259:食卓
「彼女とはそういう関係じゃ無いよ。この都市に来て以来、お世話になっている宿屋の看板娘だからね。失礼でしょう? うら若き乙女に対して」
ハリセンは松戸のスカートの中に収納……された。……によって我を取り戻した森下。俺の言葉もちゃんと届いたようだ。あれ、いや、だから、そのハリセンはいつ用意した……のだろうか?
「えぇ……いやあ~あの表情はー」
「何よりも……お客様、家人以外方の前で、いきなりまくし立ててどうしますか? 御主人様の名誉に傷が付きます。今後は二度と無いように」
「はい……」
森下は、反省ポーズをさせられている。あれだ。昔、猿回しの猿がやらされてたポーズだ。今さらながらに思い出した。
それよりも、だ。
「とはいえ、二人とも、普通にマイアさんと話が出来てたね」
「あ! そうですね……。普通に話ができましたね……マイアさんの言う事も普通に理解出来ました」
「そ、そそそそそ、そう言えば! ひょっとして、異世界に転移するに当たって、私にも言語理解の能力が?」
森下、全然反省してないな、これ。
「うーん。現状は良く判らないんだけど、多分、森下の言った通り、異世界の言語が理解出来るようになってるんだと思う。こちらの世界は、方言的な物はあるものの、統一言語らしいから、今後言葉には困らないんじゃないかな」
「それは良かったです。それ以外では生活に支障は無さそうですし」
「ありがとうございます! うひゃー! 異世界言語理解! ゲットだぜー!」
「では、御食事、用意いたしますね。御主人様は食卓でお待ちを」
「あ。食事、みんなで一緒にしよう」
「……奴隷もメイドも、使用人も、御主人様と同じテーブルで食事をすることは無いと思うのですが」
「ああ、うん。そうかもだけどさ。なんか、この世界に来てまで寂しいことしなくて良くない?」
「……」
「お願い」
「……畏まりました。では。御食事、御一緒させていただきます。但し、お客様がいらっしゃる場合などは区別させていただきます。よろしいですよね?」
「ああ、それは任せるよ」
「では」
この工房には、食堂がある。先ほどの台所、厨房の手前がそうだ。現状、この食堂には大きめのテーブルと椅子が八つ置いてある。これは、ここが、染色工房として使われていた頃から置いてあったものだと思う。
「大きなテーブルクロスを買ってこなければですね」
テーブルを拭きながら松戸が言う。ああ、そうか。そういうの足りないな。それこそ、カトラリーも足りないぞ。
っていうか……本格的に生活しようと考え始めると……イロイロと足りないな。
それこそ、洗濯機が無い。こっちの世界は日本よりも遥かに湿気が少なく、乾燥していて、体臭なども「薄い」様だ。そのため、衣類などを洗濯する回数が少ない。単純に洗うと布が傷むため、それを避ける意味もある様だ。
まあ、自室で手洗いっていうのも多いみたいだが、井戸のそばには大抵、洗濯屋があって、洗濯物を洗ってくれる。実はここでも、ディーベルス様の孤児&貧困者雇用政策が発動しているのだ。あの人、スゴいな。なんか、あの人だけ日本でも政治家出来そうだ。
ちなみに城壁から出っ張った感じになっているこの工房、屋上に洗濯物を干せるようになっている。
冷蔵庫は冷却具が作れる様になったので、試作品だけど既に完成している。外装は硬化しまくった土だ。イメージとして、珪藻土っぽい石が作れたのだが、それを硬質化して、適度な密度にした。
箱を作って、中をくり抜く形で、密閉度を上げて、向こうの世界の冷蔵庫の様な形を生み出した。まあ、残念ながら、ゴムっぽいモノは作れなかったので、パッキンが存在しない。樹液の加工からいければそのうち作れるかもしれないけど、とりあえず、レバー式の留め具、蝶番を作って、取り付けた。
この、本来金属で作成する加工部品の作成がとんでもなく面倒くさい。多分、鍛冶士とか彫金士の得意技のハズだ。
なので、これは、金属ゴーレムのパーツ……の流れで作成している。ウラワザだ。
ゴーレムの指とか関節部分とかは結構複雑なパーツ構成で出来ている。それを自分に必要な部分だけを抜き出して、人力で動く様に加工する。その辺は向こうの世界でリアルで見たことがあればそう難しいことじゃない。
まあでも、かなり面倒なので、量産は無理だ。そもそも、この冷蔵庫の外装が面倒くさい。純粋に魔力も使うし、時間も掛かるし、集中力も必要なので疲労度がメチャクチャ上がる。
自分用の一品物って感じだろうか。あ。苦労した甲斐あって、魔石の消費はかなり抑えられている。冷却具自体は単純な構造だったからね。
冷蔵庫と、冷凍庫。二つ作って並べて、置いてある。ちょっとお気に入りだ。
あと……必要な白物家電と言えば……乾燥機、食洗機、電子レンジ、炊飯器、エアコンか。ってエアコン! そうか。他はともかく、それか!
このカンパルラというか、この世界にも四季がある。そして、大陸中央に当たるこの辺は特に四季の影響が強いらしい。
あまり、気にしてなかったけど、暦の数え方、単位は向こうとほぼ同じだ。
で。現在は四月。この後、夏で暑くなるらしい。冬は寒いので暖房=暖炉が必須だ。夏は……エアコン欲しいよなぁ。冬は……達磨ストーブでいけそうか。
「こんな感じでよろしいでしょうか?」
マイアさんが運んできてくれた料理がテーブルに並んだ。大きなテーブルの約半分を使用する感じで、なんか、家族の食卓って感じだ。
切り分けたパンが三人前でかなりの量、山盛りになっているのがなんか嬉しい。
「ああ。食べましょう。明日~は……うーん。マイアさんが料理人としてやって来るみたいなので、要相談かな。いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす」
「うわっ美味しい! なんか、素材が凄くないですか? あ。でも、味付けもスゴイ絶妙……」
「この世界、肉は基本、魔物の肉なんだけどさ。正直、向こうの肉よりも旨いんだよな~」
「魔物の肉ですか……美味しいものですね」
「やっぱり、魔力が味に影響を与えてるんでしょうかね? スゴイ!」
やはり……みんなで食べる食事は、さらに美味しい、と思った。
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