267:展望

「お」


 ……落ち着くまで待つ。こういうのって最初は泥水な事が多いんだけど……結構澄んでるな。ああ、そうか。「硬化」で常に固めていたから、変に混ざってないんだろうな。


迷宮創造主マスター? それは何を成されてます?)


(え? 温泉掘削だけど)


(水圧の高い水脈を掘り当てていたら、天井貫いて穴が開いていた……のは計算済みなんですよね?)


(あ。アレ? あ。そういえば……そんな映像見たこと……あるな……)


(さらにここは深淵の森と呼ばれるパルラの森のすぐ近く。この地は龍脈と、魔力の元となる魔素溜りが複雑に絡み合っている……と説明したと思うのですが)


(穴開けちゃったの……マズい?)


(まあ、今回はギリギリそれらを避けていましたから大丈夫だと思いますが……漏れ出してますよ? イロイロ)


(え? 温泉成分だけじゃなく? 濃い魔力……龍脈……は気力に近い力……ですね。さらに女神の力の少々)


(魔力、気力、神力が混じってる……ってこと?)


(ええ!)


(お、大事じゃん)


(それを為したのは迷宮創造主マスターです)


 こ、これは怒られてる……怒られてる……よね? きっと。


(今回は偶然、上手く行きましたが、今後は事前に相談ください)


(はい……判りました)


 しばらくすると、湧き水は透明になった。って、うーん。これは……若干温かい……気がする。というか、地下水を汲み上げたのだとしたら、この温さはおかしい。ということは。元はもう少し温かかったハズだ。


 なので、「穿孔」で開けた穴の「硬化」に、熱を保護するイメージを加えて、再度「硬化」させる。イメージとしては、パイプに熱を逃がさない、保温効果のあるグラスウールとか、銀幕付きの保温素材で包み込んでいく感じだ。


 湧き出ている水から、たちまち……湯気が出てきた。


「お、おおー」


 ついつい声が出てしまう。なんていうか、ちょっと感動的だ。


 湯気と共に、かなり温かい……いや、お風呂というには少々低めだが、それでも、温泉が湧き出てきた。


 これなら、ちょっとだけ温めてあげれば、立派なお風呂になるな……ということで、冷却具の正反対の魔道具、加熱具を作ってみる。


 普通に熱を加えるのなら、火種棒やその発展系の魔力を使用した焜炉等を使用する。なので、加熱具なんていう中途半端な魔道具は存在していない。


 温泉の出てくる穴に、レバー-を取り付けて……その操作で温度調整が出来る様にする。溢れ出る穴のすぐ下……数メートルに加熱具を設置。使用する魔力は空気中に存在するのを集める……街灯用の魔力収集装置で賄える様に設定する。


 レバーを左に回すと熱く……右に回すと温くなる。うん。いいね。これ。


 とりあえず、そこそこ熱めのお湯を貯めていく。既に、大きめの湯船には満面のお湯。じゃぶじゃぶと……端から流れ落ちたお湯は、そのまま排水溝に流れ落ちている。


 なんか勿体ない……けど、源泉掛け流しってこういうことなのかな? 基本、流しっぱなし? ああ、そうか。栓を付けて、必要な時以外、出ないようにすればいいのか。

 ……こ、これくらいの水圧で良かったな……。シロの言う通り、高圧だったら……押さえ付けるのも大変だろうし。


 で。とりあえず、もう一つレバーを付けて、栓にする。この辺、向こうの世界の水道栓の仕組みとかネジの形とか知ってるのがスゴイアドバンテージだよな。

 ダテに中堅弱小商社員を長年やってないからね。喫茶店とかの水回りとか、公共トイレの見積もりなんかで、蛇口サンプル幾つも持って説明したなぁ……。

 

 なんて感じで……シロに怒られちゃった現実から逃避する。既に結構……湯気で湿気が凄いな。

 あ。そうか。換気扇をちゃんと付けておかないと……か。空気の逃げ道……大事だよな。更衣室のとの壁、上部に換気用の横長の穴を開ける。

 さらに、浴室の壁……の上部に換気用の穴。虫とかが入ってこない様に、スリット付きの石でフィルターの様な物を作って埋め込む。


 これで、空気の流れはどうにかなる……ハズ。あとは……。


 ……現状、LEDカンテラの魔道具で浴室は照らされているんだけど、洞窟風呂的な雰囲気というか、なんとなくじめっとしている昏い感じなのは免れない。……まあ、石壁で囲まれてるからなぁ。しょうがないんだけど。


 んーと。ここの外壁の厚さは……大体2メートルくらいか。結構根本部分だからな。ちょっと……ちょっとだけ、窓を……作ってみて……いいかな。い、いいよね? 「結界」の魔道具で……いや。


(シロ、ここに窓作ったら、その外側に常に「正式」か「ブロック」で護り続けること、出来る?)


(出来ます。それほど維持魔力もかかりません。さらに外側からは見えないように、周りの石壁に合わせて偽装することも可能です)


(ま、まだ怒ってる?)


(怒ってません)


 怒ってるじゃん……。


(んじゃ、窓作るから、偽装お願い)


(畏まりました)


 思い切って壁一面に上下2メートル幅の穴を開ける。すぐに偽装が発動したのか、外の臭いなんかは漂ってこない。あ。そういえば……この温泉……無臭だな。超絶硫黄臭かったりしたらどうしてたんだろうか。そもそも、ガス系も噴出したら命に関わるよな……。確かにシロの言う通り、考えなさすぎる。


 まあ、反省は後で。


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