制睡眠が来ちゃうからなぁ。アレ、もの凄い弱点だよなぁ。


 領都リドリスまで俺の足だと一時間ちょいで到着した。


 さらに……そこからマール馬車の超特急便で40時間、約二日の距離にある王都ローレシアまで、2400~2800㎞……くらいだろうか。日本を直線で計ると大体3500㎞とか聞いたことがあるから、普通に北海道の端から沖縄の端くらいの距離か。遠いな……。


 この国……広い。というか、この大陸が大きいのか。


 カンパルラが東の端で、王都を中点に、西の端は同じ位の距離があった気がするので、横幅が5000㎞くらいだろうか。ニューヨークからロサンゼルスが4000㎞だったから、単純に米国よりも大きい……ということになる。この国のみで、だ。


 もっとコンパクトに生活すればいいのに。魔物が多いエリアを避けてるから……なのかな。人の生息エリアの決定方法とか良く判らないな。


 王都まで……俺の足でも5時間ちょいかかった……。ポーションを飲用しているとはいえ……なんか疲れた。魔力も消費してるみたいなので、魔力回復薬もぐびっと言っておく。


「それにしても……臭いな……」


 王都は……こうして見ると荒廃している様に見える。遠目に見て……城壁が中央を護っているのはカンパルラと同じ構造だ。

 数は違うけどね。物量的に……第何城壁まであるんだろうか。その数だけ、当然、巨大だということだ。まあ、外見の基本はカンパルラ……に見えないこともない。


 違いは、その周囲に……裾野のように広がる……貧民街だ。王都だけあるのか、スゴイ規模だ。なんていうか……火を付けたらよく燃えそうだよなぁ……。


 それにしても臭い。下水のシステムが追いついてないというか、無いんだな……。下水が無いと、汚物はその辺に埋めるか、放置ってことになるからな。


 貧民街もここまで大規模になると、国としても無視は出来ないのだろう。みすぼらしい……バラック小屋の中に時たま、そこそこ立派な石造りの建物も点在している。


 役所……か、王都守備隊の出張所か。まあ、うん。お疲れ様ですっていうね。


 第一の城壁の門をくぐる。俺は東から来ている……ワケだから、多分、東門になるのだろう。門の脇には守備隊の詰め所はあるのだが、誰何や、チェックを行っていない。


 これは……どうなんだろうか? と思いながらも中に入ると、その理由が分かった。


 門の内側も、貧民街と変わらない街並だったのだ……。


 うーん。都市計画に失敗したのかな? 通常の城砦都市の門と同じ様に、誰何があり、さらに、裁きの水晶による犯罪者チェックが行われたのは、第二城壁の門からだった。


 ここからが……本当の王都か。


 街並が見慣れた石造りに変わったし、何よりも、臭いが消え去った。ああ。下水等の【浄化】システムが稼働しているんだろうな。

 

 まあ、うん。気にし出すと正直、キリが無い。なので、さらに奥の城壁、門を目指して進む。



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