273:森の村
「この辺か……」
「この辺ですか」
森下は俺の森林ダッシュに余裕で付いてきていた。さすが前衛脳筋ジョブ。俺、初対面時、裸のコイツに勝ったと思うんだけどな……。
前方に……【結界】……あ。これ、なんか覚えがあるな……と良く考えたら。
俺の「正式」に似てる気がする。魔道具の簡易結界とか、結界シリーズに比べて、透明感があるというか、慣れ親しんでるというか……。
ミィン……
ほら。すり抜けちゃった……これ……ヤバくない? 多分。ヤバいでしょ。ほらほら……来てる来てるよー来てる。
敵意バリバリだ。そして。
ゴス!
問答無用だね。笑。まあ、そうなるか。「絶対に破られるはずの無い結界をすり抜けた敵」だからね。でも……。
「考えよ。合理と共に生きる者共よ……何故、我がここに立っているのかを」
あれ。なんで俺は偉そうな口調で、こんな言葉を……発しているのだろうか。しかも、ちょっと腹立ってるみたいだし。
ゴスッ!
再度、矢が……「ブロック」に突き刺さる。というか、まあ、「正式」も起動しているからそっちにも介入できちゃうんだけど。
「一族という言葉の意味すら失ったか……ではお前達は既に魔物と変わらぬ! その報いを受けよ!」
うーん。何となくそう言えと、誰かに言われたような……うーん。なんだこれ。残存思念とかそういう感じなのか? よくわからん。
ザワッ……
大きく空気が変わる。これは……さすがに理解したかな? この結界は、確実に、俺の血脈、何か関係のある者が為した物だ……と思う。そんな気がする。間違い無い。
なんか、変な確信が伝わってくる。そして……これ、多分、長期間の連続使用で劣化していた。そんな弱々な【結界】、上書き消去するのは簡単だ。
「こんな所にも同胞がいるのかと訪ねてみれば、交わす言葉すら持てぬとは、失望した。さらばだ!」
あ。また……なんていうか、言葉が弾けて飛び出してしまった。さらば……って……そんな……。
当然、【結界】は解除したままだ。イロイロと慌ててるのが判る。
「お、おまち……おまちください……貴方、貴方様は……我らが導き手であられるのか?」
「お前……いつから我が一族は名乗りさえ行えぬ、低俗な物に成り下がった? そもそも、正しき導き手への接見を伝え、繋いでおらぬ事自体が笑止千万。既に生きるに値せず。恥を晒すくらいなら、このまま魔物の餌となり朽ちろ」
うわー。なんか、俺、スゴイ事、言ってる……。
「……」
って、【結界】の手前で立っていた森下もドン引きだ。いやさ、だってさ、止まらんのよ。さっきから。何これ。
(すまんな……此奴らは弛みすぎてるのだよ……)
って誰! ここはもう圏外なので、シロと接続することは出来ない。同じ感じだけど、明らかに違う意志の質感。
(そうだな……君の曾祖父母の世代……三代前を生きた者だ。名前等は既に薄れ、消えてしまった。我々に直接血の繋がりは無い様だな。数奇な運命の我が一族の生き残りよ。勝手に口を使ったことを謝ろう)
(いや、いいですけど……凄いですね……まだ、生きてらっしゃる……いや、魔道具?)
(ああ。今こうして喋っているのは私であって私では無い。記憶の残滓とでも言おうか)
(データバックアップ型の疑似人格AI……)
(おお。さすが異世界生まれだな……言い得て妙な事を、上手い言葉を使う)
というか向こうの事も伝わってくるけど、同じレベルで俺の事も伝わってしまうのは何だかなぁ。
(うむ。まあ、そうだな。君はその辺の知識が欠けている様だ。今回のお詫びに後で教えよう。ということで、私を持ち出してくれるか。ついでに我が遺産を全て授けよう。既に動かぬモノも多いだろうが、君なら有効に使えるハズだ)
お、おおう、ありがとう、ございま……す?
「森下。俺の側を離れるな?」
「はい」
帰ろうとしていたのを一転。回れ右して言われるがまま歩き始める。
「御主人様、剣をいただけますか?」
森下の装備は、ちゃんと持ち出してきている。魔法鞄から両手剣を取り出して、渡す。抜き身だ。
背中に背負う様に、振りかぶったポーズで帯同し始める。剣を構えているだけで後は、普通に歩いているのと変わらない。なんか、見た目的にバグっている感じだ。
シッ
森下の口から息吹。ソレと共に踏み込んで飛来した矢を切り払った。
おおー。「ブロック」で俺には到達しないのが判っていても、矢を切り払わせて歩むのはかっちょいいな。
(おお。君の使用人は、戦場仕様であったのか)
……。
(そう、そうだ。その、思考の切り分けだ。ソレをすれば、いくら同胞とはいえ、無遠慮に踏み込んではこれない。そうか。君は優秀なのだな)
自分の思考を囲い込むイメージで「気力」を発動した。案の定だ。だだ漏れだった俺の思考は魔道具さんに読み取られなくなった。後で思考の切り分けっていうのも練習しておこう。
(その向こう側だ)
案内されたのは小さいが奇麗な村、だった。この世界の建造物にしてはデザイン的にも洗練されている。
シュッバッ!
最初のシュッが、矢の飛来音。後のバッが森下が矢を切り払った音だ。
(くっ。本当に愚か者に成り下がった様だ。この期に及んで未だに適切な判断が出来ぬとは)
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