271:全対応

「きもちよかった……です」


 しばらくして、ちょいのぼせちゃったらしい、マイアが挨拶に来た。


「お風呂、嫌じゃ無かった?」


「いいえ……あの……その、マツドさんとモリシーさんに身体を洗ってもらいました……」


 顔が赤い……。


 やつら……め。イロイロと触りやがったな? 


「森下……マイアを可愛がりすぎるの無しな?」


「あ、あれは、その、貴子さんが、その……」


「……温泉が関係すると途端にポンコツになるな……」


 それにしたって高校生を巻き込んでいいアレじゃ無い。後でマジ説教だな……。


「ってあれ? その松戸は?」


「温泉が無くなってないか、確かめにもう一度入って来ると」


「無くならないよ……」


 そう簡単に無くなってたまるか。


迷宮創造主マスター……緊急事案です)


 シロとは幾つか決め事がある。この緊急事案という言葉もそうだ。これがある場合は、冗談は必要無い。というか、本気の報告ですよ? という意志表示だ。


(何が?)


(明らかに魔力量の多い旅人が都市に侵入しました。バラバラに……三人です。彼らは商人でも、冒険者でもなく、周りの者に城壁の工事なんかで食いつなごうかな? 等と話しています)


(ふうん……それは緋の月の下っ端……か。それに雇われた者達か。ああ、魔力が高いなら下っ端だな……)


(いかが致しますか?)


(監視はして。で、俺とすれ違う時があれば教えて。【鑑定】するから)


(はい、了解致しました)


 それにしても……早い。この世界、連絡のやり取りは基本人力だ。通信の……それこそ携帯電話っぽい魔道具もあるらしいが、国宝クラスだし、数も一つか二つらしい。

 ……まあ、通信するんなら、二つ以上じゃないとおかしいんだけどね。


 つまり、今回、緋の月の下っ端がここに派遣された、そういう命令が下されたのは……もうちょっと前だと思う。


 さすがに捨て駒に近い下っ端にまで、携帯電話の魔道具が配備されているとは思えない。ということは……ここから一週間以内の距離……まあ、規模として考えれば当然、領都リドリスか。


 ……リドリスには……通信の魔道具が配備されていて、帝国本土と連絡が取れる……または、緋の月のある程度の権限を持つ中継ポイントと連絡が取れると思った方がいいだろう。


 いま、ここに派遣されている者達とは入れ違いになった可能性はあるが、領都リドリスの支部、その長に当たるヤツに「山賊作戦」大失敗の報は届いているハズだ。


 そうなると……どうなる?


(どう出てくると思う?)


(普通に考えれば……調査員の追加でしょうか。まずは情報でしょうから)


 そうだよなぁ……ああ、そうか。ここに軍師(偽)がいるじゃないか。


「森下。執務室へ。松戸に全対応と伝えて」


「畏まりました」


 今の「全対応」はメイドズとの取り決めだ。こちらもこの一言で、シリアスモードに変更される。様にした。


 執務室。まあ、書斎だ。お仕事関係の資料とかその辺を置いておこうと思ってるけれど、


「緋の月の下っ端が、この都市に侵入した。と思う。詳細確認はまだだ」


「早い……ですね。帝国の科学力、あ。いえ、錬金術力はこちらよりも上……なんでしょうか?」


 純粋に国として考えれば向こうの方が上と思った方がいいだろうな。俺よりも上かどうかは……どうだろう。


「現時点ではわからない。もしも俺よりも上手でポーションを量産できる体制が出来ているのだとしたら、既に周辺諸国は制圧されている気がするんだよな……」


「確かに……そうかもしれません。ああ、すいません、まずは侵入者ですね」


 うん。そう。


(何か動きは?)


(いえ、通常の出稼ぎ労働者……冒険者的な行動を行っています)


「なんか、冒険者というわけじゃなくて、出稼ぎの労働者的なノリで動いているらしい」


「……冒険者になってしまうと、登録とか管理されちゃうからでしょうか」


 ああ、そうか。そうかもしれない。


「そうだな……冒険者はギルドに管理されている。ああ、行商人も商業ギルドに管理されているか。だからか」


 そこまで細かい監視が行われているわけじゃないけれど。どこから綻んでいくか判らないもんな。


「その辺は一流なんだろうな。で、どうするのが良いと思う?」


「今は、泳がせてる状態なのですよね?」


「ああ。犯罪者じゃないからな。現時点では」


「多分、最初は……えーっとディーベルス様の事を調べるんじゃないでしょうか? 御自宅をターゲットにして……」


「ああ。書類とか漁りそうだ。そしてそれを報告しそうだ。というか、そういう報告を好きそうだ。宰相」


 可哀想に。宰相は辺境の地で散々な事を言われてるな。主に俺に。


「あの、御屋敷に結界とか?」


 ああ、そうだね。森下達は簡易結界をよく知ってるか。


「ああ。配備してある。というか、不自然にならないように、「上」地域全体に薄目の結界を張ってある。これはまあ、破られること前提かな。それこそ、既にこの地に住む貴族の子飼いの者にも破られてるし」


「本命はがっちりと?」


「ああ。城とディーベルス様、商会長のグロウス様の御屋敷はかなり上級な結界で覆ってある」


「なら、そこを荒らされる心配は無し……しばらく泳がせていると焦れますね……」


 そうだろうな。


「出来れば……逆探知したいですけど……」


 逆探知……か。確かに。ヤツラの会話とか……か。


「たださ。先手が打てても、向こうが本腰じゃ無い以上、正直無駄なんだよなぁ」


「ええ……こちらから情報収集できればいいんですが……御主人様、内緒で影の軍団率いてませんか?」


「率いてない」


「そう上手くいきませんか……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る