262:試しに

「んじゃ、ちと訓練しようか」


「はい!」


 森下がとんでもなく綺麗な敬礼……というか、こいつ警察時代まで戻ってるんじゃないだろうか? 


(シロ。ここから直接、ダンジョンへって転移できるよね?)


(はい、問題ありません)


(メイドズも一緒に跳ばせる?)


(問題ありません)


(んじゃ……オークのフロアって残ってたっけ? あそこへお願い)


(オークのフロアはクィーンアントのフロアに改装いたしました。新たに階層を追加して、そこに以前のオークのフロアを復帰させますか? DPはそれなりに消費致しますが)


(おおーさすがシロ。バックアップを取っておいてくれたなんて。えーっと。最初は単発オーク、次が二匹、最後の大広間がオーク祭なんてフロアにできる?)


(以前に迷宮創造主マスターが作成した構造を、切り取って貼り付けるだけであれば、可能です)


(んじゃそれでお願いします)


(了解致しました。完成しました。スタート地点へ跳ばしてよろしいでしょうか?)


(お願いー)


「え? ええ?」


「ここは……」


「俺の力で、訓練用のダンジョンに跳んで来た」


 メイドズが呆然としている。だから、転移出来るんだってば。主に俺の能力じゃ無いけどな。


「だ、だんじょん! スゴイ……」


「ここで、この世界で、どの程度戦えるか見せてもらおうと思ってさ」


「はい、了解しました」


「いえすさー!」


「服装は本当にそのままで?」


「ええ。我々奴隷メイドは常在戦場が常でございます。この服のまま戦えなければ、意味がありませんから」


 二人は……というか、特に松戸が、訓練でもメイド服のままで、と。譲らなかったのだ。その拘り……まあ、確かに、拉致誘拐が普通に起こってた世界だからなぁ。


「はい、んじゃあれ。どうぞ」


「おおおおおおおおお! オーク! あれ、オークですね! 女の天敵! くっころ神!」


「はいはいはい。森下」


 すっと前に出る松戸。今、目の前の広間にはオークが一匹配置されている。目線が松戸を追う。その後ろに付いた森下は一切見えていない。


 師匠の所で修行……ここ数カ月行ってないもんな。疎開先で大人しくしてないとだったし。俺はダンジョンでイロイロ出来てたけど……。


「やはり……臭い。森下」


「了解」


シュッ


 ……ん……アレは……鞭……か? これまた足に巻き付けていたのか。


ビッ!


 あ。松戸の手にもいつの間にか鞭が。そしてスゴイスピードで……ってやばい。先端の動きが見えない。

 二人の手元の動きで予測するしか無いんだけど……これ、俺、初見じゃガンガン喰らうな。すごい軌道で裏側からも攻撃が向かう。「正式」で全体防御しかないか。

 あ。そうか。俺、今、魔術士か。せめて拳闘士になれば、なんとか付いていけるか……な?


 敵対すれば、基本敵意が発生するから、ここまで軌道が読めないなんてことはないと思うんだけどね。


 まあ、今回はメイドズの訓練だからいいか。見えなくても。


ビッビッビッビッ……


 斬り裂くような……もの凄く痛い音が連続して聞こえてきている。松戸と森下が左右から……常に若干の死角の方向に動きながら、鞭を繰り出していく。

 オークの視線、敵対心が定まらない。アレだ、ヘイトコントロールが半端ない。なので、オークが片方に集中して襲いかかれないのだ。


 うわ……腕……削れて……るな。魔物の血は赤黒い。ゴブリンは赤多めだったけど、オークはもう、真っ黒だ。


 圧倒的じゃないか……。というか、オークってこんなにパワーなかったっけ? 為す術無く、削られていく。


 確か……オークは……レベル21かな。これ、普通に武器適性があっていれば……圧倒できるんじゃないか?


 うわ……ぐっろ……二人がかりとはいえ……オークの……頭部が……既に半分以上削られている。当然、もう、意識は無いだろうし……そもそも生きてないだろ、これ。為す術無く立ち尽くしてた巨体がゆっくりと膝を付き……倒れた。


「ふう……」


 松戸が疲れた感じでひと息ついた。


「質量のある敵……は厳しいか」


「いえ……臭いがダメでした」


「そう?」


「今は既に消えてしまっていますが……というか、死骸が消えた?」


 ドロップアイテムは魔石……そしてオーク肉だ。【収納】しておく。


「虚空に消える魔物の死骸……そしてドロップアイテム! こ、これがダンジョンですね!」


 ダンジョンは臭いが籠もりにくいし、魔物の臭いも薄い。それは……外、深淵の森で戦ったから良く判ってる。


「臭い?」


「臭いです。近付きたくないので鞭を使いました」


「……その辺、確認しておけば良かったか。剣があれば使う? その距離は平気?」


「……近付きたくないです」


 松戸……そんなに臭いの嫌か。


「私は剣でもいけますね……臭いは確かにキツイですけど」


 そうか……ということは女子にはキツいのか。


「判った。臭いは何とかするよ。その場合は?」


「個人的には人間相手であれば……格闘戦でいけるかと思います。元々それが基礎ですので。魔物相手は……今くらいの臭いがするのなら、鞭の距離より近付きたくないです」


「あ。確かに。私も……あいつと格闘戦は嫌ですね……それはさすがに臭い」


 そうか……女子、厳しいな……というか、初異世界がカンパルラで良かったね……。下水あるし、その処理が魔道具だし。王都とか臭いみたいだからなぁ。


「ということは、魔物と戦う時は基本、鞭の中距離から、遠距離って感じかな?」


「はい」


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