256:パワーワード

 森下は、松戸の言う事、「俺の世話がちゃんとできる環境を作る」に従って掃除していたのだが、なんか、辛抱たまらんって感じになってしまったみたいだ。


「ステータス! ステータス! 御主人様、ステータス表示されません! 鑑定ですか、鑑定ないとダメですか!」


 ……笑。面白い。しばらく何も教えないっていうのも面白いかもしれない。


 というか、森下のここまでの笑顔は向こうでは見たことなかったな……。

 何だかんだ言って、二人とも、過去に重い経験をしすぎている。それが世界を移動したことで……なんとなくリセットされてるのかな……。いや、単純に旅行効果? か。


「レベル! レベル! あ! 魔法! えっと、えっと「荒れ狂う地獄の炎よ、何もかも燃やし尽くす、その熱き揺らめきが、我が行く手を薙払え! 劫火!」……魔法出ない!」


 笑。いや、お前、それ、術使えちゃったら、ヤバいじゃん……。目の前燃えちゃうじゃん……。工房燃やすなよ……。


「森下。もしも魔法が使える世界なら、今のでこの部屋は燃え尽きてしまうのでは?」


「あ! 確かに! やばかった」


 くくくく。


「楽しい?」


「あ。は、はい! 楽しいです。つれて来てくださってありがとうございます!」


「私も楽しいです。森下が舞い上がっているのも久々に見ましたし……森下ほどではありませんが……ワクワクしております」


 まあ、そうだよね。ワクワクするよね。窓越しに見える世界は、俺たちが暮らしていた日本の生活とは大きく違う。魔術があるからイロイロと便利ではあるけれど、魔物がいるせいで、中世ヨーロッパ系の城砦都市生活を余儀なくされているわけで。


 ……ともあれ、なんか喜んで貰えたなら良かったかもしれない。


「というか、森下。さっきの呪文……なに?」


「え? オタクならオリジナル呪文の二十や三十、自作してさらに覚えているものですよ! 普通ですよ!」


 ……そうか? 俺も結構なゲームオタクだと思ってたんですけど。オリジナル呪文ないよ。 

 

「そっか~剣と魔法の世界ではなくて、普通に剣の世界だったんですね~」


「あ。いや。魔術はあるよ。あと、魔物もいる。ここは城砦都市でこの工房は壁際だ。その壁は、魔物の狂乱敗走スタンピードから生活圏を護る為にある」


「ぱぱぱぱ、パワーワード! きった! 魔術! 魔物! 城砦都市! 工房! 狂乱敗走スタンピードまで! フルハウス! っていうか、工房? あれ? 御主人様は……工房主?」


「ああ。こちらでは商人兼、錬金術士なんだよ。なので、この工房で」


「錬・金・術・士! あ! そうか! そうですね! 御主人様のあの、秘薬! スムージーって言い張ってたヤツ! エミさんとか美香さんの治療で使った! あれ、も、もしかして!」


「ああ、あれは所謂ポーションだよ。体力回復薬、精力回復薬、解毒薬なんかもある」


「なんと! やはり、ポポポポポ、ポーションでしたか! いやいや、実はそうだと思ってましたよ! さすが御主人様! 向こうの世界でもポーションを作ってしまっていたのですね! ふふん!」


「なんで森下が威張るのよ……ふふ」


 お。松戸の笑顔も初めて見たかもしれない。……森下……それにしてもテンション高すぎだろう……反動が無いといいんだけど。


(ん? シロ。そういえば……彼女達の天職ってどういう扱いになるの?)


(正直、御主人様以外で、世界を渡ったのは、今回のケースが初めてとなります。なので……そもそも、こちらの世界では【鑑定】がいまいち効きが悪いといいますか……どういう状況なのでしょうか。これは)


(そっか……シロも判らないのか……)


 俺の【鑑定】がこちらの世界で自分以外の人には効きが悪いのは、シロにも理由が良く判らないということだった。女神の神力が弱まっていたから……ということらしいが。


 そもそも、向こうの世界の人は【鑑定】できない。なので、メイドズに対して【鑑定】したことはなかったんだけど……。


 効きが悪いなりに、こちらの世界の人は【鑑定】が可能なんだよな。


(女神はさ……確か、【鑑定】される可能性もある……的な事を言ってた気がするんだよね……だから、俺が副職システムを使用しているのは隠蔽されているって)


(確かに……そうですね。迷宮創造主マスターの天職が迷宮創造主ダンジョンマスターである……というのは副職システムで隠蔽されていますね……つまり、そうしなければいけない状況というか、環境を想定していたということですね?)


(そうそう。その環境って言うのはこちらの世界ってことでしょう? 昔は詳細な【鑑定】が使える人が沢山いたって事?)


(ああ……そう……ですね。私の持っているデータですと、既に少なくなり始めていましたが……【鑑定】のスキルを持つ天職がありますので)


(ってその辺は規制か)


(はい。申し訳ありません)


 試しに、二人を【鑑定】しようと思ってみた。うん、何も出ないな。表示されない。


 俺を見れば。


名前 村野久伸むらの ひさのぶ

種族 ハイエルフ


天職 魔術士

階位 65

体力 100 魔力 150


天職スキル:【平静】【魔術肆】【魔増】【復唱】【輪唱】


=隠蔽=========

天職 迷宮創造主ダンジョンマスター

階位 37

体力 30 魔力 145 


天職スキル:【迷宮】【結界】【鑑定】【倉庫】【収納】

【異界接続】【渡界資格】【言語理解】【次元扉】


習得スキル:

【気配】【剣術】【盾術】【受流】【反撃】【隠形】【加速】【棒術】【拳闘】【魔術】【手加減】【周辺視】

=隠蔽=========


 頭の中に表示されるからね。スキルが使えなくなっているわけじゃない。


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