242:戦略物資

「さて。狙われてるっぽいし、既に敵が居るようですし。ハーレイ帝国の蒼き宰相ラハル・ハーレイさんと彼専属の「緋の月」でしたっけ? 。凄まじい気がするんですけど。それだけじゃないですよね?」


「ああ。ハーレイ帝国は……西の大国だ。我が国と国境を接しているのが、北西にレデフ王国、南西にクオディア沿海州連合だが、その西。大陸中央に位置するのが帝国だ」


「兄上は、一時期、剣術師範としてかの帝国に招待されていたことある。多分、この国で最も帝国の内情に詳しい」


 おお。それはスゴいな……っていうか、その第一人者がこの表情って事はリアルガチでヤバいんだろうなぁ……。


「広大な領地を皇帝が統べている。帝国貴族は領地を持たないからな。貴族は武闘派は全て帝国騎士団に所属、それ以外は高級官僚、高位の役人といった所か」


「報奨制度……ですか」


「ああ。土地を与えぬというのは凄まじい決断よな」


 封建制度の進化系、中央集権化したんだろうな。報奨制絶対王政とでも言うのか。


「帝国十二神将に率いられた帝国騎士団は……この大陸でも屈指の強さだ。我が国の騎士団が同数でぶつかった場合。簡単に蹴散らされるだろうな。帝国騎士団所属の騎士とは何度か……やり合ったことがあるが、ギリギリ……私がどうにかできるレベルだったからな。十二神将が一人、剣のバラン殿と手合わせもしたが……互いに本気にはなれなかった。本気を出すならお互いが命を賭ける場面で無いと決着は着かんと思ったんでな」


 ほほードノバン様、まだ若めだけど、かなりスゴいんだな。


「そしてさらに帝国では……古の魔術、錬金術も復活しつつある……と話に聞いた。もしや、今頃は様々な新技術が花咲いているやもしれん……」


「というか、それ待ちだったとかは?」


「それ待ち?」


「古の魔術、錬金術の復活に成功させて……外部への侵攻を歩み出す……というか、まだ、ギリギリ間に合ってないか……今年辺りにそれらが揃うとか……」


「それは何故だい?」


 ディーベルス様は軍事関係絡みになるとなんか、すっぱり理解力が下がる気がするな……。


「先ほど言った通り、帝国からの仕掛けが、あまりに中途半端、適当だったからです。アレは本当に、適当だと思うんですよ。つまり、本命は絶対に……別次元で進行している。帝国に関して言えば、周辺国をアワアワ言わせているのは、実は……軍備拡大しているため、とか、別の何か、違う手、先ほどの古の魔術、錬金術の復活……とか」


「つまりは。準備が整えば、帝国が本腰を入れて攻め込んでくる可能性が高い……と?」


「順番で言えば、帝国周辺国から、になりますけれどね。多分、侵攻作戦は、電撃戦でしょうから、あっという間だと思いますよ?」


「いくら、帝国周辺の国が、そこまで大国ではないにしても、そんな簡単に……は」


 ドノバン様は本当に、武力での制圧しか頭にないな。これ。


「嫌がらせにここまでの手間をかけてくる、蒼の宰相さんが、本格的に攻め込む前に、国内の不安点、問題点を炎上させないわけがないじゃないですか。それこそ、普通の寝返りとか、偽書とかもう、その辺も使ってきますよ?」


「……そうだな……」


 と、言う感じで、帝国さんと戦う可能性を頭に入れ直して。そこでもう一度。


「という、状況の中、我々はポーションをこの国で流通させていかなければなりません。下手すれば、全てを備蓄、王都の宝物庫にぶち込んでおくなんていう「バカが脳みそ蕩けさせて死ぬ直前か」なんていう判断にならぬよう、頑張っていただきたい。特に、商会長であるディーベルス様。そして、それをサポートいただくドノバン様。お二人のお父上でもある辺境伯閣下にも何とぞ、と」


「ちなみにですが、個人的に。貴族優先、王族優先という思考が私に備わっておりません。ですので、今後、王都で直接王族等の上級貴族と話をするのは、御三人様……と言うことになります」


「あ。ああ」


 ドノバン様は、今の俺の物言いですら、ヤバいと思ったのだろう。思わず頷いている。


「ポーションは現場に行き渡らなければ意味がありません。必要な者に必要な物を。それが守れないのなら、この国にポーションを与えないという判断に至る可能性がある……と覚悟しておいていただければ……と」


「そ、その場合……それこそ、帝国にポーションを……という可能性もあるのだろうか?」


「ああ、そうですね。当然、あります。私は行商人ですから、さっさとフランカ商会を離れて、帝国で商いをすれば良いわけですから」


「……」


「まあ、そう簡単に、そうならないように、フランカ商会経由での取り扱いをお願いしているのですけれどね?」


「判っている」


 それこそ、俺個人の商会でポーションを売っていて、俺がもの凄く嫌な思いをしたとする。そしたら。即、こんな国から離れるだろう。

 そして、帝国とは言わないものの、他国でポーションを売り始めるハズだ。この世界にあのレベルのポーションしかないのなら。数日後には普通に流通させることも可能だと思う。


「その辺の……王族及び、好戦的な貴族が「勘違い」し始めないギリギリのラインからポーションを普及させていきましょう。急がなければいけないので……とりあえず、ディーベルス様にはこのまま、王都へ向かっていただいて。出来ればドノバン様も。そして、早急に王族に動いていただく必要は……ありませんか?」


「……あるだ……ろうね」


「父上の説得は……我々二人居ればどうにかなるか……」


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