277:ブートキャンプ
深淵の森。そこには様々な魔物が生息している。俺はあまり感じなかったが、脅威となる魔物が多く、人族の侵入を拒んでいるらしい。
さすがにこないだのドラゴン討伐は、「こんなのもいるのか」とビックリはしたが。
そして、目の前にはハイオークが二匹。周囲には他の魔物は存在しない。深淵の森もこれくらい浅めだと、脅威といってもこんなものだ。
とりあえず、ハイオークの……強そうな方を始末する。
「微塵」
首から上を無くして、ハイオークが転がる。ちょっと離れた場所で寝ているもう一匹は未だ気付いていない。
「よし、がんばれ。お前らだけで倒して、みせろ!」
「え? あ、あのハイオークを、ですか? 我々だけで?」
それ以外、ねーだろ。
「で、できません……ハイオークなんて……」
「出来なくてもやるんだよ。今この瞬間に俺に殺される方がいいか? このゴミ屑共が! かかれ!」
こうして近所で声を出して会話していれば、ハイオークも気付く。そして、仲間の惨状に気がつき、臨戦態勢に入ったようだ。
「ほら。グダグダしてるから起きたし、気付かれたぞ? 既に奇襲は不可能だ」
「せ、正攻法では……くっ。マルバ、シャグ、キルオア、フェリア。行くぞ!」
おーっていう賭け声くらい上げてもいいと思うんだけどさ。
おっかなびっくりでエルフの五人がハイオークに攻撃を仕掛ける。
ああ。完全対応されてるな……。
左右から同時に仕掛ける。これはいい。悪くない。が。
ハイークは二足歩行だ。両手。二本。呆気なく吹き飛ばされる二人。
が。その隙に、後方から射られる弓。
「お」
やるね。後方の二人はエルフ女二人だ。彼らは弓の腕なら確か……というのは本当らしい。
両目が潰れた! これはデカい。バーサク化するだろうが、命中精度は確実に落ちる。
まあ、あの四人は全員、レベル20近辺の弓術士だしね。人族の冒険者と遜色無いか、ちょっと強いくらいか。
お。さらにそこに。
「大気の精霊よ。我が願いを叶え、風の刃を 疾く奔らせ!」
「風刃」
「大気の精霊よ。我が願いを叶え、風の刃を疾く奔らせ!」
「風刃」
「大気の精霊よ。我が願いを叶え、風の刃を疾く奔らせ!」
「風刃」
ベルフェは魔術士か。
タイミングを見計らっての三連射……か。ハイオークに斬れ込みが入る。お。一発、首元にイイ感じに……とはいえ、これで倒れるほどじゃない……か。
追撃は……と。おおう。射手に徹した二人のうち一人は、倒された木に当たってダメージを受けた様だ。もう一人は距離を取ろうと場所移動中。
ハイオークの腕がめちゃくちゃに振り回されている。その手にした斧と棍棒が唸りをあげる。
ベルフェは……ああ。力尽きてるのか。「風刃」の三連射で魔力枯渇か? おいおい……というか、必殺技がアレか。
さあ、じゃあ。ここで登場です! 初級魔力回復薬! これが、深淵の森の奥深くまでドラちゃん討伐に向かった成果だ! 珍しい薬草と茸、さらに、果実等、かなり価値の高い素材がゲット出来ている。
「ベルフェ。これを飲め」
口に魔力回復薬をブチ込む。
ゲホッ! ゲホッツ!
むせながらも、驚愕の表情をこちらに向ける。
「魔力回復薬だ。ほら。持っとけ」
ポーション瓶が五本ほど入ったポーチを腰に付けてやる。
「ありが……」
「礼を言う時間があるのなら詠唱しろ。そして術を放て」
頷いて、未だ逃げている最後の一人と反対方向に走る。
俺は、近くにいた倒木と共に倒れているエルフ女に体力回復薬をバシャバシャとかける。そして、これまた飲ます。
「き、傷が……」
「いいから、さっさと戦線に戻れ。でないと、お友だちがやられるぞ」
頷く間も無く、駆け出す。
残りは最初の隙を生み出した二人のエルフ男だ。
「隙を作るという役割は悪くない。が。一撃で戦闘不能になってしまっては、役に立たななすぎだ。前衛として戦う術を編み出すか、術を使うなど工夫しろ」
ポーションで回復した二人も頷くや否や、矢を手に、弓弦に指をかける。
「キヤッ!」
悲鳴というか、潰れる様な声。ああ。最後まで引き連れていた最後のエルフ女が、男二人と同じ様に吹き飛ばされた様だ。
ああ。よく見れば。目に刺さっている矢は一本。もう一本は目の下に当たって、傷を付けただけだった……のか。
さすがに両目が潰れてれば、ここまで執拗に追いかけられないか。
お。腕がおかしい方向に曲がってる。そして、棍棒が擦ったのか、肉が抉れてる。
まあ、当然ポーションをかける。
ジャバジャバジャバ
傷が癒えていく。よし、仕掛けろ。
その後も、何度か……魔力回復薬を飲もうとしたベルフェが殴り倒されてポーションかけたり、食い込んだ斧の刃で大きく斬り裂かれた脇腹にポーションかけたり。
最後は、倒れたハイオークの首を、「風刃」で斬り落とした。
疲労困憊か。ハイオーク一匹で。
ドロップアイテムは、ハイオークの肉。うんうん。これ、美味しいらしいんだよね。
以前オーク転がし師として活躍した際に大量ゲットしたオーク肉であれば、既にマイアに料理して食べさせてもらっている。オーク肉はフジャ亭の名前の由来になっている魔物、フジャガスよりも格上の肉として有名らしい。
今回のこれはオークでは無くハイオーク。そりゃ食べたい。ハイだからね。上だからね。多分。
「でと。ここでここまで大きな音を立てました。ここは深淵の森です。どうなるでしょう」
「……魔物を呼び寄せます」
疲れた感じのベルフェが答える。
「そうだね。魔物だね。同属、ハイオークが側にいれば即駆けつけてくるだろうし……これだけ派手に血の臭いを撒き散らかしたら」
ウォーン!
「ハイ……ウルフ……」
「そう! 正解!」
ピンポン!
「囲まれてる!」
エルフ女の悲鳴が上がる。
「ハイウルフは群れで行動します! 当然、いま、こちらを囲んでいるヤツラも群れです、そうなると?」
「リーダーが……います」
「そうだね! おめでとう、多分、固有種だ!」
全員の顔色が青く……いや、白くなった。
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