254:成功

 成功した。まあ、文字的には性交したでも結果は同じだ。あの薬……とんでもない。正直、あまり使いたくないな……。性格が豹変していた。

 俺……自分の本性があんなだった……のかなと思うと、まあ、確かに、ダンジョンで魔物を蹂躙して行く時の感覚に近いのかもしれない。


 なんだか、自分の違う一面を強制的に見せられた気分だ。


 と、悩んでいても仕方ない。


「これで問題ないよな」


「はい。私もあんな風に虐められないように、頑張ってお仕えしようと思います」


「イヤイヤ……普段はあんなんならないでしょ」


「……」


「え? マジデ?」


 二人に荷造りをさせた。とはいえ、一旦、俺の【収納】にブチ込んで、ダンジョンに移動し、【倉庫】に移すだけの簡単な引っ越し便だ。現在、【収納】は四㎏まで。【倉庫】は40tまでしまい込める。【収納】がもう少しあがるといいけど……迷宮創造主ダンジョンマスターのスキルなので、どうしても伸びが悪い。


 とはいえ。便利だ。


 いくら、明かさなければいけないとはいえ、秘密を知る者は少ない方がいい……ということで、女神に相談できるまで、メイドズにダンジョンシステムの事は言わないでおくことにした。


 いきなりス〇ーキならぬ、いきなり異世界はなかなかだと思うけど……。


 二人にアイマスクを付けさせて、面倒なのでお姫様抱っこで、「次元扉」をくぐる。なんてことはない、あっさり、何ごとも無く通過できた。


「これ、本当に……その、イロイロと必要だった?」


「はい、必要でしたよ? 私は御主人様に嘘は申しません」


 うーん。嘘は無いけど、なんとなく、言ってないことはあるんじゃないのかなぁ? どうなのかなぁ……まあ、いいか。


 二人を、異世界側の工房、応接室のソファに座らせる。


「はいよ。アイマスクを取って良いよ」


「はい」


 二人がアイマスクを……取る。


フンフンフンフン……


 森下がいきなり、匂いを嗅ぎ始めた。


「海外……いえ……こんな匂いは……嗅いだことが……」


 ほほう。なに、そんな特殊能力があるの?


「御主人様……ここは……」


「ローレシア王国、東。リドリス辺境伯領のカンパルラ城砦都市になる」


 ふんふん……と周りを見回しながら、立ち上がる二人。置いてある家具に若干積もっている埃を確認して……。


「御主人様、我々の荷物をここに」


 ……何、そのちょっと怖い口調。こういうときは逆らわない方がいいというのは知っているので、素直に、二人の荷物を……応接室のテーブルの上に出す。


「いえ、掃除セットを」


 ああ。そういうことね……と、別枠で【倉庫】に入れてきた彼女達御愛用の掃除セット……さすがに掃除機は持って来ても動かないので、そのうち錬金術で作成するとして、箒にちりとり、埃取りのクイックル〇イパーに、大量のしっとりモップシート。

 問題はコレらで生じたゴミ……だけど。うん、まあ、ゴミ袋にまとめて、向こうの世界で処理してもらおう。ああ、こっちで俺が高温の炎で塵芥まで消滅させてもいいか。そんな難しく考えることなかったや。エコとか考え方自体が無いしな。


 二人は……本気で気に入らなかったのか、工房の掃除を開始した。


 というか、ここ、異世界だよ? せ、説明とか、その、「わあ! 城砦都市スゴイ!」みたいな、俺みたいな、お上りさん的な行動とか……そういうのはしないの? いいの?


「全ては、御主人様のお世話がキチンと行える環境が整ってからです」


「整えてます」


 はい……すいません。


 やろうと思えば……多分、シロの能力の一つ【洗浄】を使えば……魔力か、DPをそれなりに消費するだろうけど、とんでもなく綺麗になったと思う。現状、シロはカンパルラに限り、ダンジョン外でもかなりその力を行使するコトができるようになっている。


 なので……。


「都市、東地区でひったくり事件が発生。犯人を転ばせました」


「ん。お疲れ」


 カンパルラ内で犯罪行為が行われた場合、即、犯人が「何故か転ぶ」という処理を施している。何故か転んだ犯人は……衛兵が辿り着くまで起き上がることが出来ない。


 夜光都市の呪い……とまで言われ始めている様だ。まあ、そりゃそうか。ただ、呪いと言っているのは、邪な思いや、行為をしていた、闇に生きる者達だけで、善良な市民にとっては、「ひったくり被害、突発的な暴行被害」を受けない城砦都市として、「神に護られた都市」として名前が売れてきている。


 夜光都市として光り始めたのが教会が最初だったからだ。女神信仰は正直、サッパリ状態だったが、ことカンパルラに関しては、毎朝、毎晩、感謝の祈りを捧げる人が増えた。

 教会へ足を向ける人、進んで寄進するする人も大きく増えている。良きことだ。


 さて。先ほどの転ばしだけど。


 特に、住民の証である、「小型ランタン」を持っていると、安全だ……ということになっている。


 まあ、そうなんだよね……最初のうち……まだ、街灯による感知範囲が完璧でなかった際に、「小型ランタン」を所持している者からの信号しか受け付けられない時期があったのだ。


 そもそも、呪い……ということで、毎回確実に発生する訳では無い……という噂も生じているので、シロも、もしも取り逃しがあっても、罪悪感を抱かないようにしている。

 

 難しいのがね。子供や奴隷に対する体罰……だよね。この世界、親が子に、師匠が弟子に、雇い主が奴隷に手を挙げて、モノを教えるという行為が当たり前の様に行われている。


 それは「教育のためなんだとしたら、それは良くないよー、あまりお薦めできないよー」と言ったところで、耳を傾けてくれるのは、リドリス家の様な「偽善者」レベルで偉大な、高尚な志を抱いている方々くらいだ。


 ぶっちゃけ理解されない。子供は親の言う通りにするのが当たり前だし、奴隷はなおさらそういう悪しき慣習に縛られている。


 そこいらは中々難しい……・。


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