260:やらかし

「さて。本題というか。ちょっと真面目な話をしようか」


 メイドズ二人に、応接間のソファに座ってもらった。お茶が嬉しい。これは松戸がここのコンロの魔道具で沸かしたお湯で入れた物だ。


「森下。君の意見も聞くから、最初は真面目に聞いててくれないか」


「はい!」


 松戸は頷くのみ。


「食事の前に、森下が、他領や他国の侵攻が~と言った時に、ここは東の果てだけれど、その先に深淵の森があって、魔族の国はそのはるか東だから、どちらもあり得ないと答えたと思うんだけど」


 さすがに森下も真面目な表情だ。


「実は、この国、ローレシア王国というんだが、国境を接しているのが、北西にレデフ王国、南西にクオディア沿海州連合という二つの国があって、そのさらに西にある大国、ハーレイ帝国の「嫌がらせ」を受けている」


 前に書いてもらった地図を思い出しながら、かなり適当だけど地図を書いてみた。……なんか変だけど、位置関係は判るだろ。


「というか、多分、ハーレイ帝国は全方位、あらゆる国で嫌がらせ活動を行っている……と思う。この辺は予想も含まれているけどね」


 あ。うずうずしてる……森下。まあ、もうちょっとだ。


「そのハーレイ帝国で命令を下しているのが、蒼き宰相ラハル・ハーレイと彼専属の「緋の月」っていう裏仕事専門の……まあ、忍者集団みたいな感じかな。イメージ的に」


「あ、蒼き宰相! 厨二とか関係なく、それっ! それは愛おしすぎる! そして、蒼が使う草の者の軍団名が「緋の月」! 命名者が、命名者がその宰相さんなら、もう、鼻血ドバーものじゃないですか!」


 さすがに辛抱貯まらなくなったのか、ソファで森下がジタバタし始めた。まあ、確かに、彼女の言う所のパワーワードを挙げすぎたもんな。でも……さらに……。


「ちなみに、帝国十二神将っていうのが率いる、帝国騎士団はこの大陸で最強の騎士団と言われているらしい」


「じゅ、じゅうにも……完全守護アブソリュートディフェンスのマキシスとか、速攻殲滅ソニックバーンのフェルドレットとか、豪炎乱舞ファイアトルネードのシンカーとかそういう「神」の「将」が十二人も? ってことですか!」


 こいつ……。


「森下、それ……もしもほんのちょっとでも、正解にかすってて、本人を目の前にしちゃったら、マジで笑っちゃうから止めろ。予想なんだよな?」


 十二神将の詳細なんて、俺だってまだ聞いてないもんな。というか、その辺詳しく知ってるのは、この国だとドノバン様位だろうし。


「イエスさー! 当然、妄想です!」


「以後、妄想禁止。俺の中で知識が混ざるから」


「はい! 私も注意します! 間違えそうなので」


「まあ、んでだ。とりあえず、その「緋の月」のヤツラが……蒼き宰相の指令を受けて、様々な……多分、その国毎に違う、嫌がらせ工作を行っている」


 森下がふんふん、と頷く。松戸はお茶だ。


「多分、帝国の周りの国は嫌がらせレベルではない、シリアスな……偽書、領主同士の二虎競食、駆虎呑狼、埋伏、離間……だったっけ? 俺の三国志知識だと。さらにもっと高度な策略を張り巡らされている気がする」


 そう考えると「緋の月」ってとんでもない規模だな……。何百じゃ済まないよな……。


「まあ、周辺国の事はどうでもいい。予想だしね。チラッと聞いた限りだと、王位争奪での内乱とか、有力貴族の反乱、蛮族との抗争激化なんていう、その国毎に抱えている問題が拡大されてるみたいだから、もしかしたら……偶然かもしれないし」


 まあ、それは無いけどな。


「で。その宰相の工作が、この国でも行われているんだけど。まずは、貴族子息女に対して毒攻撃。この毒がもの凄く質が悪くて、即死ぬようなものではないけど、通常出回っているポーションでは癒やせない。狙われた貴族は財力もあるから、ポーションだけでなく癒術士にも治療を要請する。結果として財力が奪われていく」


 その中でも、ただの代官で、財力が少なかったディーベルス様は破産寸前だったしな。


「……スゴク地味ですけど……国力を貴族という特権階級が支配している場合、もの凄く有効な弱体手段ですね」


「ああ。ちなみに、ディーベルス様の御息女、クーリア様もその被害者の一人だ」


「! そうか。それを御主人様のポーションがお救いした……ということですね?」


 はやっ……。


「ああ、なんか悔しいけど、その通り。さっきのマイアさんが階段から落ちたときにポーションを飲ませて治療したんだよね。まあ、その時、俺の作るポーションが美味しいっていうのが、マイアさんやお父さんのハルバスさんからディーベルス様に伝わって、というか、宿屋フジャ肉の煮込み亭自体が、ディーベルス様がオーナーなんだけどね」


「! ほら! やっぱり! 俺なんかやっちゃいましたか王道じゃないですか! ほらほらほら! もーなんですかもー。思い切りやらかしちゃってるじゃ無いですかーそれはもう、マイアさんは御主人様にメロメロですし~もしかしてクーリア様も御主人様に……」


「いやいや……」


「御主人様、森下の言うことはあながち間違いでは無いかと。少なくともマイアさんの目は真剣でしたよ」


 えぇ……。そうなの? というか、そういうものなの?


「だって、通常ではあり得ない高級なポーションをじゃばじゃば使って治療しちゃったんですよね? それで、お代は結構とか言っちゃったんですよね? 御主人様なら絶対そう言うし」


 ギクッ……。こ、こいつ……。


「ほら! 貴子さん、ヤバいですよ。異世界ですからね。貴族制を考えれば、こっちは重婚当然、当たり前でしょうから……御主人様! 御主人様は天然系、うっかりモテモテ主人公確定じゃないですかっ! そんなわけで、異世界で可愛がってください! 興奮してるので!」


「そ、それのどこに関連せ、性が……」


 抱きついてくる森下。え。というか、松戸に助けを求めて、そっちを見れば……。


 脱いでる! 松戸も服を脱ぎ始めてる!


「マジデ?」


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