276:想像力

 ……森下を見れば、なんだ? 目が合って……。


「御主人様、カッコイイです……。さすゴシュ……というか、私と貴子さんの抱かれたい男ナンバー1は伊達じゃ無いですね」


 既に抱かれてるじゃん……。


 森下は未だに、構えを解いてない。まあ、どこから狙撃されるか判らないからね。ただ……【魔力感知】によれば目の前の彼ら以外に、魔力持ちは存在しない。弓の射程範囲内くらいは余裕で感知出来ていると思うんだけどな。


「私は……サノブ様に着いていきます」


「わ、私も……」


 一人のエルフ女が手を上げた。それに続いて、数名の男女が続く。


 驚愕の表情で見ている者が多いが、依然考えている感じの者も多い。じっくり考えたところで結論は変わらないと思うんだけどな。


(それにしても。エルフの種族特性は、ハイエルフの種族特性と大きく違うのか?)


 たしか、【冷静沈着】【合理的】【非協調】【生殖力小】だったはずだ。


(ほぼ同じ……の上に、確か……【慎重】が加わっていた……と思います。というか、そうか。その辺の【鑑定】の話もいつの間にか聞かなくなっていましたね……)


「合理的に考えれば、人族の国家と何らかの接触を持たないというのはあり得ないんだが」


(私の本体が創った【結界】が思いの外、高性能過ぎたのです。孤立主義の派閥が歴代村長を担っていき、歪んで行きました)


 長寿種族故の弊害か。いがんでるなぁ。


 最初に一言、警告すら無かったのはヤバイだろ。


(申し訳ない……)


 最終的に。この常識知らずなエルフ達は 全員、俺の指示に従うという、何ていうか、どう考えても「自らの思考」を拒否する……感じ、流される感じの判断に終着した様だ。


 個人的にかなりぐんにゃりなので、 なんかもの凄くやる気が萎えているのだが、これは目的通りに話が進んだってことなんだろうか。


 なんとなく行き過ぎちゃって、俺が王様の様な扱いになっているのが怖いんだけど。


「あまり深く考えなくても良いと思います。彼ら、御主人様に完全忠誠状態ですし。まあ、何となく言われるがままなんですけど~これまでぬるま湯とはいえ、自給自足生活してたわけですしから、生活力はあるわけで。今後はガンガン働いていただければ」


(AI……お前の声を彼らに届かすことは可能か?)


(現状、この念話の様な会話はサノブ様としか行えません。本体は私の工房の奥ですし)


(魔道具でスピーカー……音を出力する装置は無いのかな?)


(拡声の魔道具……はありますが……この思念を音に変換する方法が……存在しないかと)


 ああ、まあそうか。しかも俺も今は魔術士だ。錬金術士じゃないからこの場でパパっと……とはいかないし……念話の魔術を知らないから魔道具化するのも難しい。


「そもそも……塩はどうしてたんだ?」


「先代の導き手様が作られた魔道具がございます。最近は……その量も減ってきていたのです……」


 おいおいおい。まあ、塩を作成する魔道具は、魔術で水を生成出来る世界なのだから、不可能じゃ無いだろう。問題は、その方向でも、引きこもりではただただ死に向かうだけだったのかよ……。


「こいつら……想像力とか、妄想力とか……欠落してるのか」


(……確かにエルフ、ハイエルフは想像力に欠けているかもしれません。なので、新しい魔道具を生み出す錬金術士は、他種族、特に人族との交流があった者に多いとか)


(それにしたって……自分たちの未来を想像出来ないって相当ヤバいぞ?)


(戦闘時に「敵がこういう行動を行う」等の予測は想像を含めて可能なのですが……)


 そりゃそうだろうよ。当たり前だよ。というか、村の未来がどうなるのか……このままだとどうなるのか……想像してないってさ……。


(先送り……なのです。明日やろう、明日やろうと思ううちに様々な要素が低下してしまう……という長寿種族独特の思考停滞といいますか……)


 族滅する危機なのは必然というか、そんな欠陥種族は自然淘汰されてしかるべきだ。


 というか……そういえば、女神に「近い」種族がエルフ、そしてハイエルフだったか……ここでも、女神不足、神力不足、魔力不足、世界全体のシステムの不具合が効果を発揮しているのか。


(面倒くさいな……)


「判った。では、さっき一番最初に手を挙げた、女。名は?」


「イリオです」


「ならイリオ、お前はここに居る森下の下に付ける。学べ」


「は、はい!」


「森下。お前はコイツを連れて戻って、鍛えといてくれ。特に帝国の雑魚共が襲ってくる可能性があるからな。マイア及び、その家族、代官のディーベルス様一族も守備範囲だ。それを松戸に伝えて、臨戦態勢を整えておいてくれ」


「畏まりました」


「んじゃ、頼んだ」


 森下が、イリオと共に走り始めた。まあ、イリオが森下に付いていける様であれば、あっという間にカンパルラだ。あ。森下、あの剣持って走れるのだろうか……って、走って行ったか……。まあ、いいや。


「あと、副長のベルフェ、そしてイリオの後に手を挙げた数名」


 その数名が立ち上がる。


「あ……」


 数名の……多分【結界】に対して感度の良い者が反応した。


「いま、これまでよりも強力な【結界】でこの村の周囲を囲った。いま、跪いている者達は、今後、どの様に戦って行くのか、眠る暇を惜しんで考えておけ。その考えが足りない者から死んでいくことになる。というか、甘い考えのヤツは俺が殺す」


 ほぼ全員がビクッとした……そのビクビクを修正しないとだな……。


「では。我々は行くぞ」


 ベルフェと、男二人と女が二人か。


「……ど、どこへでしょうか……」


「行くぞ」


 教えてあげないよ。


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