244:山賊風

「おいおい……これは……」


 ディーベルス様とドノバン様は、早々に王都に旅立ってもらった。


 俺は、護衛を付けると五月蠅い二人、そして後を任されたシグノさんの無言の圧力を華麗に躱して、さっさと、領都リドリスを出発した。


 一人で走る。正直、これが一番移動手段として一番速いんだから、仕方ない。「強化革の服、ズボン」のセットに、コート「帳の外套」「疾走の靴」で、【隠形】を発動すれば、隠蔽もバッチリだし。


 と。


 走り出してしばらくして。街道を外れた山の中に、少々怪しげな集団を発見した。明らかに魔力が高い者が集まっている。


 深淵の森を駆け抜けられる俺にしてみれば、こんな山や森は平地とそう変わらない。なので、ショートカットしようと、カンパルラまで直線で突っ走っていた矢先の遭遇。


「元は天然の洞窟……かな? 拠点に……してるのか。結構長期滞在してる感じだな。リドリス領、舐められてるんじゃ……」


 いや……ここまで奥に入ると……存在自体に気付かないのか……。


 普通に徒歩で移動すれば……領都から七~八時間だろうか。正直、魔力の高い者達が変にまとまっていたので【魔力感知】に引っかかったのだ。

 かなり離れた高台から……見下ろす。全部で十名ちょいか。この地の……拠点って感じだろうか。見張り……か? 二人。


名前 ゲンベス

天職 剣士

階位 17

体力 52 魔力 18


名前 オゾン

天職 戦士

階位 16

体力 48 魔力 17


 あ。魔力が高いんじゃ無いや。ここに居るヤツラの階位が高いんだ。つまりは、ここに高レベルの者達が集まってるということだ。【魔力感知】結構便利だな。


 というか、この数値。かなり高めだ。一般的な冒険者が階位10程度。15以上は一流といっていいだろう。

 見るの忘れたけど、ドノバン様とかは階位30弱とかそのへんじゃないだろうか。


 階位が上がりにくくなっているのは確かだが、戦闘職な人はまだ、比較的上がりやすいんだろうな。


 これ……当りなんじゃね? なんとかの月……の末端じゃないか? だって、領都の冒険者ギルド近辺に居た人よりも階位は上だもの……。


 というか、そうかー末端の者達ですら、この階位ってことは……帝国ってかなり平均階位高いんじゃ無いだろうか……。レベルアップのコツというか、仕組みとかに気付いたヤツがいてもおかしく無いし……そうか、それが賢いと噂の宰相でもおかしく無い。


 帝国は……かなり前から……何十年も前からかもしれない。仕掛けを開始していたんだろうなぁ。宰相スゴいな。目の前に結果として表れない裏方仕事を黙々と。やらす。お金も掛かってるだろうに。必要経費として認めて。


 まあ……。でも。


 それにしても~宰相さん、やだろうなぁ……自分の重厚にして複雑な、決して失敗することの無い作戦群が……俺みたいなイレギュラーに崩されていくんだから。これから。

 

 少なくとも……うちの方に向かってくる……東への手は……潰しちゃおうかねぇ。うんうん。そうだねぇ。うんうん。


「こんにちはー」


「! なっ、なんだ! き、きさまっ!」


「おおー山賊感出てますね。結構前から山賊として、リドリスへの商隊を襲ったりしてたんですよね?」


「テメエー!」


 ガ!


 ブロックで前進を阻み、同時に顎にも当てる。気を失うまで、あっという間だ。こいつは……うん、いらないな。倒れている所に「風刃」で首を落とす。目線も送らない。


「な……」


「何か問われたら、勢いのまま、殺してしまう。馬鹿のふりをして。大事ですよね。そういう流れって」


「どうしたー!」


「騎士団の斥候……じゃねえな」


 数名が洞窟から出てきた。ああ、そういう事か。


「徹底してるんだな。足手まといでも、現地の悪党を手懐けて使ってるんだから。バレないはずだよ。本格的に逃げる場合は切り捨てていけば、最悪、山賊はコイツらのせいにしてしまえば良い」


「!」


 今の言葉に聞き耳を立て、反応したのが一人。階位の高いのは、そいつともう二人。最初の残りが加わって、四人。周りに雑魚四人。


 後はまだ、洞窟奥に四人。か。


「テメエ、何か聞き捨てならねえ事を……」


 うん、そうそう。言ったよ。わざと。君たちがこれまで一度もバレないでここまでやってきていた、その努力を一瞬で無にしていしまう様な、とてもとても不味いことを言ったよ?


 右に。半分の敵を処断……する。何一つ、予兆は……無い。


 無詠唱、無前兆で大きな「風刃」の「大風刃」を繰り出す。


 ズズ……ボト……


「なっ! 他にて……」


 無慈悲な……肉体がズレ、地に落ちる音。そして、血が溢れ出す音が……する。俺はそちらに目を向けてもいない。当然、探すのは……俺の仲間。まさか、俺が一人でここに乗り込んで来たとは思わないか。


 指揮の声を上げていたのは、階位の高いヤツ=多分、緋の月の下っ端だ。「ブロック」で雁字搦めにして、身動きが取れない様にしておく。口の中……古典的なのかもしれないけど、奥歯に何か、魔力的な装置を感じたので、口も閉じないようにしておく。それ以外は……いいか。運ぶのも手間だろうし。


 マーキングした者達に、一斉に「風刃」を逆側から発動させる。喰らったヤツラの顔が全部、後ろを向く。


 うーん。、魔術って、方向とか関係なく発動できると思うんだけど……そうじゃないのかな? 攻撃方向の特定とか、同じ魔術士同士じゃ無いと、結構難しいと思うんだけど。


 立っているのは、ああ。


名前 ゲンベス

天職 剣士

階位 17

体力 49 魔力 18


 彼か。洞窟の中の四人は……うーんと。まあ、ゲンベス君よりも階位は低いし、重要なことは知らないとみた。死んでもらおう。ちょっと遠間だけれど。相手の魔力に合わせて、「風刃」を発動する。


 うん。


 断った。


 よし、あと片付けとか、情報収集とかは、一度領都に戻って、シグノさんにお願いしよう。










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