250:帰還

「ただいま~」


「お帰りなさいませ、御主人様」


「お帰りなさいませ」


 帰るのは別に瞬時で、しばらく急ぎの用事も無いし、イイ感じでレベルも上がったばっかりで「いくら迷宮創造主マスターでもしばらくはレベル上げしたい病にはかからないでしょう?」と言われ。


 さらにシロには「ゴロゴロするのであれば、使用人の居るあちらの世界の方が楽なのでは?」とまで言われ。確かにその通りですね……と自分でも思い。


 なので、久々に疎開先の御屋敷に戻ってみた。


「あ。お茶ちょうだい。俺ってどれくらい? 空けた? 大体は判ってるんだけど」


 ソファに腰掛ける。ああ、うん。高級品の使い心地はやはり、こっちの世界の方が数段上だな。タオルとかの質も当然こっちだし。


「お出かけになられてから、本日でちょうど30日でございました。お疲れ様でございます」

 

 一カ月か。そうか……なかなかあっという間だったな……。


 うん、松戸さんも森下さんも相変わらず、シャキっとしてる。あれだ、シグノさんな。アレに近いね。やはり。


「御主人様! お帰りなさいませ!」


 ドアが開いた。


 え? 何これ? いきなり、座っていた腰に何かが追突してきた。脅威になるような気配では無かったため、何一つ対処しなかったが……黒い長い髪が……サラサラと刎ねる。


「お、おう。ただいま……」


 美香さん……か。何かと思った。元気すぎないか? 一カ月しか経ってないのに。


「姫様、はしたないですよ?」


「はーい」


 うんうん。そう思うなら、ちゃんと止めてくれないかな。突撃する前に。既に俺の座っている腰の上に、ワンピースの美少女がしがみついているのだ。


 整った顔付き、大きな目が俺の目を覗き込む。


 向こうの世界へ行く前にもちょっと体調が向上してきていて、顔色も良く、ああ、元々は可愛い娘なんだなぁ~と思っていたが。これ……どこの人形だ……というか。え? アイドル……というか、モデルだよね? これ。モデル。

 ルックスでバリバリお仕事をしているレベルというか。日本人離れしてないか、なんか。

 ふっくら……というか、顔や腕のラインが若干柔らかくなった……くらいだと思うんだけれど。

 身長は以前と代わってない。大体140センチくらいか。小さい。気力失調は肉体形成時に多大な影響を与えた様だ。


 それにしても、幽鬼の面影たるやどこに……。


「あ。今、囚われていた時の姿を思いだしてましたね?」


ギクッ


「そんな酷い御主人様にはこうです。こうしてくれます!」


 グリグリと、腰を押しつけてくる。おいおいおい……なんだこれ。俺はいま、何をされているのだろう? 最近の若い娘のコミュニケーションっていうのはこういう事を……するの? え? なに?


「姫様。それはもう少々段階を踏まなければ、御主人様に嫌われてしまいますよ」


「はっ! そ、それは困る!」


 スパッと立ち上がって、離れてくれた。ふう……良かった。こんな濃厚な接触。向こうの世界でも無かったもんな。久々でビビってしまった……。


「御主人様、お帰りなさいませ……美香は一日千秋の思い、お待ちしておりました。もう、思いが募りすぎて、ついつい、過激な行動を。申し訳ありません」

 

 座ってる俺の横にそのまま正座をして、土下座だ。なんか所作は綺麗。悲壮感は……ないから、まあ、うん、謝罪というか、普通に挨拶というか。


「い、いや、うん。距離感は……大切にね」


「はい。では、距離感ということで、このお足をマッサージさせていただきます」


 グハッ! またも! 虚を突かれた……っていうか、なんかスキル使ってるのだろうか? 尽く、俺が先手を打たれている。


 悪意が全く無いかからか……どうにも感知しにくい。


 今俺はトレーナーにスウェット。室内着ってヤツに室内履き、スリッパに素足だ。


 その左の足首をしっかりと両手で握られて、そのまま、両手で抱え込まれてしまった。


 え? え? これ、簡単に関節決められちゃわない? え? やばない?


 そして、おもむろに……裸足の足……先を両手でマッサージを初めてしまった。足の指を一本ずつ……その間に自分の……美香さんの細い指が揉みほぐすように絡まっていく。


 あ。なんだ、これ。スゲー気持ち良い。


ギリギリギリギリ……。


 え? あれ? なんだ、今の音……っていうか、歯ぎしり? 歯ぎしりか? 今の判りやすい音……え? どういう……。


 あ! そうか! し、シロに言われたアレだ、そうだ。そういう……。


 はっ! とした感じで、左足を絡め取られている俺は首を横に振った。


 一瞬。俺を見ていた顔が……一瞬。松戸、森下、両名がこちらを睨み付けて……いや、角度的に、俺を睨んでいたんじゃないな。み、美香さんを睨んでたのか。そ、そうか、そういうことか。


 ま、学んだからね。俺も。さすがに。


 松戸、森下の方を向いて良く見る。ってえ? なんか泣きそうになって……るの? どういう……こと? え? マジデ?


「ふ、二人とも……その……好きにしていいよ?」


! 


 跳ね上がるかの様に。二人の身体に芯が入った。なんだ? 師匠と訓練する時よりも遥かに、気合が……。


スタッ……


 瞬足で二人のソファに座る俺の背後、両脇に立った。は、速い……。


「では。私達は手と肩をほぐさせていただきます……」


「いただきます」


 松戸、森下が、俺の手を取った。両手で、挟み込むように……丁寧に、指と指を絡めていく。うっわ。なんかやらし。美香ちゃんの足のヤツはマッサージって感じだったし、今もそうなんだけど、こっちは……というか、二人とも……なんで……ちょっと熱が……。


 って、いや、あれ? なんで、俺の手を「抱きかかえる」かの様に……揉みほぐしてるの? 普通にマッサージ屋さんではそんなことしないでしょ。というか、されたことないし。男性にそれされたら、ちょっと気持ち悪いし。俺。



---------------------------

この話の続きは「250_2:マッサージ」としてサポーター限定で公開しています。

舐めてるので。限定です。




 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る