246:爆裂火球

 深淵の森は……まあ、ヤバいわ。


 俺がね、作ったダンジョンってさ、もの凄く偏ってるわけじゃない。


 レベル上げ特化というか、それなりに試行錯誤して、範囲魔術で一気に殲滅できるように工夫したり、モンスターは大抵一種類だし。


 最悪、やらかした! と思った瞬間、転移で戻っても来れる。


 だからこそ、高レベルの魔物を配置してあっても、そこまで困らないというか、怖くないというか。


 が。


 ここは地獄だ。魔法鞄に潤沢な装備を用意しているとはいえ、簡易結界の魔道具で敵を寄せ付けずに休めるとはいえ。


 凄まじい数の敵が襲いかかってくる。


「それにしても、とんでもない数だな……これが狂乱敗走スタンピードの前兆か……」


「火球」「火球」「火球」!


 最初……森で火の魔術なんて……と思って当然使って無かったのだが、「深淵の森を舐めんなよ」……っていうレベルで、火が燃え広がらない。

 なんでも魔力を多く含んだ木々は、そう簡単に燃えない、燃え広がらないそうだ。なので深淵の森は乾燥の上、炎上山火事……なんてことにはあり得ないそうで。


 と言われても、なんか、森で火はちょっとためらいがあり……避けていたのだが。襲いかかってくるやつらが……外骨格類、蟲系の魔物の上位種になった時点で、もうだめだった。


ブーンブーン……


 蚊の何十倍もの羽音が辺り一帯を覆う。もの凄い不快だ。鼓膜を襲う震動……これが強烈だとかなり吐き気を催す。ということを初めて知った。


 それを解消するのが、この……


「火球」


 だ。


ドゴーン! 


 吹き飛ぶ。全部が吹き飛ぶ。爆炎が周辺を薙払う! 


 火力も当然だが、「爆裂」も加わって、衝撃力で周辺の木々……とはいえ、細い木々を凪ぎ飛ばす。……大きい木はお構いなしで立ってるんだけどね。


「ふう……やっとか……」


 ダンジョン本体のある場所から「東」へ出発して……既に二日。かなり森の中央部分に近付いている。中層であって、


 そして……多分、今回の目的である、ドラゴンらしき魔物の魔力を……俺の【魔力感知】が捕らえた。


「強い魔物、多すぎなんだよなぁ……正直、ドラゴンって、個体としてはかなり強いけど、群体だと虫大量とかの方がヤバイんじゃないか……」


 まあ、とはいえ。格別に強いのは間違いないだろう。本来、深淵の森の深層でないと遭遇しないらしい。


「まあ、それが狂乱敗走スタンピードの前兆ってね」


ドゴーン!!


 うざい、虫を薙払う。


 ソードクリステシャンというデカいカブト虫とカナブンの間……みたいな魔物は、外骨格の一部が剣の様に尖っており、それで獲物を斬り刻む。


 ヤツラの身体が軽いため、風を巻き起こし嵐にして叩き潰すのは時間が掛かるのだ。それこそ、森の木々に大ダメージは与えられるけれど、肝心の虫は地に落ちるだけなんてことも多い。


 なので、「爆裂火球」しかも、火力マシマシバージョンが大活躍なのだ。




 観測通り……ドラゴンらしき巨大な反応が三つ。こちらに気付いたようだ。


 ちっ。まあ、ここまで派手に爆発を繰り出してればそうなるか。


「さあ。どこまでいけるかな……」


「正式」でドラゴンを囲う。強度ノーマル。一番負担の無い、素直な発動……だと……。


グアアアアアア!


 おおう。これがドラゴンの叫び声……か。来るね。腹の奥にずしんと……。多分「威圧」とか身動き出来なくなる効果が含まれてる気がする。


ガスン……


 パリン……と割れたりはしないのだが、「正式」が崩れる。一番手近なドラゴンが一番囚われているか。遠くのヤツは既に、「正式」から抜け出した? か。日本でなら、この「正式」の強度ノーマルで全部防げたのに。


 はいはい。


 んじゃ、「正式」の強度二倍。


 お。停まった。


 ドラゴンがピタッと動けなくなる。三体とも。固定出来た……様だ。よし。


 しばらく……放置してみる。お。暴れ……始めた。


 ジタバタと……抵抗を開始した。さすが……ドラゴン。というか、こうして見るとデカい羽根付き蜥蜴なんだよなぁ。正直、ファンタジー世界定番の恐怖の権化……には見えないな。


 色はつや消しの金……と緑が混じっている感じか。


ギギャアアアアアアアー!


 叫びながら。多分、魔術を行使したようだ。なんとなく、「正式」に圧力を感じ……た気がしたけど、強度二倍は砕けることは無かったようだ。


 これ、確か、ドラゴンって、錬金術的に美味しい素材ばかりだった気がするんだよなぁ。このまま粉微塵にしてぶっ殺しちゃったら……魔物なので、ドロップアイテムを残して消えてしまう。それは=実入りが少なくなるということだ。


「なので、ドラゴン討伐する際は、尻尾から斬って保存して、翼を斬って保存して……と上手いこと部位毎に保存する様です。……これは……私の記憶の中でも、伝説の魔術士の技ですが」


 とシロが言っていた。


「正式」内で暴れているドラゴン……まあでも、方向転換が出来るほどの余裕は無い。尻尾とかはみ出ている部分は自由に動かせないからね……。


「ということで「風刃」で」


 まずは尻尾から斬り落とす。


ドバン……


ギガアアアアアアアーーー!


 ずんっ……と音が響く。斬り落ちた尻尾を魔法鞄に収納して、次に羽根を落とす。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る