280:山盛り案件

「お帰りなさいませ。緊急事態状態のまま、大きな変化は起こっておりません」


「お疲れ。それ以外の問題は無いか」


「はい」


 松戸、森下が出迎えてくれた。


「ああ、こいつらは……えっと。キルオア、フェリア。外見上は変わらないが、エルフだ。今後、彼女達も……えっと。先に森下と一緒に帰ったのは……イリオか。彼女と同じ様に使ってくれて良い」


 とりあえず、この工房兼拠点は俺以外は男がいない。なので、松戸と森下が動かしやすいように、生活しやすいようにと思って女子だけにしておいた。

 この辺は応相談だけど……まあ、そのうち、ベルフェとかも出入りするようになるんだろうな。


 奥に立っていたイリオが頭を下げた。


「……質問させていただいてもよろしいでしょうか?」


「ああ、いいよ」


 イリオがもの凄い怖々と発言する。お。なんか、使用人が板に付いてるな。こちらもアレか、強化集中講座か。


「あの……二人が……キルオアとフェリアがかなり強くなっている気がするのですが」


「ああ、強くなったよな?」


「はい。サノブ様、御主人様の特訓の成果です」


 というか、それが判るのか。イリオは何かスキル持ちなのかもしれないな。


「うらやましいです……」


「ああ。大丈夫。イリオは一旦村に帰って、ベルフェに鍛えてもらってくれ」


 キルオアとフェリアが、イリオに「頑張って」なんて感じで話しかけている。詳細は教えていないのは意地が悪い気もするが、まあ、いい。


「森下、イリオはちゃんと出入り可能になってるんだよな?」


「はい、冒険者として登録しました」


「では、戻ります」


 イリオはメイド服のままで帰るのか……。うーん…特訓的にもっと動きやすい服の方がいいのに。松戸も森下もだけど……なんでだ?


 とりあえず、まあ、ハイオークの肉を幾らか、マイアに渡す。旨いの作ってねとお願いする。マイアはハイオークの肉と聞いて、目を輝かせた。


「お父さんですら、年に一回か二回しか扱えなかったので……頑張ります!」


 ということで、家のことは松戸に任せて、まずはディーベルス様に会いにいく。なんでも時間はいつでも良いから即来いということだったからだ。


 ……粗相があったら困るので、温泉に入ることは忘れなかったけど。これは大事。お風呂大事。


 フジャ亭に入って声を掛ける。


「聞いております。まずはディーベルス様にお伺いを。お待ちください」


「あ。ハルバスさん、これを」


 マイアに渡したのと同じ、ハイオークの肉だ。


「こ、これは……ハイオーク……ですか……」


「ええ。今回の行商で仕入れることが出来ましたので。お使いください」


「ま、まずはディーベルス様やフラン様、クーリア様に召し上がっていただかなければ、あ。それよりもまずは! 少々お待ちください。ご都合を確認して参ります」


「お願いします」


 ハルバスさんの忠誠心が半端ねぇな……。


 その後、即、ディーベルス様の執務室に通された。ソファを勧められる。


「我々の間で挨拶は無しだ。とりあえず、父上……まあ、現リドリス辺境伯閣下は、大変混乱されている。正直、お目通り願う案件があまりに重要そして、多岐に渡った為だ」


 多岐に渡るよね……。俺もそう思う。


「まず。最速で国で対処が必要な、帝国宰相の策略に対しての対策を立てるように進言された。事前に「裏」の者を巻き込んで、調査を先行させたのが良かったな。裏取りする時間すら惜しい案件だったからな」


「それは重畳」


「さらに。それと同時に。ポーションだな。これはもう、国家的な重要案件としてリドリス家と王家が極秘で取り扱うことになった。さすがに全てをサノブ殿のポーションに頼るのはマズい。それは、王家的だけでなく、リドリス家としても同意見だ。なので。王家が厳選した人材に対して、その秘術……リドリス製ポーション制作の秘術を伝授するという方向で話が決まった」


「判りました。それも問題ありません。実はあの作り話ですが」


「私がエルフの村を救ったという話か?」


「カンパルラの西の森でエルフの村を発見し、指揮下に入れました。まあ、彼らにポーション作りの手伝いをさせる予定ですので、そこからポーション作成スキルを漏らしていくことにしましょう」


「なんと……エルフの村が……。本当に、か」


「ええ。色々ありましたが、全員快く、私の部下……まあ、社員でしょうかね。として働くことに合意しました。現在、全員研修中になります」


「そ、そうか……」


「まあ、王家が厳選するということは……人材が派遣されてくるにもしばらく後でしょう。それまでにはどうにか」


「父上の……寿命が縮まったらサノブのせいだからな……リドリス家を盾にしおって」


「えぇ~本当に面倒臭いのはここからじゃないですか。現実問題としてカンパルラに何人もの緋の月の構成員が侵入してきています。ここ最近までは様子見にほんのちょっと邪魔をする程度で済ませておりましたが……そろそろ本格的な諜報活動を行いそうなので、この都市に入り込もうとした「敵」は全て、消すことにいたしました」


「……数が増えたか?」


「多分、錬金術、魔道具の噂も含めて、重要性を感じたのでしょう。質も数も増えておりますよ。ここからは戦争です。まあ、帝国宰相殿は、数年前から仕掛けて来ていたわけですけどね。なので、ヤツラに出来る限り情報を渡さずに、敵の目を耳を引付けます」


「……こちらの戦力は?」


「先ほどのエルフの村から厳選した数名。さらに、うちの使用人くらいでどうにかなるのでは無いでしょうか。さすがにこのカンパルラは、ローレシア王国の東の端。ここへ帝国騎士団でしょうか、正式な軍を派遣するには兵糧の問題等もあり、本格的な戦闘は全面的に開戦し、王国西部を墜としてからでないと行えません」


「つまり、当面、この都市への攻撃は、緋の月が行うことになる……ということだな?」


「まあ、帝国騎士団に少数精鋭で動ける部隊がいればそいつらが来る……可能性も無くは無いですが、それも、しばらく後です」


「後回しにしたいのはやまやまだろうな……天才宰相にしてみれば、いきなり出現した邪魔な虫だ。しかも光る大きな虫だ……今回の件だけでなく……後で問題になる可能性もあるか。この都市の守備隊関係者に面通しする必要があるだろうな」


 でしょうね。俺もそう思う。

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