275:無言

(サノブ……君は彼らをどうするつもりだ……ですか)


 ああ、ちょっとシリアスモード入ったね。うん。丁寧な対応。それでいいよ。AI。俺達は馴れ合っていい関係じゃ無いからな。初っ端から利用してきたお前が悪い。魔道具のクセに。お願いされていれば考えたかもしれないが、騙しは無しだ。


(そもそも……お前。俺にしかこうして話しかけられないだろ)


(はい……私はハイエルフに……いえ、魔力の多い者にしか接続出来ません)


(正直さ、もうどうでもいいかな……。最初は力を貸してもらうか、利用するか、まあ、その時次第と思ってきたけどね)


 ハイエルフの残滓とはいえ、魔道具AIは俺を利用しようと最初から騙してくるわ、その手下はいきなり攻撃してくるわ……。


(帝国に支配されたら、自由は無くなるだろうからな。知らんけど。だから、それ対策に、動いてもらおうと思ってたけどさ)


(帝国……知らぬ国……です)


 地形や場所を説明してみたが、AIは帝国の事を知らなかった。


(だが、その辺りには中央樹海があり……ハイエルフの住まう国、ファードライド樹国があったと思うのですが……時間を感じますね……)


 ハイエルフの国、か。


(その遺跡があったとしたら……遺物が残っていたとしたら。価値があるよな? 今の世の中で)


(ええ。大いにあるかと。現状、魔力が痩せ細っているのは間違いないですし、それに伴い、魔道具も効果を弱めています。ここ最近……少々魔力が安定したため、私はこうして起動できていますが、それも小康状態と思った方がいいでしょう。さらに、私はこの村の事しか知らないのですが、天職などの認識も「少なく」なってきています。私が生きていた時代から、鑑定石の表示が非常に劣化している……のは知っていましたが……それと何か関係があるのでしょうか)


 いろんなのの劣化……スゲー前からなんだな……。まあ、でも、神力が減少していたのは間違いないのか。

 

「さて、今後の話をしようか。現在世界は危機に瀕している。詳しくは言えぬが、エルフ、ハイエルフだけを見ても、種族の劣化、一族としての縮小の現象は……まあ、お前達を見れば一目瞭然だ。にも関わらず、お前ら愚か者共はエルフ同志で連絡を取ることもせず、引きこもり続けている。結果。既に緩やかに死んでいる状態なわけだ」


 既に水の術は解除してある。が。地面は濡れたままだ。そこにエルフ……成人している者はこれで全てなのだろうか。というか、子どもは……いない……か。百名……いや、七十名程度か。


「ということで、【結界】は解除させてもらった。このまま、引きこもりを続けるのも「死」。では、【結界】が無くなり明日魔物に喰われるのも「死」。一緒だろう? とりあえず、最後くらいは足掻いてみせろ」


「そんな……」


 なんだ、こいつら……この期に及んで……本当に判断力が低下しているのか。


「頑固に貫く、ということであれば、あそこで首無しになっている女の方が、一本筋は通っていたのかもしれないな。頭が悪すぎただけで」


 見苦しくピクピクと生き恥を晒していた肉体を……「正式」で囲んで「火球」。女の死体が燃える。


(彼女はランキャ。この村の長でした。村以外の者も物も受け容れない、この村に対して異常なまでに固執していました……)

 

「仕方がない……導き手を失い、自分たちだけで生活してきた哀れなエルフに選択肢を与えよう。選ぶのは自分達だ。


選択肢①:このままここで【結界】無しで暮らす。

選択肢②:村を解散し、世界に散る。多分、お前達と同じ様に他を拒絶したエルフは存在するだろう。そこに混ぜてもらえ。

選択肢③:俺に従って働く。刺激的な日々を送れるかもしれないが、命の保証は出来ない。


こんな所か。あ。選択肢④。この場で俺に殺される。が、あったな。それ位の慈悲の心はあるつもりだ」


 AIは、【結界】を修復し、徐々に自立……他の森のエルフや人族と接触する生活を始める……なんていうヌルい筋書きを描いていた様だが、俺が協力しない。し、そんな甘やかしでは、こいつらは動かないだろう。


 そもそも、問答無用で攻撃を仕掛けられているのだから、こちらには反撃し、「盗賊」として皆殺しにしても問題無い。王国の法に従えば、権利がある。


 まあ、最初に【結界】の中に侵入したのは俺だが、そこが彼らの領土だと社会的に何一つ認められていなかったのだ。知らないよ、で済んでしまう。普通に森を歩いていただけだ。何かしたわけじゃ無い。劣化した【結界】をすり抜けただけ。


 しかも問答無用で「消した」わけじゃないからな。


「判っているのか? 俺は、森で怪しい反応を感知した。なので偵察に向かう。そこで偶然、盗賊団の拠点らしきものを発見してしまう。魔道具の簡易結界が張ってあったが、錬金術士の俺はお構い無しに踏み込む。すると、いきなり会話も無く、矢を射かけられた。こちらとしては戦力差があるので出来れば「降伏」して欲しいと何度か会話を試みるが、返答は矢のみ。つまり、それは犯罪者だからと結論づける。盗賊団は拠点毎燃やされ、盗賊共も全員死亡。これが俺が報告をした場合の、今回の件のローレシア王国側の一般的な見解だ」


「……」


「何故そうなるか判るか?」


「ひ、人族の勝手な主張が……」


「ああ? そこまで「バカ」なのか? ここまで……近隣に他種族の生活圏があり、土地の所有権を主張しているにも関わらず、放置したのはどちらだ? 接触もせずに引き籠もって、交渉の一つも無かった以上、お前達は「不法滞在した小さな独立勢力」でしかない。では戦って潰されても仕方ないだろう?」


「人族であれば……我々は戦えます!」


「なら、戦えよ。先送りしていないで。別に、武力だけが戦うってことじゃないからな? 先送りしているうちに種族としての命が途絶え始めているのに気づいていないわけじゃないよな?」


 問題は判っているのに先送り。少子化問題、高齢化問題……ああ。こいつらに腹が立つのは、尽く我が母国の負の部分の面影を引きずっているからなのか。


 絶対に問題になるのに、表沙汰にしたくない。向こうにいた時は、別に口にもしなかったが……こちらの世界に来て、なんか我が儘というか、自分の好きなように生きるようになったからか、こういうのがつい口から出てしまう。


 あ。いや。そういえば……いつから俺は……こんな我が儘になった? 元々?

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