264:才能

「うし!」


 あ。ちょっと目を離した隙に、森下が身体を回転……腰の回しと共に、腕をしならせる。その腕の先、延長線上にあるのは当然、鋼の両手剣だ。

 足を開きめで腰を落とし、完全に自分の間合いを掴んでいる距離……だ。敵の隙を付き、その距離に詰めるのはかなり難しいと思うのだが……才能なのかな。


グズバッ!


 肉が。大きく斬り裂ける音ってこんな音なんだ……と確認出来てしまう、もの凄く痛い音が響く。


 右腕が弾け飛んだ。そして剣先はさらに、胸板を斜めに斬り裂いている。結構傷は深い。


ガアアアア!


 オークの……断末魔の雄叫びが響く。既に決着は着いている。が。魔物は最後の最後までこちらの息の根を止めようと襲いかかってくる。その辺が通常の獣と違う所だ。


「ハッ!」


 気合……一閃。振り下ろした剣がその回転力、遠心力を失わないまま、もう一度、さらに上からオークを切り分ける。鋼の刃が、さっきの傷口よりも首に近い部分から……左の太ももまで斜めに……振り抜かれた。


「おー」


 オークを剣で真っ二つ……って俺もやったことないというか、こんな風に見事に斬り落とされるのは……見てて感動すら覚えるな。


「森下……両手剣、本当に初めて使ったのか?」


「そりゃそうですよー幾らコスプレ好きでも本身のしかも両手剣なんて日本で持ち歩けませんし。動画だけですね」


 動画サイト……侮りがたし。そういえば、一昔前だったら一子相伝の奥儀とか、秘技なんかが動画化されて公開されてるって聞いたことあったな。そういえば。

 

「私が後で、森下が前っていうのは、バディを組んだ頃からの定番フォーメーションでしたので」


「ああ、そうね。それがバランス良いだろうね」


(御主人様。誰か来たようです)


(お。ありがとう)


「まあ、とりあえず、君らが鞭使いでオークくらいはいけて、さらに、拳銃が使えることも判ったし、森下はさらに両手剣もいけるのが確認出来たので、今日はこの辺で」


「も、もちょっとその、御主人様」


「森下。お客様だよ」


「え?」


(こないだみたいに工房で聞こえる音を、こちらに聞こえる様に)


(はい)


ゴンゴン……


 金属の打ち合う音。


「畏まりました」


 転移した。


 松戸がさっさと対応に向かう。森下も後を追った。多分、森下はお茶の用意とか、お客の為の用意を行うのだと思う。


 まあでも、多分……。


「御主人様。マイア様です」


「サノブ様、本日より、よろしくお願いしますー」


 やっぱりか。まあ、今日明確に予定してたのって、彼女の件くらいだもんな。ちょい早めだけど。それは俺の感覚ってだけで、こちらの世界の人たちは早起きだから別に普通なんだろうな。


「荷物は……御部屋に運んでよろしいですよね?」


「ああ。二人とも手伝ってあげて。ってそんなにない?」


「はい、鞄二つだけなのでー」


「そうか。なら、松戸、マイアさんを部屋に……」


「あの、使用人となるわけですから、マイアと、呼び捨てでお願いします。ま、マツドさんと、モリシーさんもマイアと」


「あ、ああ。判った。じゃあ、マイアを部屋に案内してあげて。っていうか、マイア」


「は、はい!」


「本当に良かったの? 御両親の元を離れて」


「あの、サノブ様は私に父と同じ料理人の才があるとお教え下さいましたし……何よりも、私の作った物を食べて美味しいと言ってくださいましたから。私に父の様な能力があるのなら、それでお役に立ちたいのです」


「そして何より、命の恩人でもありますし……口移しや振りかけて、あの……高価なポーションを幾つもと母が……」


「あ、あれは症状的にやばかったからで、治療の一種だから。絶対に必要というか。勝手に使ったのだから内緒にしてお代も気にしなくて良いと言ったのに。それは」


 首を横に振る。っていうか、目がね。真剣で。これは意志が固い……かな。


「判った。正直、心から嬉しいよ。この都市の色々な食堂や屋台で食事をしたが、フジャ亭以外は正直口に合わなかったからね。そのフジャ亭のハルバスさん直伝の腕を持つマイアが専属シェフだなんて。ありがたいとしか言いようがない」


「嬉しいです! そう言っていただけたことに感謝して、早くちゃんとした料理を作れる様になって、恩返し出来る様に頑張ります!」


 マイアはなんていうか、花のような笑顔が似合う感じというか。こうして見るとスタイルも良い。そこまで極端では無いけれど、女性らしい体つきだと思う。


 身長は160センチ弱……か。体重は……よくわからん。


 今着ている服は普段着でメイド服と似たような感じ……かな。身体の線はさっぱり判らない。だけど、その辺はパッと見からも理解出来る。


 バリバリ、ウェイトレスとして働いていたし……明らかに看板娘なんだよなぁ……本当に良いのかなぁ。新しく人を雇うとは言っていたけど……ハルバスさんにもう一度、確認はしておいた方が良いよなぁ。


 あれ? そういえば……。


「マイアさん……って幾つ?」


「15です! 成人しておりますので何でもお申し付けください!」


 おうふ……まだ、高校生に成り立てだった……。十分子供だよ! 顔付きが大人っぽい、西洋人的な顔付きだからなぁ……化粧らしい化粧をしていないのに判らなかった……俺の女性を見る目のレベルが低いのか。そうか。


「両親に、成人を機会に「これからは自分自身で責任持って、将来を決めなさいと」言われましたので」


「そうか……」


 そうなのね……。厳しいのう。この世界。


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