257:速攻理解
プロである二人の実力をもってしても、掃除はそう簡単に終わらなかった。
「単純に部屋数が多いのと……御主人様……掃除してないですよね……」
うん、してない。ベッドシーツとか、生活用品の準備はハルバスさん一家、女将さんとマイアさんが全部やってくれた。新品を買ってきて、設置してくれたときに、寝室や応接間は掃除してくれた……そのままだ。
「病気にならなければ……いいよ」
「何ごとも積み重ねです。最初は気にならない程度でも、埃に囲まれて生活していれば、いつの間にか埃を多く吸い込んでしまうものです」
「はい……」
「ああ、いえ。申し訳ありません。そのために我々がおりますので。手遅れになる前に、つれて来てくださって良かった」
そうですね。良かった。まあ、酷くなってきたらシロに「洗浄」を使ってもらうつもりだったけど……。
「え? ええええ! なんですか、これ!」
夜になって。工房の中、そして外を見た森下が叫んだ。まあ、うん、当然の様に、カンパルラは夜光都市だからね。
「な、なんで、こんなに明るいんですか? た、松明とかランプじゃ無いんですか? 照明といえば。実際、掃除したとき、壁とかに油付いてましたよ? あの支えとかってランプ下げるヤツですよね?」
「ああ……うん。これは灯の魔道具……ね。室内のヤツがLEDランタンの魔道具。外のヤツは街灯の魔道具」
「魔道具……ってことは、錬金術……御主人様の仕業ですか?」
いや、なんだよ仕業って……。
「俺の仕事……な。ちゃんとこの都市の御代官様に許可をもらって、御代官様の施政だってことで行ってるから大丈夫だよ」
「うわ……でも、そ、それ、ここ一カ月で、ですよね?」
「うん……」
「俺なんかやっちゃいました系なんてお呼びじゃないくらいやらかしちゃってるじゃないですか……。姑息な責任転嫁は忘れてないから、大丈夫かな? とは思いますけど」
姑息でも、う、上手いことやってるじゃん? 多分?
「その……御代官様の事をほんのちょっと調べれば、即、芋づるで御主人様の事が明らかになるレベル……な気がするんですが」
「……」
松戸。鋭いね……。
「そうなんすね? なんすね?」
なんすはやめろ。矢部君か。
「森下。なんすはダメです」
「あ。はい。ごめんなさい」
松戸からちゃんとツッコミが入った。さすがだ。
確かに……ディーベルス様と会う場合は、フジャ肉の煮込み亭の地下経由で行っている。それも偽装の為と言うよりは、そっちの方が変に怪しまれないからだ。
ディーベルス様の屋敷は「上」エリアにある。フジャ肉亭は宿屋なので「外」だ。つまり、「中」エリアをショートカットしている。
普通に歩いて行けば……「中」まではどうにかなるけれど、「上」エリアに行こうとすれば確実に誰何される。というか、された。「上」は基本、貴族エリアだからね。
まあ、それ以上偽装工作してないし……ディーベルス様の行動をトレースすれば、俺はすぐに浮かび上がる……か。一緒に領都リドリスまで行っちゃったしな……。そういえば。
「つまりは、御主人様は既に、この城砦都市の重要人物、特異点となりつつあるということですね? ああ、夢溢れる展開。……となるとこの後は……」
「この後は?」
「他領の……えっとリドリス領でしたっけ? ここ。この領のライバルになりそうな領主、政敵となっている領主からの偵察、そして、この地を奪おうとしての侵略行為とか……あと、ここ、国の端っこなんですよね? ってことは、他国からの偵察は当然入っているから、他国が国境近辺で演習、そのまま奇襲の様に侵攻……でしょうかね?」
……いきなり紛争、戦争かよ……と思わないでもないし、各種前提情報が違っているから、当たってはいないけれど。
「他領が責めるとすれば、ここは東の果てすぎる。なので、かなり西から攻め上がってこないとここまでやってこれないな。そもそも、騎士団とか、ここよりも遥かに戦力の高い領都であるリドリスを攻め落とさないとだから結構大変だと思う」
「おおーなら他国はどうです?」
「この領のさらに東は深淵の森って呼ばれている樹海で、魔物達の領域だ。スゴイ広大で、ここを生きて通り抜けるのはなかなか難しいレベルだそうだ。だから、その向こうの国が侵攻してくるっていうのも無しかな。魔族の国があるらしいけど、強力な魔物のせいで森を越えて行軍とかあり得ないレベルみたいだし」
「ま、まままま、魔族! 魔族ありの設定ですか!」
「なんか、魔力に秀でていて、魔術が強力で、人族は劣っているから全て奴隷とする、実際してるって感じの考え方の種族、国らしいよ?」
「お。おおおおー! アレですね、魔力至上主義で選民思考バリバリなのですね」
だから、なんでそんなに嬉しそうなんだよ……どういう設定厨なんだよ……。そもそも設定厨なんて言葉、あるのか?
「了解しました! なら、即攻め込まれることは無いとしても。御主人様の技術を何とかして手に入れようと、全国から、いや、他国からもスパイはやってきますよね。絶対。だって、この明るさって、御主人様以前には無かったモノなんですよね?」
「ああ、そういう考え方もできるか」
「つまり、この城砦都市に「とんでもない凄腕の錬金術士がいる」という噂は広がりつつあるわけです。それは狙われますね……」
俺が拉致監禁対象者……か。
「御代官様には「深淵の森に暮らす謎の錬金術士一族を助けたら、イロイロと商品を取り扱えるようになった」って言い張ってもらう予定なんだけど」
「おお~さすが。そうです、ね。うん。それで良いと思います。そうなると、御主人様はその一族との連絡要員、その一族の人間……って感じに思われるってことですよね」
……理解はえーな。イチイチ説明しなくて済むから楽でいいけど。
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