241:嫌がらせ

「ああ……判った。では、オッド。この机上の地図。これを見てどう思う?」


 ドノバン様が顎で示す。おお。そういうジェスチャーもカッコイイね……。


「小さい魔石は子息子女が謎の病魔に襲われている家。大きいのが凶作をもたらした嵐の発生した場所。そして、赤い魔石が小規模狂乱敗走スタンピードの発生した場所になります」


 さすがに、これだけ見せられては何となく……しか判らないだろう。置いてあるの魔石だし。


「……これは我が国が満遍なく災厄に襲われている……ということですか……しかし、それにしても……面白いほど等間隔に……偶然そんなことは……」


「ああ。あり得ないな」


「なので、出てきた結論は、この国は壮大で複雑、多彩な謀略に襲われているということでしょうかね」


「!」


 オッドの顔が驚愕で歪む。


「その顔は……「裏」でもこれらの情報をキチンと掴んでいない様ですね……」


 シグノさんは悔しかったのかもしれない。オッドの表情を見て、若干表情が動いていた。


「というか……そうですか。王家が貴族を弱体化する為に仕掛けて来たのかな? と思ったんですけど。違うみたいですね。オッドさんは……仕掛けてくる相手の予測が付いたみたいですし」


 俺の指摘に……ギクッと……オッドが若干後ずさる。


「誰だ。我々の敵は。それくらい問題無いだろう。どうだ。リドリス家は王家に歯向かう算段をしていたか?」


「い、いえ……ま、まず、王家は決して、自国の貴族の力を削ぐために、このようなやり方は行いません……そして……その……」


 可哀想なオッドくん。


「こ、これら……全てが……もしも、全てが敵方の策略……ということになりますと。そんなことが出来るのは、私が知る限りでは……世界で一人……。


ハーレイ帝国の蒼き宰相ラハル・ハーレイ。


そしてその策を実際のモノにする者達……「緋の月」。


我ら「裏」世界では最強最大と言われております。この「蒼と緋」は……世界のあらゆる戦場を狙い続けていると言われておりましたが……我が国の様に何も無い所にまで仕掛けて来ていようとは……」


 オッドの冷や汗が……落ちる。深謀。そして複雑に絡み合う策略。自分如きでは予想も出来ない……。


「どうでも良いんですよ、多分。その宰相は……自分の部下の班長を数名呼んで、


「君は病気担当」

「君は嵐担当。魔術士だし」

「君は狂乱敗走スタンピード担当。はい、これ、魔道具ね」

「君はトラブル発生担当。必要なモノはその時次第で請求して」


って感じで、為すべき事と、方法を伝授して

「さあ、みんな、五年間頑張って」

……なんて感じで送り出したんじゃ無いかな?」


 全員が俺の顔を見る。いやだって、確かに仕掛けて来た事自体はスゴく深謀だと思うけどね。


 こんな綺麗にバレちゃう時点でちょっとどころか、向こうは「嫌がらせ」「足止め」ができればなんでも良かったってことじゃないのかなー。


「明確な目的なんて後付けすれば良いのですから。まずは、とにかくマイナスになれば。そこに帝国のためとか、王国に仇為してやろうなんて大義も無いし、義理や人情なんていう人間的な思考も一切介入しない。さらに商人のような打算や合理性なんていう計算も存在しないから予測もしにくい。こうして後付でしか行動に気付けない。純粋な「嫌がらせ」が発生するわけです」


「ここまで複雑な……策が……嫌がらせ……」


「ええ。もう。とにかくやれることはやる。多分指示を出した宰相? は、細かい部分なんて命令した順に忘れているかもしれませんね。で。負の現象は発生してしまえば連鎖しがちですから。同時期に幾つもの策を講じれば、何かしらは効果倍増が望めますよ。今回は……緋の月が思ったよりも優秀で、一冬で一気にトラブルを発生させすぎたんじゃないでしょうかね。宰相の人もちょっと予想外……だと思いますよ」


「それだけ、我が国が……騙されやすいと……」


「いえ、ドノバン様。ああ、そうか。この国の国民は……唯々人が良いのかもしれません。それこそ、「黒」や「裏」という方々の数も足りていないでしょうから、完全に「偽った」敵を見破ることは不可能でしょう。行商人であったり、冒険者であったり。仕掛け人が「魔物が来た!」と言えば、狂乱敗走スタンピードだっ! とそれを疑わず、対応するし、嵐だ! となれば、まさかそれが人の手によるモノ……とは想定できない」


「ああ……そうだな。我が国の者は皆、善良で良い者が多いと思う。他国に行くとなおさらそう思うよ。帝国を訪れた時も……どこか黙々と働いているだけに思えた。さらに、都市同士で抗争し続けている国も多いしな」


「つまり、その宰相は、とにかくローレシア王国の国力を削いでおきたかった。それだけでしょうね。見事というか、国民が素直すぎて、結果が綺麗に反映されすぎて、その策略が早期にバレたワケですけど」


 ふう……誰とも言わず……全員が息を吐いた。


 純粋にやられっぱなしなのだ。これはそう簡単にやり返すことも……多分出来にくい。ただ、無策というわけにもいかないだろう。


「オッド。ここで見て、聞いたことを、急ぎ王都で伝えよ。王家の仕掛けでないのなら、なおさら急げ。そして「裏」で確認の上、早急に対策を願い出よ。難しいとは思うが……敵が判明しつつある以上、これはもう、戦争である。果断なる判断を求むとお伝えせよ」


「はっ!」


 ぶわっ! おお! まるで忍者の如く、オッドが消えた。今のところはそっち系の感じで格好良かったな。

 気配も消えた。早いな。あっという間に魔力も小さくなっていく。


「さ。ということで、今日の本題、ポーションの話をしましょうか」


 ドノバン様が「本番これからかー」という顔でこっちを睨んできた。俺のせい?

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