278:限界ギリギリ

 範囲を狭めてくるハイウルフ……その向こう側に巨大なハイウルフの影。ん? ちょっと色違いか。さすが固有種。


 蒼い固有種。まあ、こういう場合、大抵、蒼の王とか、蒼の風とか、そんな安直な名で呼ばれる場合が多い。らしい。


 固有種はその強さから遺骸の価値も非常に高く、オークションで高い価値を付ける。まあ、普通に討伐しちゃったら……魔石やドロップアイテムを残して消えてしまう。


 それが嫌なら。


 そう。生きたまま解体だね! 俺はドラゴンの活き造りで素材をバッチリゲットした無駄の無い男だから! 


「とりあえず」


【結界】「正式」で直方体を作り、蒼の王を閉じ込める。さらに「ブロック」で動きを抑えて……首を落とす。首は血抜きをして、剥製にするととんでもない価値が出る。御貴族様が城の入口とかに飾るヤツね。


 で。本題はここから。こいつの血は……いらんか。錬金術的にも大した触媒にならない。少量をサンプルとして採取して後は放置。

 まずは皮を剥ぐ。これが高額。本当が首が繋がっていた方がいいんだけど、そうすると、攻め方が難しい。この辺ジレンマね。

 そして、牙。爪。これは骨を素材にした武器の素材として人気が高い。この蒼の王の牙も爪もかなりの大きさだ。良い剣やナイフが作れそうな気がする。

 狼の肉はあまり美味しくないらしいけど、とりあえず、斬りだして保存しておくか。


「さ、サノブ様……」


 ああ、忘れてた。群れの狼たちは、自分たちのボスがあっさりやられたことに戸惑っているのか、囲んだままウロウロしている。


 これは、もう、狙い撃ちじゃん……。


「さっさと仕掛けないと。先手を取れないよ?」


 俺のセリフと同時に、構えて狙いを付けていた四名が矢を放つ。


ザクザク……。


 目から脳を射貫かれて、致命傷を受けて倒れたのは三体。もう一体は反撃の様に襲い掛かって来ている。


 そして。


「大気の精霊よ。我が願いを叶え、風の刃を得奔らせ!」


「風刃」


 ベルフェの術で前足二本を切り離されたハイウルフが、為す術無く横たわる。


「残りは六体。最初は二十体近くいたんだから。楽勝でしょう」


グアッ!


「ゲフ……」


 おおう、そんな事を言っていた早々に、エルフ男の一人が腕を噛み千切られた様だ。あ。面倒だな。


「石棘」


 適当に重複起動。腕を噛み砕かれる前に、仕留める。数十本の「石棘」がハイウルフを串刺しにした。


 口から、腕が落ちる。それを拾って、今も腕から血を滴り落として倒れている男の元に向かう。「水」で傷口を綺麗にして、ポーションジャバジャバ。


シュウ……


 音と蒸気……の様な煙を発しながら、腕が繋がっていく。これも森の奥まで行った際に得られた素材で作った。上級回復薬だ。とりあえず、大きな欠損は厳しいけれど、大きな傷なら文字通り音を立てて治癒させてしまう。


「う、腕が……うでが……」


「はいはい、ボーッとしてる間は無いよ? 「石棘」……残りは四匹。さっさと狩る!」


 途中の「石棘」で死にかけのコイツに襲いかかってきていた奴を串刺しにする。まあ、確かに弱点、弱まったヤツを狙うのは集団戦闘を得意とすう魔物の本能だしね。


 残りの四匹は、何とか彼らだけで仕留めた様だ。ああ。さらにもう一人、エルフ女が腕を噛みちぎられたが、くっつけておいた。


「早急に、い、移動します……」


 ハイウルフの群れ、その半分の血が流れたのだ。ここに様々な魔物が集まってくることだろう。良い判断だ。


 疲労困憊、特に喰い千切られた二人はもう、血が足りないのが見た目で判るほど、顔色が悪い。増血剤……みたいなの作れないかな。あ。いや。そうか出来るというか、飲みにくさを考えなければ……。


「これを飲んでみ」


 ポーション瓶にラベル。そこには「ド」とカタカナで書いてある。


 血生臭いのを我慢してとりあえず、瓶の中身を五等分して全員に飲ます。


「こ、これは……」


 そう。確か伝説伝承だと、ドラゴンの血、竜の血は様々なレベルの高いポーションの素材に使用される。その効果は純粋に精力回復、基礎強化なんていう単語が並ぶ。まあ、飲み過ぎはアレだけど、適度にならイロイロとプラス効果になるハズだ。


 明らかに全員の顔色が良くなった。そのまま、急ぎ、移動する。しばらく行って、今日の野営地にすべく、川沿いの広場にテントを出した。


 まあ、特訓するのなら、栄養補給と休憩も大切だ。塩胡椒したハイオークのステーキと魔法鞄に入っていたスープ、付け合わせも並べて、パンも出す。山積みに出す。


「お、おいしい……おいしいです、サノブ様」


 途中から、全員が泣きながらステーキとパンに齧り付いている。


 なんでも、あの村の食事は薄味だった様だ。まあ、そりゃそうか。塩が魔道具から出てくる限定品だったからね。

 さらに、食糧も大抵が保存食で、食事に美味しさを求めないエルフとはいえ、その生活は負担になっていた様だ。


 生死を賭けた戦いを何度も経験し、死線をくぐり抜け、やっと辿り着いた食事。それがマイアほどではないにしても、この旨さなら、泣くのも判る。気がする。


 ハイオーク……マイアに頼めば、もっと美味しくなるだろうな。うん。明日ももっと狩ろうっと。


 ん? いや、あくまでこいつらのレベル上げだよ? それが目的だよ? 美味しいお肉をゲットして、各種料理を開発させよう……なんて……少ししか思って無いよ?

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