251:サービス過剰

「何度も確認してうざいかもしれないけど……さ。あ、あのさ、ほ、本当に自分からこれをしたくてやってる……?」


「はい!」


「どれだけお待ちしたことか……」


「もっといろいろしたい」


 ……ふう……。


「判った……」


 ちょっとそのマッサージを中止してもらう。


 いつの間にか……足先、指先が濡れタオルで拭かれている。手際いいな……。


 最初から用意してあった……のか。そのワゴン……アレか、サービスワゴンとか言うんだっけ……いつ持って来てた? アレ? ああ、最初からか。お茶セットが置いてあるし。


 気持ちは良いのよ? 本当に。それにしても今回のは……結構な密着度だった。そうされて、初めて、自分が彼女達を「受け容れている」事実に気が付いた。


「これまで見てきて判る様に、俺は通常の、一般的と言われている様な、恋愛回路が破綻している気がするんだよね……なので、君たちのような魅力的な異性が居ても、あまり感情が動かない」


「魅力があると思ってくださるだけで嬉しいです」


「ありがとうございます」


「魅力的……」


 うん、まあ、そうやってジッとこっちを見られると困るけど。


 というか、二人はともかく、美香さんは……まだちょっと受け容れていない様な気がするよなぁ。俺。もの凄くワクワクしてる顔をしているから言いにくい……。


 いやだって、コミュニケーション取って無かったし……。向こうに行く前。彼女、癒えて無かったし。


 ……まあ、もう、いいか。面倒くさいことは考えないで。年齢的に全員、大人の女性なんだし。


「御主人様。次にまた旅に出る際には、私達二人をお連れいただけませんか?」


 松戸さんが、真剣な顔でこちらを見ている。森下さんも、か。


「わ、私も連れて行ってください!」


 美香さんもそこに加わる。まあ、うん。彼女はまだだめだ。とんでもないスピードで回復しているのは確かだけど、さすがにあの状態から一カ月の身体は信頼できない。


「まあ、普通に美香さんはダメだろ。無理がある。最低でも半年は身体を癒やし、リハビリに励んでください」


「そんな……」


「そもそも。美香さんは……御主人様と共に旅をして、何をするのです?」


「……性欲の……処理を……」


「私達は恋人では無いのです。先ほど御主人様が仰ったとおり、御主人様にはその様なカップル状態の心持ちを持ち合わせていないのですから」


「私達は、御主人様の身の回りのお世話をするのが目的。御奉仕するのが目的。自分の感情のために行くのでは無いです」


 ああ、そうなのね。というか、確かに、そう言ってくれると、俺自身、自分の気持ちに言い訳が出来やすい。


「……」


 美香さんも二人に比べると、自分が、自分の気持ちを通したいだけなのに気がついたのだろう。むぐぐぐ……という非常に判りやすい悔しげな顔をこっちに向ける。


 まあ、うん。睨まれても無理。


「では……判りました。連れて行けと等と我が儘は言いません。ですが、ですが、せめて、私のことは、美香、とお呼びください。それ位は……」


「ああ、うん、泣かなくていいから」


 こわっ。この娘、今、マジで泣いた。


「では、美香、と」


 呼び捨て希望ですか……。


「ああ、美香、ということだから、君は連れて行かない。いいね」


「はい……致し方ありません」


「というか、身体のリハビリも重要なんだけど、できれば、もう少し関係性が構築されてからかな。キミのコトが嫌いではないけれど、正直、俺の居心地が悪い。気を使ってしまう」


「……はい……」


「美香さんは最低限の家事等を学んだ方がよろしいかと思います。櫻井さんにお願いすれば今日にでも学び始められる事ですから」


 美香さんのお付きの櫻井さんが頷く。実は、美香さんが突っ込んできた当初から、さりげなくドアの横、壁際にさりげなく立っている。


 姫様が俺の足の指舐め始めたんだから、その時点で注意するというか、止めて欲しいんだけどな……。あれキッカケでメイドズの行為も過激になったんだし。


 あ。いや、彼女がこんななのは……彼女達、お付きの櫻井三姉妹の教育のせいか……。美香さんの行動からはなんとか子種をゲットしようという、大奥的な思考が目立つ。


 自主独立で行って欲しいんだけどなぁ。


「そうだな。最低限、自分の身の回りの事は出来ないとだし、さらに、俺にとってプラスになる様な行動が可能でないと、リスクだけで、メリットが無い」


「はい……」


 いや、いちいち泣かなくていいから……。


「そういえばさ、その辺のコト、片矢さんは許可してるの? 保護者は彼なんだから、了解が出なかったから、何も出来ないよ?」


 そう。俺の中ではそういう扱いだ。


「はい……」


 もう、泣かない、泣かない。

 

「ということで、片矢さん、姪の再教育、ちゃんとしてね」


 虚空から……滲むように、気配が現出する。ああ、やっぱスゴいな。この人。敵意のない状態だと、ほぼ感知出来ない。

 まあ、アレだ、魔術士のレベルが上がったからね。純粋に「魔力感知」で感じられる情報の精度が上がっている。だからギリギリ気付けたみたいな。

 これ、風属性の術として覚えたんだけど、実質はパッシブスキルみたいなもんだからね。


「はっ。お帰りなさいませ、御主人様」


「なんていうか、隔離されていたこともあって、偏りすぎな気がする。本人の意志と、片矢家の意志、星詠みの巫の意志、姫様としての意志……。立場があまりに多すぎて、ちゃんと人格形成出来ていないんじゃないかな? もの凄く不安定な気がする。やり方を含めて、修正していかないと」


「畏まりました。そう……ですね。私も少々甘やかしすぎておりました。幸い、御主人様に対する想いは嘘でも打算でもないようですから、その辺を絡めて再教育させていただきます」


「う、うん……」


 それはそれでなんか怖い。ほ、ほら、可愛い姪もなんか怯えてるよ?


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