282:製法

「だが……考えれば考えるほど、貴方は我々に与えすぎだ。特にポーション作成の手順を……外部の者に教える等、本来ならあり得ない状況になっている」


 もの凄く悔しそうだ。まあ、イケテルダンディお貴族様だからね。ディーベルス様は。絵になるね。


「だが、ポーション作成がリドリス家の物だというのなら、話は別だ。王家も今回の様に国のために、国の利益のためによこせと言いやすい。以前言っていた通りとはいえ……貴方には利益が無い。なぜ、そこまで……と思わざるを得ない」


「正直、ポーションの製法、私の知っているノウハウ、正確な作り方なんて、大した秘密じゃないのですよ。キチンと技術が伝わっていれば、本来なら、普通に出来ていた物なのです。覚えようとしている人の資質にも大きく関わってきますから、絶対に伝授できるとは言いかねますし」


「そんな……」


「ちなみに。ポーションが錬金術の基礎の基礎となることはご存じのハズです」


「だが……」


「ええ。とにかく不味い。アレは全て、素材の鮮度、そして細かい気づかいが足りない……くらいです。効能は……確かに私の作る物に比べて落ちるとは思いますが、味はそこまで落ちませんよ。ああ。そうか甘いのは……他に有用な素材が混ざっているのでそこは無理か……少々苦いお茶程度の味に落ち着くはずです」


「……いや……判った。もういい。私は……とにかくこの国の者がそしてこの世界の者が何を言おうとも……私は貴方の側に付く。いや、付かせていただく。既に何度の命を救われたか判らない。無能である我々……リドリス家は文字通り行き詰まっていたのだ。それが帝国宰相の策略であろうと、本当の天災であろうと関係ない。領主たる者、それらの艱難辛苦全て受け止めた上で運営していかなければならない。貴方がいなければ、この地は……早晩侵されて、民がどれほど苦しんだか判らぬ」


「こちらにも利があると。何度も」


「ああ。だがな。それでもな」


「兄上、辺境伯閣下に何か御伝言は?」


「無い。で、できれば……王族にはお手柔らかに頼む……」


 うーん。無理……かな。笑。


 許可が出たので、速攻で旅支度を行う。


「松戸。緊急事態状態は維持。この工房まで敵の手が伸びることには成り得ないと思うが、俺の居ない間にどのようなトラブルが発生するか判らない。そこで、俺の能力の一つを明かしておく」


 現状、俺の執務室というか、書斎にいるのは松戸、森下のみ。


「シロ」


「はい、迷宮創造主マスター。こちらに」


「なっ! よ、ようせ……いえ、大妖精……でしょうか」


 まあ、身長は……150センチ位。白い髪。肌色……といえなくもないけれど白い肌。瞳の色は黒。複雑な意匠が施された、白い貫頭衣。羽根は……あれ? ちびっこい時は飛んでたよな。そういえば。今は羽根ない。飛んでないや。


「シロさん?」


「はい。迷宮創造主マスター補助機構附属多方向対応支援妖精最終世代第弐形態、シロです。御主人様の補助を任されています。まあ、この世界で言えば、メイド長といった所でしょうか」


「今後は俺がいない場合はシロの命令に従う様に」


「よろしくね」


「よろしくお願いします」


「す、すごい。上司が妖精とかステキ過ぎる!」


「シロは基本、この執務室で稼働する。松戸、森下は一定時間毎に連絡を取り合うように」


「緋の月……の構成員が二名。侵入しました。排除いたします」


「……」


「排除?」


「現状既に、カンパルラは帝国、特に緋の月とは交戦状態に入っている。既に……シロ。何名だ?」


「現在までに侵入した者は23名。23名全員を処理済みです」


「つまりは……防衛はシロメイド長にお願いすればよろしいということでしょうか?」


 そうも……いかないんだなぁ。


「いえ。メイド長。素敵な呼び方です。今後はそれでお願いいたします。松戸さん、森下さん。私にも限界があります。現在は散発的に……偵察要員が送り込まれているだけなので……対応可能となっていますが、そうですね……現在の十倍、数十名で一気に攻め込まれると、完全に飽和状態になります」


「私達のことは、松戸、森下と呼び捨てで問題ありません。現実問題としてお任せできる人数は?」


「敬称略了解しました。最大で六名……でしょうか。それ以上になると対応が難しくなります」


「では……敵が八名以上の団体で来た場合は我々も?」


「そうですね。順次対応であればどうにでもなるのですが」


「御主人様。敵は全て、この都市で行方不明になる……というのが必須でしょうか?」


「ああ、そうだね。戻さない……情報を持ち帰らせないのが大切かな」


「畏まりました」


「エルフの二人も弓の腕はそこそこだから、上手く使って」


「そう言ってました! やはり、エルフは弓ですよね!」


 まあ、残念エルフなんですけどね。


「しばらく行方不明を続けていれば、緋の月、ローレシア王国担当隊長みたいなのが、この国に割り当てられた人員を率いて攻め込んでくると思うんだよね」


 シロが頷く。


「そうですね……多分、上司に報告するにしても、この都市の秘密を何かしろ手に入れてからでないと戻れませんからね」


「それまでには帰る。と思うので、それまで頼む」


 三人が御辞儀をする。うん。なんか上手くいって良かった。なんか知らないけどちょっとドキドキしてたんだよね。



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