258:さすゴシュ
って、そういえば……あれ? 松戸は……と思って部屋を出ると。
彼女は台所にいた。
「御主人様、あの、この調理器具はどう使うのでしょうか?」
お、おう……そうか。魔道具……って魔力が無いと使えないんだよな。ここに置いてある調理用の魔道具は、全部俺が改良を加えた高性能版だ。認証も必要ないので、魔力を流せば起動する。
さっき入れてもらったお茶は向こうの世界で使っていたポットのお湯を使っていた。新たに沸かそうと思ったんだろうか。
(シロ……彼女達に魔力は?)
(多分……認識さえしてしまえば、そのスイッチを入れるレベルなら扱えると思います。魔力はこの世界の全ての者に備わっているので、彼女達もこちらの世界に来た瞬間に、微量だとは思いますが、魔力を与えられているハズです)
「魔力っていうのがある……と頭で考えてみて。で、その魔力を指先に集めて、そのスイッチを押す」
シュボ!
コンロに火が付いた。
「おお。一発じゃん。今の指先に集めたのが魔力ね。それを自在に操れる様になると、魔術が使える様になると思うよ」
「おおー森下じゃないですけど……なんか感動しますね」
「え、ええ、えええ。魔力? 貴子さん、魔力使いこなしちゃったんですか? そんな、ズルイ、私も私も」
「消したいと思いながらそのスイッチを触って」
松戸さんが、もう一度スイッチを触る。火が。消えた。
「ちゃんと消せるようです」
「わ、わ、わたしにも、私にもやらせてください!」
いやだから、鼻息荒いってば。
「森下、はしたないですよ。ちょっと落ち着いて」
「あい……」
まあ、異世界に舞い上がっているのは判るけどね。
「じゃあ、松戸と同じ様に、自分に魔力がある……と認識して、それを指先に集めようと思って」
「はい……」
「んで触る」
シュ!
うん、スゴい。飲み込み早いな、この二人。あっという間に魔力を扱えるようになってしまった。
「これが……魔力……こ、枯渇するまで使用すれば、魔力総量が増えて、いくらでも魔術使い放題無双とか出来ちゃいますかね? どうですかね?」
「知らん」
そんな無双もあるのか……。
「まあ、こちらの世界に来たことで、魔力が備わった……のは確認出来た。で、魔術はあると言ったけど、異世界人である君らが魔術を使えるかどうかは、条件を含めて、現状いまいち判らないな……」
「そうですかーってアレ? 異世界人って、ご、御主人様は? 魔術使えちゃいますよね? というか、御主人様は元々こちらの世界の人ってことですか?」
あ。
「厳密に言うと異世界人では、ないよ。生まれも育ちも地球だからね。ただ……こちらの血が混じってるらしい」
「お。おおおー。アレですね! 先祖帰りとかで血が濃くなってて、能力がとんでもなくて、異世界への転移が可能になっちゃった系ですね!」
うわっ。こいつ……本気で核心付いてくるな……。というか、良くアレだけのヒントというか、キーワードで、真実を引き抜いてくるよな……もしかしてこれ、なんかスキルが働いてるんじゃないか?
「松戸、森下ってなんかスゴいな」
「ええ。それよりも、御食事はどうしたしましょう? 今から買い物は……さすがにバタバタいたしますし。こちらに持ち込んだ素材で何かお作りしてもよろしいですか?」
「ああ、それなら……日も暮れたし、そろそろ……頼んでおいたんだよね。さっき」
ゴンゴン……
鉄と鉄が打ち合わされる音が、部屋に響く。
「これ、呼び鈴ね。インターホンとか無いから、玄関扉の前に行って、誰何して」
「はい。畏まりました」
「はーい」
「マイアですー。御食事お持ちしました-」
ガチャ……
重厚で重い鍵を外すと、ゆっくりと扉が開く。ああ、そうか。ここの鍵を向こうの世界風に改造しようと思ってたんだよな。あと、動力を魔力にして、ビデオフォンを設置したかったし。
「今日からお客様がいらっしゃる……んです……あれ?」
「初めまして、マイア様。御主人様がお世話になります。私、御主人様の奴隷メイド、松戸でございます。以後お見知りおきを」
「だ、第一異世界人とのそうぐー」
「森下!」
松戸さんの叱責は声が小さいのにとても良く通る。
「あ、は、も、申し訳ありません、私も御主人様の奴隷メイド、森下と申します。以後、よろしくお願い致します」
……って奴隷メイドって何だよ……。いつ俺がそんなのにしたよ……。給料払ってるよね? 命かかっちゃう事があるから、それなりに高額だった気がするんだけど。
「え、あ。え? 奴隷……メイド? あ、は、はい、サノブ様って、やっぱり、本当はお偉い方……だったんですね? ってああ、はい、では、これ、御食事になります。そ、そうですか。お二人も。はい。あ。でも」
「マイアさん、いつもありがとう。お父さんにも伝えておいて。いつも美味しいと」
「はい! あの、その、サノブ様……」
「ん? 何?」
「あの……私を……住み込みで料理人として雇っていただきたいっていう話なのですが……」
「あ。やっぱり、ダメだった? 反対されたでしょ」
一時帰宅する前に、彼女から相談されていたのだ。料理人として自分を雇って欲しいと。彼女の天職が料理人なのは鑑定済みだ。
しかも、ここ最近の持ち込んでくれる料理は、煮込みやスープ以外は、大抵彼女が作ったモノだと言う。炒め物や焼き物で一見シンプルなのだが、だからこそ確実に、差がわかる。俺も同じ材料で作ってみたのだが、彼女の味にはさっぱり追いつけなかった。
そりゃ現状、ハルバスさんよりもレベルが低いだろうけど、既に俺が作るよりマシだし……ということは、メイドズよりも上だろう。
この二人の家事に関する能力で、唯一アレなのが、料理だからね……。
「いえ、接客には新しく人を雇うから、私はこちらで御奉公して良いそうです! というか、父も母も、喜んでました!」
「え? そうなの?」
「はい! サノブ様、いつからがよろしいですか?」
「あ、えっと……うーん。いつでもいいよ? そちらの都合もあるでしょ?」
「はい! では、明日からこちらでお世話になります! 荷物持って来ますね。よろしくお願いします!」
「え? 明日?」
勢いよく、帰って行く彼女。
明日か。即断即決だね……。
っていうか、外に冒険者の護衛が待っているハズだ。ディーベルス様が俺の食事の為に、手配してくれたのだ。ポーション作成等の際に、錬金術士が工房に何日間も立て籠もることが多いっていう話を聞いたことがあったらしい。
確かに、食事のたびに外へ出るのは面倒くさかったので、甘えることにしたのだ。
まあでも、そもそも、配達を冒険者に頼むんで良かったのに、いつの間にかマイアさんが持ってくることになってたんだよな……。
「ベッドはあった……よな」
「はい、問題ございません。比較的新しい物を確認してございます」
さすがだね……。
「御主人様さずがです! 略して、さすゴシュ。今の娘、可愛かったですよね! モテモテですね! はっ! これはやはり、ハーレム&俺なんかやっちゃいましたを回避しようとしてたのに、実はもっとトンデモナイコトやらかしちゃってました系主人公ってこ」
スパーーーーン!
あ。良い音……。
松戸さんのハリセンが森下の頭を叩いた。あれ……それ、どこから出した? というか、いつの間に手に持ってた? というか、作ったの? それ。いつ?
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